第32話:アイテムボックスを隠して普通の冒険者に擬態──しなくてもバレない
6日目:野営地
ああうん。おはよう。実は5日目の夜はばっさりカットなんだ。
たまには良いだろう?
あの後、カノンから斥候の技能。
特に、隠密・潜伏の技能。
罠を発見し、解除する。簡単な罠の作り方を。
トレイン:既婚者から、地属性魔術と簡単な杖術を。
この人は、どこか余裕があり、カノンと一緒にロンドとリロの仲裁をこなしている。
どう考えても、見る目が親視点だ。年齢ロンド達と変わらないのに。
そして、リロという狩人は。
「おぅ、レッド。昨日は悪かったな。約束通り、早朝だけど弓の取り扱いを教えっからな。静かにだけど」
昨日教われなかったので──ロンドを襲っていたので──早朝だ。
エル式睡眠調整で眠くはないが、その分熟練度稼ぎが何時もより出来なかった。
エル:充分な睡眠時間を取ることを強く推奨します。
うん、俺もそう思う。
寝るのは嫌いじゃないし、寝ることが無為にはならない。どころの話じゃないからな。
「弓矢のいろは程度は教わってるみたいだし、幾つかのコツって奴を教えてやるよ」
弓の射方、応用編みたいなことを習いつつ。
訓練場では習いづらかった、相対位置の位置取り。
味方との連携で、射線を上手く取る方法。
狙われないようにするには。
あえて狙われるには。
「お前、みんなにも教わってて、それぞれ成果出してんだろぉ?
それで弓までって」
嘆息された。
「今のところ、ソロですしね。出来ることは増やしておいては損はないかと」
「かー、しっかりしてやがんなぁ。だけど、仲間ってやつは作った方が良いぜ?
勿論、なんかの事情があんのは冒険者の常だ。その辺は聞かねぇけどさ」
「そうですねぇ。仲間ですか」
そりゃ、欲しいさ。
1人より、出来ることは多いし、多様性が広がる。
だが、それに伴うデメリットは無視できないし、何より俺の目的が目的だかんな。
「後は、そうだな。金があれば、奴隷とかな」
「奴隷、ですか?」
「ああ。戦闘系奴隷はかなり値が張るが、掘り出し物を見付けて育てるとかな。
この国じゃあ、犯罪奴隷か、違法奴隷を除けば、元冒険者の借金奴隷とかを狙うとか」
「うーん。奴隷ですか。悪くはないんですけど、お金も有りますし、良い人材が居るかどうか」
実際には考えてるがな。色々と。
それに。
「迷宮都市ガザラエンに行くんなら、多分交易都市ハラスラを通るだろ。そこは交易って付いてるだけあって、活気が有るんだが」
1拍置いて。
「その交易の品ってのが、奴隷だ。1回見てみると良いさ。
だが、アングラのとこは止めとけよ?
表ならともかく、裏はヤバイって噂だ」
「そうですか……。では、見てみようと思います。危険には気を付けますね」
行くからな。
そういう、アングラは、フラグの温床だ。
そして、この国は人族主体だが、他種族とはどっち付かず、良い言い方すれば、温厚。悪く言えばことなかれ主義だ。
だが、裏は深いだろう。どこにでも闇はある。
なら、俺が欲しいと思う、人外が居るかもしれないからな。
何故今思ったか。フラグ立てである!(厨二脳)
「そろそろ、朝飯と用意だ。戻ろうぜ。っとそうだ。ロンドのバカと話してくれてアリガトナ。少し丸くなった気がするんだ」
「いえ。俺の方が助かってますよ」
「はっ、謙虚になんなくていいぜぇ? ……恋愛アドバイス、俺もこっそり聞いてたんだが。
俺にも教えてくれん?」
「俺でよければ、いいですよ?」
──────────
昨日の朝早く、アルサの町を出て。
今日、野営地を早めに出る。
流石と言うべきか、野営地の撤収作業が早い。
順調に進んでいるので、このまま行けば昼頃に着くだろう、ということだ(フラグ)。
この商隊、というか、この街道。
利用者があまり居ないので、馬車を飛ばせるし。
モンスターも強くないから、そこまで警戒せずに飛ばせるんだ。
ちなみに、車を引く──轢くに非ず──のは、馬だけでなく、牛やロバ。
そして、魔物や、竜と言ったものもあるとか。
ちなみにちなみに、全て馬車で通じる。
竜だけ、竜車とか呼ばれるけど、馬車で通じる。
この商隊の馬はみんな、普通の馬。
前世で見た馬より、明らかに強めだがな。見た目。
「! 止まれ! 罠がある!」
はい、フラグ回収。
この為に前の護衛馬車に、高ランク冒険者が配置される。
練度の高い商隊故に、さほど混乱も起こさず止まる。
あたふたしてるのは、Eランクパーティー位だ。
その間に、商隊員は警戒を強め。
<斬破>パーティーも、速やかに戦闘態勢を取る。
俺はと言うと、エルさん及び複数の手段で感知していたので、魔術の障壁を張っている。
「レッド君、良い判断だ」
「うむ。私の地属性では、見通しが悪くなるからな。火と風ならば、矢避けには──っと」
そして矢が飛んでくる。
弱いが、魔術もだ。
罠を見破られた、奴等がやってくる。
「敵、ゴブリンの群れ! リーダー種に率いられた凡そ30!
内、アーチャー2、マジシャン2確定!
ソードマン、ランサーに気を付けろ!
<折れない剣>パーティー! そちらは馬車の防御と伏兵警戒!
<斬破>が群れを相当する!」
実質リーダーであるカノンが声を張り上げる。
その間に、ロンドは大声を上げてゴブリンの群れに攻め混む。
ただのバカではない。
<挑発>系のスキルを用いた、ヘイト管理だ。
「おらぁ、来やがれ雑魚ども!」
そう、戦士として一線級のバカである。
ロンドは、トレインと俺から支援魔術を受け、更に固くなる。
敵が弱くとも速攻戦だ。
護衛なのだから。実際には、Fランク冒険者より強い商隊だとしても。
リロが矢を放ち、俺が氣力投石でマジシャンを仕留め。
トレインが土の槍を遠隔発動。
地面から棘のように育った槍が、アーチャーを中心に穿つ。
魔防の低いアーチャーに魔術。
物防の低いマジシャンに物理攻撃だ。
これで、面倒な遠距離を潰せた。
あとは、投石は出来るだろうが、ロンドに引き付けられている奴等。
ソードマンも、ランサーも、ランク2と、3に違いなど無いとばかりに凪ぎ払われる。
リーダー種はそれを見て逃げ出そうとする。
俺の時とは違い、逃げられるのだから当然だ。
逃げれれば。だが。
いつの間にか姿の消えているカノンが、リーダー種の首をはねる。
捕捉はしていたが、あれは敵対すると面倒だろうな。
本人は、攻撃力もないし、魔術もない。みんなに助けられてるだけだよ、等と供述していたが、明らかに一番強いだろう。パワーバランス的に。
うむ、あの暗殺の仕方は学べることが多いな。
エル:肯定。スキル群により獲得できた情報を精査し、マスターにフィードバックします。
「ただいま。レッド君、相手を全滅させたし、罠について実地研修しよう。あっちはロンドや<折れない剣>の人達に任せて良いだろうからね」
「っと、いつの間に……。罠ですか、ゴブリンにも知能があって、個体差も有ることは知っていますが。
罠も仕掛けられるんですね」
「ああ、伏兵になる数は居なかったけど、ゴブリン・シーフが居たよ。そいつらが仕掛けたんだろうね」
ほう、あの2体か。
通常のゴブリンと体格は変わらないが、素早そうなあれ。
後でエルさんに聞いてみよう。
「これが罠ですか、何というか、雑な仕事ですね」
大きく穴を掘って、枯れ草等で偽装しただけ。
「これでも、効果は見込めるよ。それに、雑と言えるのはレッド君の観察眼が良いからだね。
ソロでも何でも、必要な資質だよ」
最近、ロンドも少しは磨くようになって助かるよ。
と、ぼやきつつ罠を見やすくする。
「これはトレインに埋めてもらおう。地属性魔術なら簡単だろうからね。あっちの街道も直してもらわないと」
トレインが、土の槍を生み出したとき、周囲の土を利用することで、消費魔力軽減。
そして、土の体積を移動させたことにより、落とし穴を作る一石二鳥。
うむ、良くラノベで読んだ光景だが、実際に効果的だな。
とはいえ、街道は直しておかないと問題だ。
馬車が通りづらい。
「俺も参加して良いですかね。地属性魔術を習ったので、触りだけでも使ってみたいです」
「本当に芸が広いし、向上心があるね。君は」
「トレイン、街道の修復を頼むよ。あと、レッド君も魔術を使いたいってさ」
「勿論だとも。戦利品の分配も進んでいるよ。あっちがレッド君の取り分だ」
俺が倒したアーチャーの魔石、討伐証明部位、アーチャーの弓矢。
そして、数体分の一揃い。
「あれ、ゴブリンは倒していませんよ?」
「君は矢避けしたり、ロンドに支援したりしていただろう? 倒した者だけでなく、働きによって分配されるべきだよ」
「勿論優先順位は有るよ? 珍しい部位とかなら倒した人のものとか。今回はゴブリンだからね。
他の冒険者との仲を悪くしないようにするのは当然の事でもある」
「<折れない剣>のパーティーにも、少し分配している。彼らも、護衛、という仕事はしていたからね」
「レッド君も、覚えておいて損はない。同業の冒険者だけど、敵対することも少なくない」
「それを言うなら、うちのパーティーもだけどね?」
「最近は改善してきてるじゃないかトレイン」
こいつら、仲良いな。そして腕も良い。
話ながらも警戒を怠っていないし、準備もしている。
「ふう、こんなものだろう。レッド君、馬車に戻ろう」
「はい。地属性は、汎用性が有りますね」
「文字通り、地味とは言われるけど、中々に使い勝手は良いよ。レッド君のように、色々使えるのは羨ましいけどね」
「まだまだ新米ですよ」
「ふふっ、未来が楽しみだね」
戻って、戦利品を受け取る。
勿論、アイテムボックスは使わない。
旅装の、袋などに入れるだけだ。
というか、気合い入れて、アイテムボックスの偽装したのに、全然気付かれる素振りもない。
当然のことでは有るが……<工作>さん凄いな。
さて、編集も終わったな。
もうそろそろ、昼も回り、リエーナの町も見えてくるだろう。
エルさん。
エル:ステータスを表示します。
【ステータス・変更点のみ】
個体名:レッド
生命力:6270(+10)
体力:729(+21)
魔力:1460(+110)
氣力:1440(+100)
ノーマルスキル
<体術:レベル:3(+1)>up
<格闘術:レベル:3(+1)>up
<弓術:レベル:3(+1)>up
<氣力闘法:レベル:3(+1)>up
<工作:レベル:3(+2)>up
<斧術:レベル:1>new
<氣力変化:レベル:1>new
<平衡感覚:レベル:1>new
<隠密・潜伏:レベル:1>new
<地属性魔術:レベル:1>new
エクストラスキル
<極限集中:レベル:3(+2)>up
<罠之技術:レベル:1>new
魔力・氣力の伸びは悪い。
これでも凄まじい伸びなんだけど、レベルアップボーナス越えてるしな。
やはり、他の人を気にして、無理なことは出来なかったからか。
既存スキルの上昇も、訓練したものだ。
そして、その割りには新規スキル多いな。
やはりラーニング疑惑あるな。
よし、なんか気になるのもあるし、見てみよう。
というか<工作>、君ぃ、俺作ってないんだけど。
<極限集中>、エクストラスキルなのに。
エルさんぱないっす。
エル:解説を表示します。
ノーマルスキル
<斧術:レベル:1>new
斧に関する補正。
<格闘術>等とシナジー効果有り。
<氣力変化:レベル:1>new
氣力を何かに変化・変換するスキル。
現在は<氣炎>のみ扱える。
<平衡感覚:レベル:1>new
平衡感覚に関する補正。
身体の揺れ・傾きを感知し、より安定させる。
武術系スキルとのシナジー効果有り。
相対的な、均衡的な感覚を補正出来る。
<工作>等にシナジー効果有り。
<隠密・潜伏:レベル:1>new
隠密:隠れて、知られないように行動すること。
潜伏:見付からないように潜み、出ないこと。
<工作>スキル等とのシナジー効果有り。
<地属性魔術:レベル:1>new
地に関連する魔術。
<土槍><土之壁><障壁展開:地><地属性付与><防力強化:地><落穴作成:地>
エクストラスキル
<罠之技術:レベル:1>new
罠に関する上位スキル。
罠発見、罠解除、罠作成。
また、罠とは、物理的なことに限らず、精神的、社会的なものなど、多岐に渡る。
<工作>スキル等に、強大なシナジー効果有り。
さて、上から2つと魔術は良い。レベル1にしては、使える魔術が多いが、そんなものだ。俺は。
バランス感覚を、養うのか。
あれで? あの経験と認識を元に、情報が形になったのか。
そして、隠密か、潜伏か、どっちかな? と思っていたら、どっちもですか。
隠密は、隠れて行動することという意味合いが強く。
潜伏は、隠れ潜む。紛れるなどの意味合いが強い。
なら混ぜちゃおうぜ!
みたいな? 俺の認識……。
そして、エクストラスキルがまた増えた。
罠に関わるスキル、その統合上位化。
俺が確認したときから、エクストラスキル化か。
エル:上位化の確率が高かったので、よりリソースを注ぎ、形に成りました。また、その素養も非常に高いものであったので、より容易でした。
それが、今回カノンから習ったことにより、思いっきり形になったと。
そして、一言ね。
心で叫んで良いか? エル。
エル:どうぞ。
─────<工作>スキル強すぎだろぉーーーーーー!!!!!!!!!!──────
何故かキャラ立ちしてきた楽曲4兄弟、<斬破>パーティー。
主人公は、フラグを立てることにハマッたようです。




