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第28話:異文:異常なる男の遺族とは──前編──

本日5話目?


及び同時投稿。


色々注意。

 

 息子が死んだ。


 雷に当たったらしい。

 雷対策された監視カメラに、雷に撃たれる息子の様子が映っていたそうだ。


 その時、大気は不安定だったらしく、息子が雷に撃たれたあと、大雨が降り、雷も幾つか確認される天気だったらしい。


 幸か不幸か、本格的に降りだす前に息子は救急車で運ばれたのだが……助からなかった。


 相当に帯電した雷だったのか。

 殆ど即死であったらしい。

 周りには、高い建物も、避雷針もない、開けた場所。


 つまり、ただ運が悪かったのだ。

 無神論者である私だが、神にでも選ばれたかのような、運の悪さ。

 雷による被害者には悪いが、死ぬ者の方が少ないらしい。

 本当に、運が悪かった。


 だが、()()()()()、悪いとは思うが。


 死んでくれて良かったと。


 大きな問題を起こす前に、ただ死んでくれて助かったと。


 そう思えた。


 ──────────


 息子は、異常だった。

 余りにも、歪だった。


 精神科医であり、心理カウンセラーを生業としていて、尚且つ父親だから気付けたような、些細な違和感。


 この息子は、おかしい。

 妻である母親に似てしまったのか、どうも人に慣れない。

 いや、人を遠ざけているように思える。

 よく、見れば、だ。


 傍目から見ても、真っ直ぐ見ても、普通に成績の良く、人当たりの良い、次男にしか見えない。

 そう、頭から疑い、全てを観察して初めて。


 ようやく怪しいと思えるような、そんな擬態。

 私の方が、疑いすぎていると思いたかった。

 だが、それにはやけに完璧すぎる。

 普通の精神科医()()()()私で有るから、気付いてしまった。


 家族も、家族であるからこそ、何か感じているのだろう。


 兄である長男は、弟を邪険にし。

 姉である長女は、弟にのみ何かを見出だし。

 妹である次女は、1人普通だった。


 そして、妻は。


 次男を特に溺愛していた。


 どこか、相通ずるところが有ったからだろうか。

 次男もまた、妻を他の人間とは扱いが違ったように思える。



 妻は、綺麗な人だ。

 容姿は美しく、モデルに勧誘されるほど。

 胸も大きく、身体はとても良い。

 性格も良く、優しく落ち着いている。

 家事に関しても、妻より旨い店には出会ったことがないレベルだ。


 だからこそ、自分のものにした。


 奇跡のような存在の妻は、最初ストーカー被害に悩んで、私のもとに来た。


 悩みを解決するように、手配するのは簡単だった。

 精神科医として、数年だが培っていた人脈。

 特に警察関係を動かし、ストーカーを逮捕。


 その間、精神ケアをしながら。


 その精神を、徐々に私に向けていった。


 精神科医として、催眠療法を学んでいる。

 それを発展させれば、療法ではなく、支配するのも、難しくはない。

 元々、口先が巧いのも作用して、私は精神科医というより、催眠術師か詐欺師に近かった。


 そのお陰で、妻は、私の妻になった。

 妻の家は、名家のお嬢様と言うわけでもなく、一般家系。

 精神科医というブランドも作用し、妻家族のウケは非常に良かった。


 妻が高校生の時から、その身体は魅力的なものであり楽しんでいたが。

 親には、結婚してから、と説明したのも良かったのかもしれないな。


 そうして、妻が成人してからは、子供を4人も儲けることが出来た。

 それだけ魅力的で有ったという、証明だろう。


 やはり、他の女では満足できない価値がある。



 その妻が、ずっと無表情だ。

 次男の死を目の当たりにしてから、ずっと、妻は止まってしまっていた。


 分け隔てなく育てていたようにも見えるが、一番次男を溺愛していたのは間違いない。


 他の男の影など出来ぬように、暗示をかけた故か、妻は家族以外を信じていない。

 次男にも、似た何かを感じたようで、一番一番溺愛していた。


 少し嫉妬もしたが、それもまた良いものだった。


 その次男は、棺桶に入れられている。

 妻譲りの、綺麗な顔。

 どこか満足げに亡くなっていた。


 身体に、雷による痕跡を残しつつも、綺麗な死に様だ。


 先ほど、死んで良かったと思った。

 何か事件を。それも、凄まじい大事件を起こしそうだったから。

 しかし、この壊れかけの妻を見てしまうと。


 後遺症が、どれだけ重い後遺症が残っても、生きていて欲しかった。

 そうすれば、妻はここまで崩れなかったはずだ。


「ねえ」


「どうしたんだい。**」


「もういい? 別れは済んだ。絵を描きたい」


 次男の姉である、長女。


 次男とは別方向で、異常な娘だが、こちらは理解できる異常さだ。


 この娘は、絵を描くために産まれてきた。

 そう言っても過言ではない。


 よく景色を観るのが好きな印象だった。

 それを、描くのも好きだった。


 クレヨンで、子供の頃から大作を描いていた。


 今は美大に行ってはいるものの、実際には席を置いているだけであり。

 自分で稼いだ資金を使って、家の一部にアトリエを作ったり、別荘を作っている。


 その腕は、昔から評判であり、今も、次回作を期待されている。


 だが、絵に興味が有る。絵にのみ興味が有るからか、他のすべてが抜けてしまっていた。


 妻も頑張っていたのは知っているが。


 成人した今でも、その身長は低く、身体の起伏も乏しい。

 確か、実在した! ロリ美少女女子大生とか、特番を組まれていた。


 ロリは食指も動かなかったが……。

 周りに良いのが近寄ってきたのが良かったな。


 その長女は、絵を描くことだけに全てを注いでいたが、次男にのみ心を少し開いていた印象がある。


 次男が、長女を世話していた。

 それでギリギリ、長女は人間未満だが、ヒトとしては生きている。


「絵を、かい?」


「そう。描きたいの。とてもとても、描きたいの。描かないと、描かないといられない気分なの」


「今じゃないとダメなのかい? **の葬式なのだけど」


「ええ、今でないとダメだわ。そうでなければ、ワタシはワタシでいられない」


「そう、か。なら行きなさい。あまり、迷惑をかけないようにね?」


「そんなことは知らないわ」


 大きめな、黒い服を翻し、アトリエへと赴く。

 きっと、次男のことを描くのだろう。

 殊の外、次男を描くことが好きで、次男のみ認識していた長女だ。

 また、大作が出来上がるだろう。


「はっ、アイツが抜けんなら、俺も良いだろう。運が悪かったヤツのことなんて、もう義理も果たしただろう」


「***。故人を罵倒するのは止めなさい」


「はっ! 親父、綺麗事抜かすな」


 そして、長男も抜けていく。

 その様子に、妻は反応していない。出来るような状態でもないのか。


 長男は、次男を煙たがっていた。

 私も妻も、贔屓はしていなかった。妻は、溺愛こそしていたが、優劣は付けていない。


 だが、長男として、兄として。

 優秀な年下の兄弟たちに比較されて、苦しかったのだろう。

 長男も優秀だが、下の子達は輪をかけて優秀だ。


 長女は絵に。次女は全方向に。


 そして、末恐ろしい程の優秀さを、ただそのままに。特に発揮することもなく生きていた次男に、鬱憤をぶつけようとして。

 失敗していた。私に似たのか、口が回り、長男は次男を苛めることが出来ず、ただイライラしていた。


 長男は優秀だが、性欲も強く、たびたび火消しが大変で、私も伝を使わされた。

 似るのなら、引き際も似て欲しいものだ。


 特に今は就職活動に大変なのだろう。

 それは分かるが、もっと上手く猫を被りなさい。



 想像以上に、弔問に来る者が多い。

 あの次男、人を寄せ付けない癖に、妙に人を惹き付ける。

 そして、上手く対応するため、密かに人気があった。

 それもまた長男には、気に障るようだった。

 全く、それを利用すれば良いのに。プライドが大きすぎる。


 次男を褒めている時のみ、妻は動いている。

 だが、反射で動く人形でしかない。


「ママ。パパ。兄さんの部屋からこんなものが」


 最後の、次女。

 どこかしら異常だったり、ひねくれた子供達の中で、普通に優秀な娘。


「これは、日記? **は日記を付けていたのか?」


 Diaryと表記された、日記。字は、次男のものだ。


 その中身は。


 今日は、自分の好きなおかずが出たこと。

 今日の講義の内容がどうだということ。

 今日はまた告白されたこと。

 今日は母親の調子が悪く心配だったこと。

 今日は姉が新作を出したこと。

 今日は母親が元気で良かったこと。

 今日は兄が突っかかってきたこと。

 今日は妹に勉強を教えたこと。

 今日は母親の代わりに家事をしたこと。

 今日は今日は今日は今日は今日は今日は今日は今日は今日は今日は今日は今日は今日は今日は今日は今日は今日は───────────────────────────


 妻は泣いていた。


 妻に感情が戻っていた。


 なんだ、あの息子は。


 私の勘違いだったのか。ただの()()()()()()()だったのか。


 全く、自分の観察眼が、錆び付いていたのかね。


 良かった。

 息子のスマホは完全に死んでいて、データも復元出来なかった。

 だが、紙のノートに記された日記は。


 家に隠された、日記だけは。


 残っていた。


「あの子はこんなことを、感じていたのだな」


「あなた。あの子は、どうだったのでしょうか」


「それは精神科医の僕にも分からないけど。あの表情。少なくとも、後悔して死んだ訳じゃないようだよ」


「そう、ですね。なら、良かった」


「ああ、良かったとも」


 完全に壊れてしまっては、どうしようもないから。


「パパ」


「なにかな、**」


「少し、抜けても良いでしょうか。顔を見られたくないので」


 ああ、上の二人とは違って、良い子だ。

 その身体も、姉と違ってよく実っている。

 次男とよく居たため、なにも出来ていないが、落ち着いたら、行うのも悪くない。


「良いよ。時間までには戻ってくるようにね」


「はい」


 妻はまだ、日記を読み続けている。


 そしてコピーしようとしている。


 ラミネート加工? あ、ああ。分かったから、葬式の後にしないか?

 きちんと送ってやろう。




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