表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
交わす図書カード  作者: 海埜ケイ
1/2

草真編



 パラリ、パラリと本のページを捲っていた。

 小さい頃から空想に浸るのが大好きで、時々自分でも小説を認めたりする。

 反対に人と話すのは苦手だ。

 言葉が支えてしまうし、相手に自分の言いたいことが伝わらない。

 長い髪を耳の下辺りで2つに結び、赤いフレームの眼鏡を掛けた私。

 制服の校則を破ったことは一度もない。皆勤賞なのがちょっとした自慢。


「今度はこれにしよう」


 厚みのある本を手に、受付カウンターに行く。

 ここからが緊張ものだ。




「す、すみません」


 図書室の受付カウンターに座るのは、二組の図書委員。鳴神 遊真くんだ。

 二組のムードメーカーと言われ、気さくで明るい性格だ。色素が生まれつき薄く、柔らかな白黄色の髪に灰色の瞳。顔立ちも学年で上位に入るくらい整っているのに加えて、サッカー部なので女子からの人気はぶっちぎりだ。

 そんな人気者のと話せるのは、図書室の受付カウンターだけ。

 彼は委員会の仕事をやっているだけだが、私にとっては貴重な一時だ。

 私のオドオドしい声掛けにも笑顔で応えてくれる。


「貸し出しですか?」


「は、はぃ。そうです・・・」


「分かりました、生徒手帳を出してください」


 私は胸ポケットから生徒手帳を出して手渡した。

 学校図書館では、昔ながらの紙の図書カード式で、利用者の名前を手書きで書いて日付印を押さなくてはならない。

 中学になっても、このシステムが変わらないことに最初の頃はとても驚いたが、今では暖かみを感じていた。

 返却時に、利用者の名前は消してしまうが、借りる前に図書カードに黒塗りがあると、自分が好きだと思った本を別の誰かが読んでいる。そう思うだけで嬉しくて嬉しくて堪らなくなる。

 鳴神くんはカリカリと読みやすく綺麗な字で図書カードを書いてくれた。

 図書カードを図書ケースに入れて、鳴神くんは本を持ち上げた。


「はい、どうぞ。草真さん」


「はひっ! ど、どど、どうして、わた、しのなまぇ・・・」


「さっき生徒手帳を見せてくれたでしょう? それに、草真さんはよく本を借りていってくれるから、よく覚えてるよ」


 サラリと口説き文句を言われたことにも驚いたが、鳴神くんの無意識天然笑顔に心が持って逝かれそうになった。

 天然タラシ、恐るべし。

 本を受け取り、生徒手帳も返して貰う。

 これで、受付カウンターにいる用事はなくなった。

 けど、一言だけ・・・。


「な、なりゅかみくんっ!」


「ん?」


「わ、私も、知ってる、よ。図書委員で、仕事、しっかりしてる。鳴神くん、凄く嬉しい、から・・・・」


 これが精一杯だった。

 私は頭は90度に下げて深々と礼をすると、早足で図書室から出ていった。

 逸る鼓動が喉奥まで迫り上がってきて息苦しい。

 けど、言えた。

 話せた。

 鳴神くんに伝えられる一世一代の会話文を。



――いつも丁寧に仕事してくれてありがとう。



――まじめに受付をしてくれてありがとう。



――図書委員になってくれてありがとう。



 そして、



――名前を覚えててくれてありがとう。



 言いたいことはまだまだたくさんあったけど、今はこれが精一杯だから。

 また明日も通わせてください。





~・~

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ