第55話:黙って待つ選択肢など存在しない──なんだろう、この視界隅のキャンセルボタンは
この回、一度データが飲まれました。
9日目:ゴブリンの集落跡地
いきなり、配下の魔物達が苦しみ出した。
──エル、全方位に厳重警戒! これは、来たか!
──エル:警戒網は構築しています。魔物達は、存在昇華するものと判断できます。
やはりか!
全員、その予兆がある。
想像以上にバグったアウトすらも、変化が有るぞ。
試験的に名付けた魔鳥達も、新たなスキルを覚えたため、航空戦力として換算できた。
マジで属性攻撃覚えたよ……。
勿論エルさんがラーニングしたため、氷と雷を少しだけ使えるようになった。
魔術ではなく、スキルとして、だが。
……?
ランクアップによって、魔素が動いてるな。
魔素を取り込んだり、吐き出したり、まるで呼吸のように魔素が動く。
その呼吸毎に、魔素の大きさが、増えていく。
! 今、<超直感・観>がアイデアを伝えてきた。
魔物は、魔素によって強化される。
だが、強化にも力を使うため、進化に全てのリソースを注げない。
なら! 俺がやろうぜ!
俺は魔素を扱える訳じゃない。
あくまで、使えるのは魔力だ。
だが、魔素は感知できるし、スキルによって、魔素を操作して魔物を創造した。
ならば、出来る。
そして、この魔物達は、俺が創造した魔物だ。
他の魔物ならともかく、コイツらの全てを把握し、1から構築したんだ。
出来ない筈がない!
イメージを叩き付ける。
そのイメージをエルが濾し取り、掬い上げ、より効率化。
<レッドの腕輪>による魔素吸収機能に干渉。
及び、保有魔素を魔物達にぶっこむ。
その際に、それぞれに合うように可能な限りの加工を施す。
ただ進化を待つなんて、らしくねぇ。
さあ、お前ら、強くなれ。
更に俺が、お前らの成長を加速してやる!
──────────
「うおおおおおおお!!!!!!!」
おお! ランクアップが完了したぞ!
魔素によるベールで、身体が変態していく仮定は見えないようになっていたが、そんな配慮は全力で無視し、感知機能全開で情報を得る。エルが。
「よくやったぞ皆! ランクアップにより、更に力を得たな!」
皆、自分の身体を見たり、確かめたりしている。
エル!
魔物達のステータスを! 簡易的で良い!
エル:了。表示します。精査した情報を後ほど、マスターとそれぞれに送信します。
【ステータス】
[魔鳥編隊]
個体名:炎
種族:炎鳥(鳥種)
ランク:3
個体名:氷
種族:氷鳥(鳥種)
ランク:3
個体名:風
種族:風鳥(鳥種)
ランク:3
個体名:雷
種族:雷鳥(鳥種)
ランク:3
[ゴブリン部隊]
個体名:センシ
種族:ゴブリン・戦士(ゴブリン種)
ランク:3
個体名:キシ
種族:ゴブリン・騎士(ゴブリン種)
ランク:3
個体名:ソウシ
種族:ゴブリン・槍士(ゴブリン種)
ランク:3
個体名:トウゾ
種族:ゴブリン・盗賊(ゴブリン種)
ランク:3
個体名:シレイ
種族:ゴブリン・指揮官(ゴブリン種)
ランク:3
個体名:マホ
種族:ゴブリン・魔術士(ゴブリン種)
ランク:3
個体名:ホリィ
種族:ゴブリン・僧兵(ゴブリン種)
ランク:3
個体名:ユミ
種族:ゴブリン・弓士(ゴブリン種)
ランク:3
個体名:アナ
種族:ゴブリン・観察者(ゴブリン系希少種)
ランク:3
[特殊]
個体名:フォルトゥーナ
種族:直立器用兎(ラビット系幸運種)
ランク:3
個体名:アウト
種族:異常新種族:グーパンチ・ゴブリン(ゴブリン種)
ランク:3
よおし、それぞれ見ていこう。
炎鳥・氷鳥・風鳥・雷鳥
それぞれの属性を冠する魔鳥。
属性を持つが故に進化した。
種族スキルとして、<属性ブレス>を習得。
魔鳥達は、あまり姿が変わらない。
だが、その嘴と爪はより鋭く、硬くなっているようだ。
顔つきもキリッとして、目付きも強さを感じられる。
そして、それぞれの個性なのか。
ホムラ:赤いアホ毛
ツララ:青いアホ毛
ハヤテ:緑のアホ毛
アズマ:黄のアホ毛
がピョコンと出ていて、それぞれの色のラインが体毛に入っている。
ブレスも打てるみたいだし、かなり強化されてるな。
エル:また、マスターの行った魔素の追加により、通常のランク3よりも強力且つ特殊です。これは他の魔物全てに該当します。
おお、マジか!
やったかいがあったな!
エル:マスターの願いに従い、特に成長力が強化されました。それでもなお、同レベル帯の魔物よりも強力であり、育てば更に強力になります。
おっふ。
スゲーなコイツら。
<レッドカード>を発動してても、ランク3下位並みはある。
良いねぇ。更に先が楽しみだ。
魔鳥達をブラッシングしつつ、ゴブリン隊を見る。
ゴブリン・戦士
斧を中心とした、様々な武器の扱いに長けたゴブリン。
また、前線での判断力も高い。
種族特性として、力が上昇しやすい。
ゴブリンよりも、身体が一回り大きく、分厚い。
ゴブリン・騎士
騎士として進化したゴブリン。
剣と盾に長けるが、防御や護衛等を得意とする。
また、種族特性として<騎乗>等のスキルへの適正がある。
主と定めた存在の近くに居る、主の命令に従う時に、ステータスにボーナス。
ゴブリンよりも一回り大きく、戦士よりも分厚い。
ゴブリン・槍士
槍の扱いに長けたゴブリン。
また、スピードも速い。
ゴブリンよりも一回り大きいが、身体はスリム。筋肉はしっかりと乗っている。
ゴブリン・盗賊
シーフとしての技量に長けたゴブリン。
純戦闘力は低いが、判断能力が高く、様々なアイテムや罠の扱いに長ける。
その暗殺による攻撃力は、戦士よりも高い。
また、パーティーに居ることでフィールドでの行動にボーナス。
ゴブリンより少し大きい。その身体は細身で、すばしっこい。
ゴブリン・指揮官
指揮能力に長けたゴブリン。
前線指揮官の為、個人武勇も高い。
戦えば戦うほどに、カリスマは高まっていく。
ゴブリンよりも、一、二回りほど大きい。
ゴブリン・魔術士
魔術の扱いに長けたゴブリン。
様々な種類の属性を操り、攻撃だけでなく、支援や強化も扱える。
簡単な回復や罠も扱えるが、近接戦闘能力は低い。
ゴブリンよりも少し大きいが、身体は細く、スタイルが良くなっている。
ゴブリン・僧兵
回復に長けたゴブリン。
回復だけでなく、近接戦闘もこなせる。
種族特性として、神に祈ることで経験値を獲得でき、回復の威力・精度が上がる。
神の教えとして、殺生こそが教義である。
ゴブリンよりも一回り大きく、スタイルも良い。
ゴブリン・弓士
弓矢の扱いに長けたゴブリン。
弓矢の作成も、種族特性としてボーナスが入る。
種族特性として、五感が強化されている。
近接戦闘も、少しこなせる。
ゴブリンよりも少し大きく、四肢が長くしなやか。
ゴブリン・観察者
周囲の情報を収集し、処理することに長けたゴブリン。
種族特性として<鑑定>を持つ、激レアで特殊な種族。
本来はランク3で成れる種族ではない。
ゴブリンより少し大きく、スリムな体型。
うむ、それぞれゴブリンよりも大きくなって、専門職的な雰囲気が強くなっているな。
アナも<鑑定>を獲得したし……。
名前って、凄いな?
エル:名付けによる効果は、かなりのものと見込まれます。マスターのスキルと称号により、更に効果が高まっています。
<変異誘発>なんて発現したしな。
<凌駕する唯一者>による、才能の底上げに覚醒。
<人間ヲ嫌ウ者>にも、人間以外に対する補正が入るようだし、<異常にして異様なる者>の影響力も凄まじい。
この称号、本人:俺が異常になれば成る程、更に効果を増すからな。
体格が大きく変わったが、装備もそれに合わせて少し進化している。
とはいえ、後できちんと整備してやろう。
強化できるかもしれないしな。
俺にも経験値は入ってるし。
さて、問題は残りの二人だ。
フォルトゥーナは……。
直立器用兎
特殊個体:フォルトゥーナがランクアップし、進化した特殊種族。
二足歩行が可能になり、脚・足の扱いがより上手くなり、手となった前足を器用に扱える。
何故かそのモコモコな手で物を掴み、振るうことが出来る。
大きさに変化はなく、より可愛らしく、愛らしい存在になった。
角はより自由自在、爪や牙も強化されている。
また、器用には、要領が良い、という意味合いがあり、<幸運>に更なるボーナスが入る。
うおう、マジか……。
モコモコお手手に、石を持たせてみる。
「キュ!」
フォルトゥーナの<投擲>!
飛んでいた鳥にクリティカルヒット!
うわぁ、投げられる投擲武器:兎から、投げる兎に進化したよ。
後で、フォルトゥーナ用の投擲武器を作ってあげよう。
大きな丸武器と、舵輪のような形で良いかな。
フォークとナイフまで扱えるだと!
あっ、顔はちゃんと拭いてあげるから気にするなよ?
では、更なる本題、アウト君だ。
異常新種族:グーパンチ・ゴブリン
世界:イリガルドに初めて誕生した種族。
グーパンチするゴブリン。
ゴブリンと大きさは変わらない。
説明!
雑い!
エル:不確定事由が多いため省きました。解析は常時続けていきます。
そんなレベルなの!?
新しい種族なのかよ。
この惚けた顔で。
他のゴブリンと違って、変化もない……いや? 顔が少し、変わっている?
なんか、ギャグっぽくなってる。よりらしく。
他のゴブリン達は、男らしく、女性らしくなっていたのに。
それも、人っぽく。
まだまだゴブリンらしいところが残ってるが、嫌悪感等を一般人が抱かないであろうとこまで来ている。
エル:魂の力を発現しやすい形の1つ:人に近付いているようです。また、マスターの心の望みの影響も有るようです。
望み、か。
俺の、いやオレだったものは、人間が嫌いだ。
それは、オレも、俺も変わらない。
だが、オレは孤独に近かった。
例え慣れても寂しくない訳じゃねぇ。
嫌いではない、好きになれる、信頼できる存在が欲しかったんだな。
人の形の、人間ではない何かを。
今の俺は、孤独じゃない。
コイツらも居るし、神との邂逅で、神との友誼も結んだ。
何より。
──エルも居るしな。
──エル:エルはいつでも、マスターのお側に。
ここは異世界:イリガルド。
もしかしたら、俺が嫌わない存在も居るだろう。
楽しみだ。
でもとりあえず。
「とっちゃん! かかってこい! お前のそのアホな種族確かめてやる!」
「アホってなんすか! オイラもグーパンチ・ゴブリンって直球予想外っスよ!」
アウトを弄ってみるか!
飲まれたからと言って、終わらせたりしませんよ?
モチベーションをガリガリ削られる前に、再考して作り上げたので、なんとか生き残ってます。




