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金剛不壊であれ  作者: night
裏・序章
1/2

00:始まりの終わり

思い付いたのでひとまず一話だけ。

 こんこんと降りしきる純白の雪に赤色がポツリ、ポツリと線を引いていた、その先には男が歩いていた。


 男は傷を負っていない左手で我が子を抱え、剣を支えに廃墟と化したかつての都市を歩く。


 いつもならこの怪我を治療し我が子を抱いて微笑む妻はいない、この前の悪神の使いの襲撃で怪我をし、傷口から入った毒を解毒出来ず死んだ。


 遺体は持っていけなかった、悪神の使いが蔓延り人が淘汰される世界では役に立たない()()を持つことは赦されない。敵に気付かれるため泣くことすら出来ない。


 守ると誓った、幸せにすると誓った………… でも守れなかった。


 何十と間違った人生を送った、何百と無為な人生を送った、何千と愛されようとした、何万もの人生で君と世界を救おうとした。


 試せる事は全て試した、あの気のいい友達(ともたち)と手を取り何度も悪神を倒す方法を考えた、考え尽くした、全て実行した…………


 それでも倒し切れなかった、あと一歩が足りないのだ。


 友達とあの遺物と連携すると力の差があるため自分の力を出しきれない、かといってバラバラに戦えば効率はより下がる。自分一人では倒しきれない、他の人間はあの戦いについていける程の才能がない。


 どうすればいいのだろうか………… いっそ諦められればいいのだがそれだけは選べない、彼女を幸せにすると決めたのだ。


 途中道に座り込み、ぎこちなく右手用のハサミで即製の包帯を作り止血をする。


 血がでないのを確認し足跡を誤魔化し、比較的まともな廃墟に入り腰を下ろし、我が子をゆっくりと布の塊に置く。


 騒がしかった自分の周りは始まりの時のように静かだ、逆恨みで何度も切り裂いていた者といや平民と笑っているのを聞いたら始まりの私へ嗤うだろう。


 弱くなったと言うだろ、でも一度知ったら人の温もりは忘れがたい。


 外から分からないように錯乱の結界をはり、直接的に見えない位置で剣を支えに浅い眠りにつく………………










 夢を見る、悪神を倒し友達と遺物と妻と子と自分が笑っている暖かな夢を。妻が子に私達の馴れ初めの、初めて送った鈴のついた簪を子に見せている夢を。遺物と殴り合い競う夢を。幸せな夢が泡のようにぽつりぽつりと沸いて、割れる。






 シャラシャラと鈴の音が聞こえる。


 意識が覚醒し左手に剣を握り外を伺う、だが誰もいない。魔力を使い探知するがどこにもいない。


 そのはずだ、そのはずなのに今自分の振り向いた先に女がいる。あり得ない、自惚れでも何でもなく個として自分より強い人間はいない、その自分ですら今の世界を生き抜くのは運に頼るしかない。


 ならこいつは人の形をした魔物だ、横凪ぎ一発で仕留められるだろうか、利き手が使えない以上戦いは長引く。まずは子を回収しなければ、魔物の口が動く、一刻の有余もない。


 剣で切り払うも素手で止められる。利き手でないとは言えこれを止めるか………… これは死んだな。


 魔物の口が動き出す。


 「まずは謝罪を、この世界を救うためとは言えあなたに無理を強いたことを謝らせてください」


 はっ? 何者だこいつ、いや何様だこいつは。よく目を凝らす、悪神とにているがそれよりもより清らかな物を感じる。


 「まさか、貴様九大神か?」


 「ええ、その通りです。私は九大神の一人、夢と現を司る者ハンネローゼです」


 「神が今さら何のようだ、いまさら救いに来たか?」


 「返す言葉もありません、私としてもあれを好きにはしたくありません。ですが私達は主神の契約によってこちらへの干渉は、治癒術もしくは部分的な霊の現出だけです」


 「はっ、全く情けないことこの上ないな神ともあろうものが」


 「その通りです、かつて人だった時と変わらない愚か者です」


 「はあ………… 俺の毒舌も丸くなったものだな。で、なにようだ? 謝罪でないほうのな」


 「まず結論だけいいます、この世界は私が作り出した限りなく本来の様相を再現した夢です。貴方には本来の現実に戻り現実の世界を救ってもらいます」


 「……………………………………………………本当なのか、本当これは夢なのか? 彼女との…妻との思い出も、この子もまやかしなのか」


 「いえ、現実でも同じ行動を取れば夢と同じ帰結になります。故に現実でもあります」


 「そうか…………………………… だが…………… どうすれば救えるのだ? 俺とて取りうる策は全てとった」


 「本当は、貴方の一回目の世界であの者は倒されました。しかしあの者は死する前に過去を改変し、自分を倒しうる者が存在しなかったことにしようとしました、しかしあなたは親の過保護故に殺されなかった。私達九大神はまだ人である、あの者を止められません、しかし貴方以外の人間ではあの者の放つ使いを打倒出来ないのです。ですから貴方がこの世界を救いたくなるように何度もこの世界を作り出しました」


 「成る程な、始めから乗せられていたと」


 「ええ、申し訳ありません」


 「全く腹立たしいことこの上ないな、だが乗ってやるその話。要するにだ、厄介な犬を殺し、友達に殺されればよいのだろう」


 「その通りです。ですが一つだけ朗報のようなものです、貴方の友達が初めてと同じように動くならば何をしても大丈夫です」


 「それはつまり、死ぬはずの者を救えると?」


 「その通りです」


 「そうか………… 少しだけ楽になったな。そうだこれだけは頼みたいのだが、この子を現実には連れていけないか? それぐらいはいいだろう」


 「貴方の側には無理です、連れていくならこの子は孤児として生きていくことになります、運が悪ければ一日で死にますよ。それでもですか」


 「ああ、この子には一分一秒でも長生きしてほしい、エゴだとしてもだ。それにだこの子は俺と妻の子だそう簡単には死なんよ」


 「そうですか、ならば安全なところに飛ぶようにしましょう」


 「有難い」


 「ありがとうございます、こんなことに付き合わせてしまい。私達があの糞に反抗できればあなたがこんなことする必要はなかったのですが…………」


 「いや、俺としてはそちらよりも今の方がいいな。初めての人生はあまりに味気なかったからな」


 「そう言ってもらえると少し救われますね、では世界を頼みます」


 「ああ、任された。自分のためにも頑張るさ」


 「《其は虚 たった一つの真もなく たった一度の嘘もない 真にして嘘 其は狭間 魂踊る幽世 肉欲蠢く現の世 二世の混じりし混沌の世 其は映らぬ鏡 表裏なければ境もなく 虚を実に変ずる その様まさに世を欺く神の御技 さあ夢も潰える 望みの虚を実へとせよ 願いの鏡(パンドラ)》」

楽しいです。

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