第48話:どこにでもモフリストは居る──だが貴様は別だ!
8日目:ミリロの町:渡り鳥の止り木亭
「いらっしゃいませ。おや、従魔ですかな?」
「はい。門番さんから、ここが従魔持ち込み可でギルド協賛とお伺いしたので」
「ええ、その通りですよ。本宿のルールをお聞きになりますか?」
「よろしくお願いします」
厄介な女冒険者達を巻く算段を考えつつ、先に宿を取る。
色々考えてな。
「はい。ではまず1日分でお願いします」
「承りました。これからその子達を本登録なさるので?」
「ええ。ただ、荷物が有りまして」
「それで先に宿をですか。こちらとしては、ご利用頂きありがたいですね。その子達も、綺麗にお世話をされているようですし」
うむ。そうだろうそうだろう。
「ただ、気を付けた方が良いでしょう。私が言うのも今更かとも思いますが、従魔のトラブルは難しいものでして」
「ええ、そうですね。先ほども、町の外でこんなことが──」
どう見ても小動物好きな宿のおじさんに、先ほどの話を多少脚色して話す。
「なんとまぁ、彼らはパートナーではあっても、ぬいぐるみでは無いというのに!」
「本当です。この子達は、ぬいぐるみよりも良い手触りですがね」
「そうだ、従魔用のブラシ等もギルドでは取り扱っておりますが、もっと品揃えの良いお店がございます。
良ければ、ご利用してみてはどうでしょう?」
「ありがとうございます。登録等が終わったら伺ってみますね」
荷物を宿の客室に置く。勿論偽装用だ。
重そうに見えるだけの荷物。
実際に重りでも有るのだが。
「では行ってきます」
「行ってらっしゃいませ」
間違いない、あのおじさんは。
──猫に話しかけるタイプだ!
──────────
全力で感知と直感を発動させつつ、ギルドへ向かう。
よし、まだ来てないな。
まずは従魔用の受付へ。
こういう、魔物や動物を使役する、テイマー用のギルド等はなく、冒険者ギルドが一括して対応している。
テイマーとして働く人は、冒険者ギルド員でもある。
普通の冒険者とは別の査定になるらしいけど。
馬系や、鳥系。
特にワイバーンに代表される、人が乗れる飛行系魔物のテイマーは人気がある。
俺は冒険者を主としているので関係ないが。
馬は欲しい。馬車というテンプレ……。
実際には冒険者すら偽装なのだが。
絡まれないように、こっそり移動。
幸運兎も、<人間ヲ嫌ウ者>できちんと偽装して、角の小さいニードル・ラビットに見せている。
その魅力も大分隠してはいるが、触られると危ない。モフモフだからな。
おそらく、あの女が<幸運>を抜いて話し掛けてきたのは、同じ<運勢>系か、<運命>系、そして<加護>系だろう。
感知自体は出来ていた。
そして、近付かれないように、絡まれにくいように、行動していた。
それを超えて、俺にわざわざ話し掛けてきた。
魔鳥と角兎を抱えて居たとはいえ、注目されてきた。
フォルトゥーナも、エルさんも、そして<超直感・観>も、言っている。
多分、何らかの神のご加護ってやつだ。
発想の飛躍と、テンプレート的厨二病解釈からすると。
幸運の神(仮定)からの加護だ。
そして、その幸運により、周りは良いように解釈するし、幸運が色々と引き寄せ、引き付けられる。
あの言動。貴族に有りがちな、クズ貴族に幸運を利用でもされたか?
それで信用と信頼の出来る仲間達と出奔。
幸運のお陰で、トラブルはそれほど起こらず、遠く離れた地で冒険者稼業、とかな。
まあ、生い立ちは俺の 推測に過ぎないが。
幸運系の神ってのは間違っちゃ居ないはずだ。
俺の幸運兎の、幸運に何かを感じて来たんだろうな。
まさか、護りに使いやすい幸運が、面倒を引き寄せるとは。
いや? まだ幸運が有ったからこそ、これで済んだと考えた方が良いのか?
エル:マスターに賛成します。個体名:フォルトゥーナにより、個体名:ミスハと遭遇したのは事実ですが、居ない場合、より事態は悪化した可能性が高いです。
エルさんもそう言う。俺も、そー思う。
だから、そんなに落ち込むな。
お前のお陰で、凄く助かってるんだからなー?
『キュー(しょぼん)』
とりあえず撫でておこう。
ちなみに、神の加護が要因だとして、俺はその加護による幸運の影響を受けないのか、という疑問。
それは、受けない。
既に俺は、俺の神の加護を受けているようなものだし、精神耐性で干渉を受けにくい。
人外の体質と、スキル・称号群。
特にイレギュラースキル<人間ヲ嫌ウ者>のイレギュラーさは凄いからな。
っと、ここだな。
「すみません。従魔の登録証が欲しいのですが」
「っ! っと気付かなくてすみません。その、2羽で良いのかな?」
「はい。スキルも有ります。これからギルドで、鑑定書を使ってギルドカードに載せる予定なので、カードには載ってませんが」
鑑定書を見せつつ、話をする。
この鑑定書、魔法紙だけあって、隠す、表示する、ことぐらいは出来る。
逆に、持っていないスキルを載せるのは、ほぼ不可能とされている。
うん、ほぼ不可能だって。
それ以前の問題だけどね。
「確認しました。登録証の一覧は、こちらです」
ギルドでの登録というのは、冒険者の~~が、~~という魔物を従魔にしています、というのでは、無い。
冒険者と、魂の経路が繋がっている魔物に、登録証と呼ばれる、認識票を装備させるのだ。
ソーセージとビールの国的に言えば、ドックタグだ。
この登録証は、経路が繋がっている、きちんと使役している魔物にしか着けることが出来ない。
その代わり、着けている場合は、冒険者の持ち物となり、権利と義務が発生する。
この世界でも、持ち物だ。損害賠償である。
「それではこちらに。その懐きようなら大丈夫だと思いますが、きちんと経路が繋がっているか調べます。
すみません、規則ですので」
「いえいえ。当然のことですよ。
きちんと確かめてもらった方が信用が有りますからね」
「そう言ってもらえると助かります」
経路が繋がっているか調べる装置。
それがギルドには有る。
制作者は、2代目勇者だ。
登録証を作る装置も、2代目勇者作だ。
とりあえずこの世界の不思議は創造神様と、2代目勇者のせい・おかげと考えて良い。
「はい。確認出来ました。この書類に出しておきますね。
この後、受付に行くんですよね?
その時にこれを受付に提出すると、話が早くなりますので」
「どうもありがとうございました」
「いえ、ご利用ありがとうございます 」
「キュー」
この人ならサービスして良いぞ。
面倒にならなそうだし。対応良かったしな。
やはり、愛想は大事なのか?
偽装は得意だが、愛想には自信がないな。
さて、ギルドのホールに戻り、受付へ。
キュピンキュピン言っている<直感>に従い、策を講じる。
「すみません。よろしいですか?」
「はい。当ギルドにはどのようなご用件でしょうか?」
さあ、行動開始だ。
レッド君は愛想に自信が無いようですが、恐ろしいほどの謙遜です。
大体レッド君の独白には、謙遜と罠が含まれています。
この男、前世でリアル乙女ゲー攻略キャラ但しクリア後の追加コンテンツでのみ可能、とまで言われた男である。




