第31話:野営地における訓練──炎が飛んでいく
本日、2話目らしい?
5日目:アルサ・リエーナ間:街道近くの野営地
馬車で、<斬破>パーティーと会話して情報収集したり、モンスターと出くわしたので、討伐に出たり。
というかずっと馬車に揺られているうちに夕方に。
うーん、索敵とかはともかく、魔術とか、見た目的におかしなやつは熟練度稼ぎ出来ないなー。
この街道には、アルサの町しか道がないため、途中の宿場町はない。
リエーナからは、宿場町や、定期馬車が有るらしいのだが。
宿場町が作れるのも、ある程度安全だからだ。
より安全なアルサの町。しかし不便なアルサの町。
まぁ、この辺は良し悪し。
俺としては、護衛依頼はもう止めておこうかね。
性に合わない以前に、熟練度稼ぎがマジで出来ないし、デメリット多し。
それを確認するための、初依頼なのだから、しゃーなし、だな。
出来ることをする。それだけだ。
引き際は大切。
諦める、ということは実際にはとても難しいことだ。
すっぱりと、割り切るのは。
それも見越して、熟練度を稼げるスキルを増やしているのだが。
しかし、予定は、ある。
「レッド君、約束通り訓練しよう。邪魔にならないようにあっちでね」
今のは、ロンドのパーティーメンバーの1人、カノンだ。
それぞれ、自己紹介され、覚えている、エルが。
Cランク冒険者パーティー<斬破>
ロンド:リーダー(お飾り)
斧を主体とした、メインアタッカー兼タンク。
カノン:斥候(実質リーダー)
盗賊系統で、調査・採取等の担当。
サブアタッカー、雑魚散らし。
リロ:狩人
弓を用いた遠距離戦。鉈を用いた近距離戦もこなす。
また、ポーション等による回復担当。
トレイン:攻撃魔術師
魔術を用いた、中・遠距離担当。簡単な補助、回復も出来る。
全員、男性で組まれたメンバーで、前述通り幼馴染。
本来はリエーナ以南の町々を拠点にしていたが、ロンドがミーシャにアタックするために、ちょくちょくアルサの町に来る。
あの時は、久し振りに会えると思ったら居なかったのでイラついたらしい。
カノンはアルサの町に恋人が居て、トレインはそもそも結婚していて、こちらもアルサの町に居る。
ロンドとリロは現在、アルサの町で頑張っているのだそうだ。知らねぇよ。
だが、その技術を知れるのは嬉しい。
特に、カノンの斥候としての能力と、トレインの地属性魔術だ。
もはや、ラーニングシステムにすら太刀打ち出来る位だ。エルが。
この護衛依頼、本当に新人の訓練に近いようで、割りと自由だ。
食事も、商隊が作ってくれる。その分、報酬は少ないが、経験が積めるし、上位冒険者もついでに下位冒険者の面倒を見ることで、信用を培える。
そこかしこに、火が焚かれている。
火を見て、この辺の魔物は近付かなくなるそうで。
また、焚き火そのものに、簡易の使い捨てマジックアイテムが使われていて、魔物避けになるらしい。
虫除けスプレーならぬ、魔物避け焚き火だ。虫も避けてくれるけど。
確かに魔物も居ないな。上空から確認しても。
「おうレッド!」
「どうもロンドさん。今日はお願いしますね」
「なぁに、1日だけとはいえ、きっちり稽古つけてやるよ。色々教えてもらったしな」
ラノベ知識をなー。あれを、俺流に飲み込み、ロンドにも分かるように伝えただけなのだが。
見た目通りの頭なので、目から鱗がぽろぽろ落っこっている。
「最初は俺の斧を教えてやるぞ。色々教わりたいって言ってたからな」
「ええ。獲物は<ゴブリン・ウォーリアの斧>ですけどね」
「なーに。小振りだが使えなくはねぇ。気に入れば、良い斧を手に入れれば良いからな」
そういい、背中に担いでいたデカイ斧を構える。
それ、ポールアックスなんだけど。見た目。
肉厚で、両刃のでかい斧。
腕力と遠心力で叩き切る、破壊力抜群の武器だ。
見た目通りの筋肉で、筋力値も高い。
見た目とは裏腹に、器用値も有る。
これはジョブやスキルの効果だろう。
レベルが50を越えているので、ジョブ枠3つ。
いいなー、俺はまだ先になるんだろうなー(棒)
ロンドが、斧を振るう。
筋肉が暑苦しいという思考はどうでも良い。
強くなるのに、それは必要ない。
出来れば、美人の異人種とかが良いのは仕方無いけど。
長柄の斧を振るう。その動きを、視て、解析して、蓄積する。
横で、俺も小振りの手斧を振り回す。
体重を乗せて振るう。
遠心力、足の向き、腰の入れ方。
「おー。レッド、お前斧もイケそうだな。
んじゃ、取って置きを見せてやるよ」
「良いのかロンド」
おっと、見たいけど流石に止めるか?
「あれ目立つから先に言っておいた方が良いんじゃないか?」
あっ、そっち?
「言っておいたぜ!」
「なら良いな。レッド君、少し下がろう。あれは派手だ」
やるのは良いのかよ。というか、ロンドに要らん知恵付けたか……?
いや、これでようやく人並み以下だから良いか。
「行くぜ! <氣炎斬>!」
大丈夫か!? あっ、大丈夫だ。
ふーむ。氣力を完全に別属性に変えるのは初めて見るな。
──エル。
──エル:勿論です。既に情報収集を厳にしています。
「うおおおお!!!!! <氣炎撃>!」
斧に纏わせた、氣力の炎。あれは破壊力と、火属性だな。
しかし、炎は、火の一形態でしかないのだが、良いのだろうか。良いのだろうな、創造神だし。
斧から、炎の斬撃波とでも言うものが、空に撃ち出される。
そして、歓声が上がる。
悲鳴ではないため、きちんと根回ししてたな。
結局やるつもりだったんじゃねぇか。
「ふー、どうよ。俺は斧と炎がメインなんだが、カッコいいだろう!」
この辺は燃えるような木のない、野営地だから良いが。確かに派手だな。
「ええ! 凄い威力が有りそうですね」
「おう! もっと凄いの見せてやる。下がってな!」
「おっと、レッド君、もっと下がるよ」
ロンドは、斧を構えて力を溜める。
そして──放つ!
「おらっ、おらっ! おららららら!!!!!」
大丈夫か!?
さっきの<氣炎撃>のような炎撃が、斧を振り、切り返す度に撃ち出されていく。
「はーっ、はーっ。どうよ! 俺の大技だ! 前に囲まれたときに連発してみたのよ!」
「あれはそれで助かったね。だけどリロを少し焼いたのは忘れちゃダメだよ?」
「分かってるって! 謝ったしな。どうだったレッド」
「ええ。1発毎はさっきの方が強くとも、あれだけの数。一撃毎の重さ。凄いですね。
どんな技名なんですか?」
「ねぇ!」
「あっ、教えられないのなら、勿論聞きませんよ」
「だから、ねぇ! 名前つけてねぇ。<氣炎斬>や<氣炎撃>は鑑定で分かったやつだけど。
今のは俺が編み出したやつだからな。
そうだレッド。お前色々発想良いし、名前付けてくれないか?」
「俺でいいんですか?」
「ああ! お前が良い!」
技名ってのは、結構大切だ。
スキルが認識によるもの。技名もそうだ。
良い技名は、それだけ強いものになりうるし、実際にスキル技に昇華しやすくなる。
鑑定協会での鑑定では、レベルとスキル、耐性が基本的に表示される。
そして、スキルのスキル技も、技名だけは表示されるのだとか。
「そーですねー」
どうするかねー。
「そうですね。氣炎・大瀑斧……、なんてどうでしょう?」
「おう?」
こんな漢字で、こういう意味だと伝える。
公用語が日本語、創造神アザス!
「でっかい滝か! 良いじゃねぇの!」
「うん。僕も賛成だ、良い語呂だしね」
「そうだ、ロンドさん。斧を毎回切り返してましたよね?」
「そうだぜ? ラッシュ、ラッシュ! で押しまくるんだ」
「回転してみてはどうでしょう?」
切り返しにより、撃つタイミングになるのは分かるが、ロスが気になる。
顔に疑問を浮かべるロンドに。
「こうやって、こう!」
手斧を構え、ぐるんぐるんと何回転かする。
足の加速でタイミングを取り、加速毎に威力を増す。
「おお! 良いな! やってみるぜ!」
さて、どうだろう。
厨二病の精神で、ついアドバイスしてしまったが。
あれ、難しいけど。<体術>と<格闘術>、そしてエルさんでどうにかなったけど、俺は。
「カノンさん、また下がりましょう。自分で言ってみては何ですが、不安です」
「そう、だね。あの調子に乗った顔は、まずいな」
「習った魔術で、火と風のバリアを張っておきます。弱いですけど」
「お願いするよ」
詠唱を聞こえるように挟み、発動。
やはり、詠唱すると効果が大きいな。
というか、レベル上がってるしな。
「よっし、やってみるぜ。回転版の、氣炎・大瀑斧だ!」
ぐるんぐるんと、俺の手斧よりも長い斧は。
その長さを持って莫大な遠心力を生み出し。
滝のような圧力で、炎が撃ち出されていく。
先程よりも、連射速度、威力は明らかに増している。
そして──ズシャ!
「いってぇ!」
「……転んだね」
「……転びましたね」
やっぱり目が回って、バランス崩したか。
「いってー、カッコわりぃな。レッド、確か回復魔術使えるって言ってたな。かけてくれないか?」
「俺の魔術で良いのなら」
他者にかける貴重なケースだ。
「おっ、助かるぜ。しかし、最後はカッコつかなかったけど、ありゃー、良いな!」
「そうだね、命中率は低くなるけど、威力も速度も上だったように思える」
「んー、どっちにすっかね」
「使い分けてみてはどうでしょう? 敵が周りに居るのなら、回転。
敵が固まっているのなら、切り返しで」
「そうだね。どちらかにする必要はないよ。どっちもやってみたら? フォローするから」
「おう! そうだな、レッド、アドバイスありがとよ」
「っと、回復はこれくらいですね。あと、これを」
「おっ、ポーションか? 良いのか?」
「これ、自作なんですよ。効果はまだまだ低いんですけど、良かったら」
「そうか! なら試してやるぞ」
よしよし、同意を得た治験だ。
「ロンド、フォローするとは言ったけど」
「あん?」
空き瓶を返して貰いつつ。
「あれはフォローしてあげないからね?」
『──てめー! ロンドォ! どこ撃ってやがんだ!』
「げっ、リロ!?」
「じゃ、レッド君。あっちで斥候系の技能を教えてあげるから、行こうか」
「はい、カノンさん」
「ちょっ、おい!」
「おらぁ! 俺っちの鉈を喰らいやがれぃ!」
「おい! 模擬用でもあぶねぇぞ!」
「テメーが言っても説得力ないわ! 1発喰らっとけ!」
「良いんですか? カノンさん」
「良いんだよ、殴りあえばすぐに収まるから。トレインの回復を使う良い機会さ。
レッド君も後で、回復をかけてくれないかな?」
「ええ、良いですよ。魔力も有りますし」
検体が増えるのは良いことだしな。




