表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空気色の羽の天使  作者: 惟都季
1/2

プロローグ

「それじゃあ、母さん。また明日来るから。」

「えぇ、ありがとう。」

 微笑んだ母親に笑みを返して、白いカーテンを引く。

 部屋の中を見回すとどのカーテンも閉じられていて、その中をなるべく静かに歩いてドアを開けた。

 ふう……

 無意識にため息が出て体の緊張が解ける。

 特に意識していないつもりでも病室というのは緊張するらしく、毎回扉を閉めては肩が重いと感じる日々だった。


 僕がここに来るようになってから早一週間。

 突然体調を崩して入院した母親の見舞いに病院に足を運ぶ毎日だ。

 父は単身赴任で海外だし、僕は一人っ子。

 長い間ずっと面倒を見てもらってきた身だ。

 これくらいで恩返しができるなんて思わないけれど、やらないよりはずっといい。

 そういうわけで、最近の僕は家、学校、病院を行ったり来たりしていた。

 始めは右も左も分からなかった家事も、最近では少しずつできるようになってきた……はずだ。

 不慣れな家事をする度に、母さんは仕事をしながらこんな大変なこともしていたのかと、尊敬の念ばかりが押し寄せてくる。

 退院してからも少しずつ手伝おう。

 入院の原因が過労だと聞いていたから、というわけではないが、僕は密かにそう決意していた。


「さて、帰る前に買い物しなくちゃ……。」

 小さく独り言を呟きながら、廊下を歩いてエレベーターを目指す。

 窓から西日が差し込んできていた。

 最近は暗くなるのが早い。

 肌寒くなってきているし、秋が近くなってきているようだ。

 明日、母さんに暖かそうな服を届けてあげよう。

「早く帰って洗濯物取り入れ……」

 忘れないように自分に言い聞かせるつもりで呟いて、言葉が途切れた。

 動かしかけた足も同時に止まる。

 窓から、別の病室の窓が見えた。

 その窓は開け放たれているようで、真っ白のカーテンが外に出て揺れている。

 けれど、僕の視線の先に映っているのは、白いカーテンではなく……そのカーテンの隙間から微かに見える影だった。

 遠くからだとはっきりとは分からないが、肩にかかるくらいだと予想できる黒髪に、カーテンと同じ真っ白の洋服。

 真っ白の中で微笑むその影は、まるで“天使”のようだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ