第61話:東区画の蚤の市──夜間行われる別名闇の市
12日目:交易都市ハラスラ:東区画の市
おおう。
明らかに雰囲気が違うな。
雑多な印象の有った、昼に行われた北の蚤の市。
こちらは、薄暗く、どこかひっそりと。
しかし金と暴力のにおいがする。
東区画で行われる蚤の市は、夜から本番ってのは間違いないな。
売る方も買う方も、怪しい奴等が一杯だ。
そして、衛兵も居ないがスリもいない。
スリなんて小悪党、ここじゃあ生きられないんだろう。
その代わり、用心棒や、威圧する役が居る。
闇ギルドって雰囲気もあるな。
似たような記章を着けた人間と店が有る。
そこは一旦避けておこう。
値段は張るが、良い品がある。
当たり外れがかなりデカいが……、おお、良い毒薬だ。
地味な半仮面と、青い髪をフードに隠して店を見ていく俺は、見事に埋没している。
周りの客もこんなものだ。
あと明らかに貴族が居るし。
勿論関わらないがな!
明日の奴隷市の前祝いってとこかね。
「これを」
「取り扱いには気を付けな」
最低限のやり取り。
実際にこの毒薬は強そうだな。
<火黒蠍の抽出毒>
<青黄縞蜂の麻痺毒>
<マンドラゴラの根>
マンドラゴラさんは、まぁ、ノリだ。
マンドレイクではなくマンドラゴラだ。
人型ではない、ナス科に近い植物だな。
魔物の死体ってことでもある。
幻覚など、特に精神系の効果が高い素材だな。
煙玉を改良するか。
ついでにマンドラゴラさんの情報を収集。
今の俺では魔物として創造することは出来ないが……うむ。
植物系魔物のデータを増やせる。
ふーむ。
色々あんねぇ。
っと、さっき見掛けたアホっぽい貴族(疑惑)が突っ掛かってるな。
騙されたのかね。
蚤の市ってのは、鑑定協会にきちんと鑑定してもらっていない品ばっかだ。
そもそも、この闇市ってのは、鑑定協会に鑑定されては困る品ばっかを扱ってる。
その代わり、当たり外れはデカいは、呪われてるは当たり前。
後から文句言うのは筋違い。
騙される方が悪いという空間だ。
現に闇ギルドに引っ立てられてる。
「私を誰だと思ってる!」
「黙れ。お前は取るに足りない存在だとは分かっている」
うわー、耳打ちされて青ざめてる。
目元だけ隠したマスクをしてるから、分かりやすいなー。
顎の贅肉プルプルしてるな。
あー、成る程ね。
そもそも騒いでどうにかなるような、影響力の大きい貴族なら、騒ぎを起こさないようにするよな。相手側が。
つまり、アイツは貴族だけど、そこまで影響力は無いのか。
というか、嫡男ですらない、単なる三男かよ。
そこまで知られてんのかー。
すげー、闇ギルドの情報収集能力。
ネズ公どもはダメだな。
こっそり、集めた情報を掠め取ろうとさせたけど返り討ちに有った。
やはり、闇ギルドに関わるのは止めておこう。
地力も足りなすぎるし、髪も顔も変えてるとはいえ、危険は避けるべきだ。
<直感>先生や、ちょっと眠たげなうさぎさんの先導に従い、危険なルートや、フラグを避けて進む。
いやー、何あれ。貴族令嬢だろ。
なに、ここで貴族令嬢フラグなんて有るの?
前の町で、貴族冒険者に追い掛けられたばかりなんだ。
止めて欲しいぜ。
歩くの止めなかったら、曲がり角でぶつかるところだったわ。
「おい! そこの青髪!」
自分に指を指してみる。
「そうだ! 緑の髪の女を見なかったか!」
「……緑で、高いヒールの女ならあっちに」
「それだ! ありがとよ兄ちゃん! 行くぞ!」
声も変えていたから大丈夫かな。
ここで正義感の強い奴なら、巻き込まれていくんだろうよ。
勿論安定のスルー。
より強く、<隠者の半仮面>の効果を発し、埋没していく。
ちなみに、さっきのは正しいルートを教えておいた。
なに、その先で女はやけにキラキラした男にぶつかったみたいだから、大丈夫だろう。
何がとはいわないが。
少し慌ただしくなった闇市。
そろそろ抜けるかね。
朝方近くまでやるとはいえ、俺は寝るのも重要なので、てっぺん回る前に帰るとしよう。
宵の口は大分回ったしな。
っ!
強く<直感>が反応した?
しかもこれは……何だ?
強いて言えば、共感……か?
ここは、武器を並べてる。
どれも、曰く付きの品ばかりが並ぶ、雰囲気の悪い店だ。
「おっ、あんたァ、呪いの武器に興味あんのかァ?」
「……ああ。見せてもらっても?」
「勿論だ。金がありゃー、なんの文句もねェ。ご自由に見てけよ。
ただし、魅いられねぇようになァ」
残念。既に魅いられてるよ。
一部錆びた鉈。黒い弓。赤く染まったナイフ。穂先の欠けた槍。気味の悪い斑点の付いた石斧。薄く光る針。etc.etc.
etc.という数はないけれどね。
幾つかはパチもんだ。
血を塗って乾かしただけのもある。
俺が魅いられ、そして俺が見出だしたものは……ナイフ。
「ほう。わかんのかアンタ。ソイツは金2、大銀3だァ」
「……良いだろう」
「おゥ? 即決かい? 値切んねェのかよ」
「ああ。このナイフなら、適正どころか安いぐらいだろうよ」
「そうかィ。そいつァ良かったよ。確かに受け取った。取引成立ってなァ。
そのナイフ、鞘に納めとけばちっとは声が小さくなるぜ」
「ああ。ありがとう。鞘に納めとくとしよう」
赤い刀身を、白い鞘にきちんと納め、懐にしまう。
「では失礼する」
「あァ。達者でな。この都市でやんなよ? やんなら余所でやることだな」
「そんなに気弱じゃない。やるときは、僕が選ぶさ」
「ピュー♪ 良いねェ、その気概。まっ、頑張れや」
懐から聞こえてくる声を無視しつつ、闇市を抜け、宿に戻る。
「お帰りなさいませ」
夜でも働くコンシェルジュその2。
交代するわな。そりゃあ。
「夜分にすみません」
「夜食は御入り用ですか?」
「いいえ。シャワーを浴びたら寝ますので。洗濯はお願いします。
昨日と同じ場所で宜しいですか?」
「承りました。同じ場所に置いておいて貰えれば対応致します」
気持ち小声で話す。
防音がしっかりしていると言っても、マナーは大事だ。
チップを指で弾いて飛ばす。
<投擲>による補正が入るので、ばっちりコンシェルジュその2の胸ポケットへとチップイン。
「御休みなさいませ」
全く動じることがなかった。
流石、コンシェルジュは肝が据わってるね。
個人風呂に入り、シャワーと水魔術でさっぱり。
さぁ、対話と行こうかお嬢さん。
注意:ヒロインちゃうで。




