第47話:美人冒険者パーティーとの遭遇────選択→逃げる
8日目:ミリロの町の外:城壁近くの街道。
「どうも、こんにちは」
これは、俺のセリフではない。
近くの街道に幾つか反応の有った、人間の一グループ。
わざわざ近付いて来て、話し掛けてきやがった。
「どうも。貴女は?」
女性だ。
軽装、レイピア。
冒険者風だが、髪が長く気品が有る。
後ろには、重戦士タイプ、盗賊タイプ、魔術師タイプの3人。
それぞれ、美人と呼ばれる顔立ち、身体付き。
美人のタイプが違うため、好みは別れるだろうが、誰が一番綺麗か、と聞かれれば。
「私はDランクパーティーの<銀麗の風>、そのリーダー、ミスハだよ。よろしくね」
このミスハという少女だろうな。
そして、やけに馴れ馴れしい。
パーソナルスペースを詰められる前に、距離を取る。
と言っても不自然ではないように、足を運ぶ。
頼むぜ<工作>師匠。
「俺はFランク冒険者のレッドです。よろしくお願いします」
肩に乗っている魔鳥:氷を揺らさないように。
腕で抱える幸運兎:フォルトゥーナを潰さないように。
お辞儀する。
肩の氷もペコリと挨拶する。
「わぁ! 可愛い!」
そんなにサービスしなくていいぞ、氷。
腕の中のフォルトゥーナ。
そしてエクストラである<超直感・観>。
<直感>が囁く、否、がなり立てている!
──コイツら! めんどくさいフラグだと!
エル:賛成します。彼女達は、【貴族フラグ】の可能性が高いです。
所作が繊細だ。
言葉遣いも、どこか冒険者に寄せている感覚。
その擬態は中々だが。
──俺に擬態で敵うとでも?
他の3人。多分護衛だな。
確実ではないが、関わりたくない。
「その魔物達は、レッドさんの従魔ですか?」
「はい。そうですよミスハさん」
重戦士っぽい奴が剣に手をかけ、魔術師がそれを目で諌める。
気付いてるからな?
あえてさん呼びして、それに反応するとか。
「可愛いですね。私、こういうモコモコしたの好きなんです。撫でて良いですか?」
許可も出していないのに、フォルトゥーナに触ろうとする……が。
「キュー!(怒り)」
「わっ!」
「お前! ミスハさ……に何をする!」
「何をすると言うのはこちら側です!」
「何だと!?」
「他人の従魔に許可を取らずに触るような真似をするなど、どんな教育を受けてきたのですか!」
さて、貴族系だとすれば、【教育】という言葉にどんな反応をする?
「あっ、えとごめんなさい。気が急いてしまって」
「ミスハは悪くない! 悪いのはその魔物だろう!」
「止めなさいジェス。非があるのはこちらですよ」
「なっ、スミレ!?」
「私からも、リーダーが迂闊な真似をして申し訳ありません」
「いえ、分かって貰えれば構いません。謝罪を受け入れます」
「貴様! 何s」「ジェスは少し黙ってて」「むー!」
バツが悪そうにしているリーダー:ミスハ。
アレ系重戦士:ジェス。
抑え役の魔術師:スミレ。
そして、俺を警戒している、盗賊タイプ。
「もう宜しいですか? 早めに町に入りたいので」
「あ……。よかったら一緒に行きませんか?」
「何故でしょう? わざわざ一緒に行く意味も分かりませんが?」
「むー!」
未だに押さえ付けられている重戦士。
何故魔術師の方が力が強いのか。
「えっと、従魔のことを聞きたいなぁと。その子にも出来れば触ってみたいですし」
「キュキューッ!(嫌!)」
「すみません。この子は人見知りのようで、俺以外には触られたくないようです」
「キュ!」
かなり警戒している。
毛を少し逆立てている。
俺が気付いてないナニカを感じ取っているのか?
「それに従魔登録にも時間がかかるので、一緒に行ったところですぐ別れますよ」
「そう、ですか」
「はい。なので俺は先に失礼させてもらいます。それでは」
危ない危ない。
アレは押しが強いタイプに見えた。
それに何かしらの加護が有りそうだな。
どうも、<直感>に引っ掛かる。
<幸運>を抜いて接近されたし。
エル、現時点での最高警戒レベル設定をコイツらに。
エル:了。サポート態勢は整っています。
よし。
足早に去る。
決して振り向かない。
振り向けば終わりだし、またフラグが立ってしまう。
普通の男なら、その美貌と所作の優雅さに先手を取られ、食い込まれるのだろうが。
俺にゃあ通じない。
厄介事は御免だ。
何より、美人パーティーと一緒に居る新人なんて、最悪に近い構成だからな!?
「どうも門番さん。ミリロの町で合ってますか?」
「ああ。そうだ。その兎と鳥は、君の従魔かな?」
「はい。<魔物使役>というスキルで従魔にしました。
従魔にしてから、初めて町に入るので手続きをお願いします」
「ああ、登録証が無いと思ったら初めてなのか?」
「ええ。鑑定でスキルの存在が判ったのが最近なんです。
それで試したら、この子達を従魔に出来まして」
「そうか。ではこちらに来てくれ。仮の登録証と、記録を取るからな」
「はい」
ふー、アイツらは何かを話してる。
というか聴こえてるんだけどな。
まだ来んなよ、めんどいから。
しかしちゃんと下調べしといて良かったぜ。
大きな銅のお菓子を渡したら、対応が良くなった門番と会話しつつ、あっちの会話も伺っておく。
「それじゃあ、それはあくまでも仮だから、冒険者ギルドできちんと従魔登録証を買ってくださいね?」
「はい、ありがとうございます」
「いえいえ。では、ようこそミリロの町へ」
さて、さっさとこの町からは動くかな。
──────────
「全く! なんなんだあの男は! ミスハ様に触れていただけるのだから、触らせるのが礼儀だろう」
「はぁ。ジェスは何時までもそのままね。ミスハ様、お元気が無いようですが、大丈夫ですか?」
「ああ、うん。ちょっとね。教育か……。傲慢にはなりたくないって、決めたのにな……」
「あの男のせいですか! やはり斬っておくべきだった」
「いい加減にしなさいジェス! 遠いとは言え、周りには他の人も居るのよ」
「そうよジェス。悪いのは最初から私なんだから」
「そんな! ミスハ様が悪いことなど」
「バカなジェスは置いといて。私たちどころか、ミスハお嬢様にも見惚れない男は珍しい」
「あら、やっぱりケイも気付いてた? 好色めいた視線も無かったし。
赤い髪の、レッドさんと言ったかしら。
冒険者にしては紳士的だったわね」
「何を言っているんだスミレ!
アレのどこが紳士だ!」
「どう見ても紳士。ジェスはバカ。
言葉遣いも綺麗だったし、動きも滑らかだった。足音もしないし」
「ケイもそう思う? 私も、対応からして、貴族……かしら。私と同じように」
「いえ、ミスハ様。少し違うような気もします。高等教育を受けた商人の三男辺りでは?」
「そうかなー? 思慮深かった気もするよ?」
「ふん! そんなことはどうでもいい! 無礼なだけだ──!? 何するんだ」
「いい加減に頭を冷やしなさい」
「無礼なのは間違いなくジェス。それにあっちも貴族の落胤だったらどうする気?
問題増やす気なの?」
「っと、そろそろお喋りはここまでにしましょうか。ミスハ、動物と触れ合いたいなら、その手のお店を探しましょうか?」
「ケイも探す。ミスハお嬢様の為なら」
「有り難う皆。気になったのは、動物というより、彼の従魔なんだ。
また会えたら、謝って、また触らせて貰えないか頼んでみるよ」
「ミスハさ……が謝る必要など!」
「ジェス、次は痛いわよ」
「うっ、すまん」
「ケイもあの兎触りたかった。もの凄く警戒されてたけど」
「どうすれば警戒心解けるかなぁ?」
「それも町で調べてみましょうか。まずはギルドで報告しましょう」
「そうだな! きちんと依頼は達成したしな!」
「ジェスが余計なことして危なかったけど」
「そ、それを言うなよケイ」
「フフッ」
「あっ、笑った。良かったミスハ」
「あら? そう? ケイ、みんな、ありがとう」
レッド:絶対会いたくねー!
フォル:キュー!(あいつら嫌い!)
氷ツララ:(そんなに嫌なのだろうか。ご主人様と一緒に入れて良かったけど)
魔鳥組は、なんらかの勝負でツララさんが勝ってレッド君の肩に乗れたようです。
他の3羽は、<レッドの腕輪>内で訓練中です。
そろそろ、普通に危険なエリアなので。




