第33話:リエーナの町の探索──というか一人になりたい
6日目:リエーナの町近辺:街道
さて、心が叫びたがっていたので、思う存分叫んでみた。
ただし、周りに迷惑をかけないように、だ。
いきなり叫び出すなど、違和感しか持たれないからな。
想像以上に、<工作>先生のスキル範囲が広い……。
有り難いことなのだが、本当にスキルというのは面白いな。
エル:エルによる行動の一部も、<工作>スキルとの関連が有るため、よりレベルアップが容易になると考えられます。スキル範囲が広い代わりに、必要経験値は膨大なものである情報が出ているので、早いに越したことは有りません。
あれで、遅いのか。2アップで。
上位化したら更に恐ろしいことになりそうだな。
「おっ、レッド君、リエーナの町だ。徐々に速度を落としていくよ」
「……うっすら見える気がしますね」
実際にはガッツリ見えている。
「今回はゴブリン以外出なくて良かったな。元々、危険の少ない地域じゃあ有るんだけどよ」
「私達は何回も通っていますが、この辺りの危険性はやはり低いですね。一番大変だったのは、土竜系のモンスターでしょうか?」
「もぐら? 土を掘るもぐらですか?」
「そうだぜぇ、レッド。巨大土竜つってな? デッカイもぐらなんだわ」
「ランクは大体3、なんだけどその時はランク4の上位種が居てね」
「まっ、強さは大したことなかったんだよ。俺の斧でズバッとな」
「ロンドの攻撃力じゃあ、防御系のランク4でもズバッと行くだろうよ。問題はその後さ、もぐらだけあって、地面がガタガタでな。あん時ゃー、トレイン様々だったんだ」
「地属性魔術が役に立って良かったというものです。あの件で、攻撃魔術以外の技術も発展しましたしね」
「レッド君なら大丈夫だと思うけど、地面から小さな振動を感じたら警戒するんだよ? 馬車では気付きづらいと思うけど。
地震はこの地域では少ないから、まずもぐらだろうからね」
「はい。勉強になります」
ふーむ。アルサの町で調べた情報と同じだが、紙ではない、実地での知識はバカに出来ないからな。
勉強になる。
──────────
「お疲れ様です。一応検査しますね」
普段使われているルートだから、検査は甘々だな。
時刻はおやつ時といった具合か。
「はい、有り難うございました。冒険者の皆さん、完了書を配るので受け取って下さいね」
護衛等の完了書、これがなければ基本的に依頼完遂とは認められない。
悪徳な貴族などが、難癖つけて渡さないこともあるが、そんな貴族からの依頼は破棄される仕組みだ。
最悪、その貴族の領地から冒険者ギルドが撤退する。
門を通って入ったリエーナの町。
アルサより、便は良いが、人口は比較して少ない。
アルサの方はより安全だからな。
だが、活気はそこそこある。
食糧を買い込む必要も有るし、色々回ろう。
また、掘り出し物無いかなー。
─────────
「はい。依頼完遂ですね、おめでとうございます」
受付嬢に依頼の完了届けを出し、ゴブリン討伐の報酬も貰う。
「レッド君はこれからどうするんだい?」
「まずは宿を取ってから、町を見てみようかと。掘り出し物巡りも併せて」
「宿か! なら俺達の定宿に来るか?」
「あー、ですが宿代などが少し……」
「ロンド、あそこは少し高めのお店だ。レッド君は機転が回るとはいえ、駆け出しであることに違いはない。
私としては、この町ならば火鳥の宿をオススメするよ。
ギルド協賛の宿だ」
「ありがとうございますトレインさん。火鳥の宿をまず当たってみますね」
「んじゃー、とりあえずここでお別れだなレッド。
俺達はここか、近くの酒場で会議兼飲み会してるだろうから、なんかあったら来いよ」
えー、っと不満そうにロンド。おっさんがやるな、可愛い 娘がやれ。
「では、失礼しますね」
「おう、じゃーなー」
やれやれ、情報収集出来たし、スキルも獲得出来た。
が、それはそれとして、1人の時間も欲しいものだね。
──────────
火鳥の宿を取りつつ、町の散策へ。
確かに火鳥の宿は、そこそこ良いとこだった。値段と、サービスが良い。
当然のごとく1人部屋だ。
色々と食糧を買い込みつつ、噂話や情報の種を探す。エルさんが。
それを精査し、必要のある情報、重要な情報をピックアップする。エルさんが。
軽く<潜伏>を発動しつつ、道具屋や、武具屋を回る。
矢玉を調達しつつ、まあまあ質の良い投げナイフを購入。
また、丈夫なロープを発見。買っておく。
おっ?
「すみません、これは?」
「ああ、鋼糸か。それは罠士とかが使う道具だ。軽く魔化されてるから、丈夫だぞ。
少し高いが、買うのか?」
ほうほう。俺とは相性良さそうだ。
値段を聞き。
「では、そうですね。3セットお願いします」
「おし来た。会計するぞ」
1セット銀貨1枚、3セットで3枚。
<鋼糸>
ランク:ノーマル
ワイヤー。魔術により、少し丈夫で、ワイヤーが断線しにくくなっている。
針金というよりは、糸として使えるタイプのワイヤーだ。
<念動力>、<工作>、<罠之技術>による、ワイヤーの操作。
そして、エルさんや、<純粋なる殺戮遊戯>への適用。
糸使いというのは、やっぱりロマンだな。
ロマンも有るが、使いこなせれば凄い効果を持つようになる。
ロマンとは浪漫である。ローマから来た、とか、人名ではないぞ!
エル:了。
えっ、いやエルさんに言ったんじゃないんだけど。
──────────
掘り出し物は無かった。そうそう有るものでもない。
迷宮都市ガザラエンへの道のりの途中で、交易都市ハラスラに寄るが、ここは交易都市だけあって、掘り出し物は有りそうだ。
奴隷市以外にも、蚤の市が頻繁に行われているし、定期的に、大きな商業を行うとか。
フリーマーケットの語源だな。
フリィか、使えるだろうか?
現在手に入れている地図。
それを、エル式MAPに統合。
俺が感知・獲得出来る情報をエルが精査し、更に統合する。
うむ、俺自身が獲得したわけではない情報も更新されているな。
精度そのものは、やはり低いが。
うむ、この辺のMAPは結構更新されてきているな。
出来れば、世界MAPとかも作りたいものだ。
宿に戻り、風呂に入る。
石鹸は、アルサの町よりは良いな。
石鹸って、作れるだろうか。良いやつ。
食事の質は、アルサの町:風鷲の宿の方が良かったな。
まぁ、あちらの方がランクは高かったし。
1人部屋の客室に入り、日課を始める。
まずは<工作>だな。
投擲用の石を幾つか取り出す。
それを、魔術で把握し、念動力で掴む。
地属性の魔術を発動させ、石を研磨。
地属性の魔術は、その名の通り、<地>を扱う魔術だ。
石もまた、含まれる。
石を丸く、投げやすい形に形成していく。
本来なら、そうそう出来ることではないが、化学を知る俺と、習得しているスキル群。
そして何よりエルさんによる補正が莫大だ。
石を丸くする、だけじゃない。
魔力で、石そのものの構造を把握。
地属性を用い、石の構成を一時緩め、魔力を思いっきり籠めながら、丸く形成する。
じゃん!
<硬魔・思念投石>
ランク:ノーマル
魔力によって、硬質化された投石。
個体名:レッドの魔力によって強化されているため、レッドが扱う場合、より硬質化を強化できる。
<念動力>とのシナジー効果が有る。
ふむふむ。ノーマルの中でも、中々良い品になったのではなかろうか。
幾つか作ろう。
これの良いところは、念動力で繋がっている為、投げた後も回収が容易いのだ。
そして、魔力を籠めたが、籠められる最大量みたいなのが有る。
素材にもよるものでもあるし、技量によるものでも有るだろうな。
良し、他の武器にも少し試してみよう。
投擲ナイフを、1つ改造。
うっわ、石と違って難易度たっけ!
<斬魔・思念投擲短刀>
ランク:ノーマル
魔力により、硬質化と切れ味強化が施された投擲用ナイフ。
ふー、出来た。
しかし、氣力では出来ないんだなー。
魔力でしか出来ない。
んー、今夜試してみるかな。エルさんに頼んで。
その後も色々試した。やっぱりレザー関連は無理だった。だって、革だもん。
ポーションを作る。
今回は、変わり種だ。
エンチャント系のポーションを作るのだ。
回復系ではない素材を用い、そこに支援魔術を籠める。
魔力の籠め方のコツ、そして留め方のコツも掴んだ。
<筋力強化ポーション>
<速力強化ポーション>
<防力強化ポーション>
どれも品質はノーマル。加えて、消費期限がかなり短い。
アイテムボックスに入れると解決だ!
しかもこのポーション類。
俺がかける魔術と競合せず、どちらも効果を発揮する。
流石に、2つを合わせた補正そのままではないが、有り難い効果だ。
属性付与は、出来なかった。
まだまだ、精進が足りないね。
他にも、生産系に属する行動する。
うーん、今度からは魔石の幾つかは残しておくかな。
魔石も、生産には使えそうだ。
というか、ファンタジーの定番だ。
魔力や、氣力を用いた訓練を行う。
<氣力変化>とかも有るし、先が楽しみだぜ。
そろそろ、眠る時間だ。
睡眠時間は大きく取った方が良いことが分かっているからな。
エルも奨めてるし。
ポーションを呷り、じゃあエル。
頼んだぜ。
エル:おやすみなさい、マスター。
更に生産が加速していく。
マルチな才能を発揮していく、アンチテンプレ系主人公。




