第98話:都市セイレル到着──うさぎの導きに従って
16日目:都市セイレルの城門前
「ようこそセイレルへ。商人かい? 冒険者かい?」
セイレルにつく前に、アウトは腕輪に返しておいた。
屋根の上に居るフォルトゥーナは見た目愛玩魔物なので大丈夫だが、アウトは一応ゴブリンだし。
魔鳥編隊は今回戻さず、ある程度見回らせている。
特に、近くに有る鉱山の周囲を、だ。
何かあれば<レッドカード>で戻させるけど。
「どうも。冒険者です」
馬車を降りて、冒険者ギルドカードを提示する。
「人数は二人、冒険者パーティー……Fランクパーティーか」
「おお。この馬、魔物か! 貴方がテイムしているので?」
手の空いている門番が話し掛けてくる。
もう一人は、少し落ち込んでいる?
「ええ。テイム系スキルを持っていまして。
屋根の上にも、角うさぎが居ますよ」
「この馬達なら、さぞかし馬車も安全でしょうな」
「ええ。自慢の子達です。
テイムした魔物連れでも泊まれる宿は有るでしょうか?
金銭はあまり問わないので」
「そうですねぇ。なら風石の宿、火打ち石亭辺りがオススメとなります。
場所は──」
ふむふむ。
ちょっかいかけてきた訳ではなく、単に好奇心の強い親切な門番なだけか。
「なるほど、ありがとうございます」
握手ついでにコインを渡す。
多分、多めより、気持ち程度の方が良いだろう。
「……はい。レッドさん。確認が取れました。
セイレルへと歓迎します」
うーん。
どうやら何かを待っていたようだが、ランクの低い冒険者だったから落胆した?
ならば高ランクの冒険者を待っている?
俺はEランクで、パーティーではFだからな。
それにはそぐわないだろう。
そして高ランクの冒険者が必要な事象が起きている……か。
としたら、鉱山周りの施設に活気がない……どころか人気がないことも関係しているのかな?
<超直感>に引っ掛かって魔鳥達を向かわせたが、正解だったかな。
まずはギルドに寄って『キュ(ちょっとまって)』
『どうしたフォルトゥーナ。何か気にかかるのか』
『キュキュ(先にあっち行きたい)』
馬車に戻り、速度を緩めて歩かせていたらフォルトゥーナが待ったをかけてきた。
あっちは……鑑定協会(初出10話)?
鑑定。鑑定書を作れってことか?
『キュ(そんな感じ)』
ふむ。
フォルトゥーナの<幸運>と勘は凄まじいものがある。
俺の<超直感・観>よりも、不確定事象に関して強い。
『先に宿を取るのは大丈夫か?』
『キュキュッ(それはへーき)』
なら宿を取るか。
屋根から降りてきたフォルトゥーナをモフモフ抱き締めながら、宿を取りに行く。
ユニは馬車で待機。
仮面つけてても、美人さん過ぎるからな。
──────────
門番に薦められた宿のうち、火打ち石亭という宿を取った。
テイマー御用達ではないが、高級路線のため色々と注文が効くようだ。
ここ、都市セイレルでは、鉱物系の名前がついた宿が多い印象が有るな。
ちなみに選んだのはもちろんフォルトゥーナだ。
風石の宿には拒否感を示した時点でスルー確定である。
火打ち石亭では大きな部屋を1つ取り、とりあえず一泊分。
現在時刻はお昼時。
朝早く出て、森を抜けて、街道を飛ばしていたが時間はかかった。
まあ、それでも早いくらいらしいが。他と比べたら。
昼食を求める客目当ての屋台を軽く巡り買っていく。
フォルトゥーナは<レッドの腕輪>内で、フォルトゥーナ司令官モードだ。
ユニとお手手繋ぎながら、美味しそうな屋台でテイクアウトし進んでいく。
『レッド様。鑑定協会に行っても大丈夫なんですか?
隠蔽が出来るとはお聞きしましたが……』
『ああ。大丈夫だ。
既に何度か隠蔽出来るか試してるし、どうやら必要なことみたいでな。
多少の金銭はかかるが、必要な出費だろう』
『大銀貨1枚って、けっこうな出費だと思いますよ?』
『言い方悪いけど、お金はある程度有るからな』
大体10億エン位です。
最近さっぱり、お金の話し出てないような。
必要なものや装備は作れるようになったしな。
おっと。ここだな。
「ようこそ。鑑定協会セイレル支部へ」
「本日は、私の鑑定と、鑑定書の発行をお願いします」
大体どこも似たような内装のホールを歩き、ブースに向かう。
ギルトカードと、大銀貨1、銀貨1を提出。
既にどんなスキルを表示させるかは決めている。
俺のスキルは、低レベル・低ランク冒険者にしては高いし多すぎる。
スキルのレベルはともかく、数は問題になる。
そんなひょいひょい獲得できるものじゃないからな。
なので、<剣術>と<投擲>を主として。
<盾術><回避>を入れて。
氣力系と魔力系、魔術を不自然でないように入れて。
<料理>も入れとくか。
[身体]系は劣化させて表示。
[特殊]系は<索敵>とかかな。
エクストラスキルに昇華したスキルの下位スキルを追加して。
偽装用の<魔物調教>を忘れずに。
最後に、耐性のうち、<精神耐性>と<呪詛耐性>はそのまま表示させる。
これはフォルトゥーナのお願い通りだ。
耐性のレベルもそのまま。
高過ぎるけど、ギフトという先天的スキル・耐性だと誤魔化せるので、そういうことにしちゃう。
「これが鑑定結果です。
ランクにしては、スキルのレベルが高いですね。
まだ冒険者業は日が浅いのですか?」
「はい。冒険者ギルドに登録をしていますが、依頼よりも武者修行をしていまして。
日も浅く、常駐依頼しか受けてないのでランクはまだ低いのですよ」
よし。鑑定結果もきちんと、隠蔽データを反映しているな。
エル、幾つかの隠蔽データを残しておいてくれ。
エル:了。ラベルを付けて保存しておきます。
ラベル? ああ、こんな感じでか。
ラベルが有ると、視覚的に分かりやすいな。脳内データだけど。
「こちらが鑑定書となります。ご確認ください」
「はい……。ありがとうございます。
では、これで失礼します」
では本題のギルドに向かおう。
鑑定協会に来るまでに、市民の話を盗み聞きしたり、放ったネズミ達から幾つか情報は仕入れているが。
どうなることかね。
──────────
「……よし。査定が終わりました。
薬草類の採り方や、毛皮の質も良かったのでプラス査定になります。
こちらが査定内容です。ご確認ください」
「……。ではこれで清算をお願いします」
買い取りカウンターの受け付けに、査定表を返した。
使わない素材や、討伐証明を卸していく。
ある程度のランクは有ると便利だし、小金も手に入れておきたい。
そしてこれも、フォルトゥーナ司令官の指令の1つだ。
6万エン程受け取り、受付嬢のいるカウンターへ向かう。
「すみません。ギルドカードのチェックをお願いします」
「はい。承りました」
冒険者ギルドに着いたら、ギルドカードを一度渡しチェックしてもらうことで、僅かに信頼ポイントが付き、ギルド側は冒険者の移動を把握できる。
土着の冒険者には余り馴染みがないが、旅をする者や、特定のコースを回る者は行うらしい。
「レッドさん。Dランクに上がることが出来ます。
パーティーメンバーのユニさんも、Fランクに上がることが出来ますよ。
手続きしますか?」
「はi「どうなってやがんだ!」」
おや。
フラグが立ったようだ。
宿について。
火打ち石亭ではなく、風石の宿を選択した場合。
『おお! 見事な馬だ。
この馬達は私にこそ相応しい。
そうは思わんか?』
アホ貴族フラグでした。




