第21話:それは──大体──違うよ!
3日目:冒険者ギルド、訓練場
視点:冒険者ギルド、アルサの町支部、支部長:ライドウ
今回は、有望なのは居るかね。
このアルサの町のギルドのマスターになって数年。
家族も出来て、進路を悩んでいるときに誘われてなったギルドマスター。
アルサの町は、周囲が平和な土地で、戦闘力など無い家族が安心して暮らせる町だ。
代わりに、歯応えはほぼなく冒険者は半引退だ。
とはいえ、ギルドマスターっていう職は俺に合っているようで、特に不満はない。
安全故に、わりと発展しているアルサの町では、新人冒険者はあまり増えない。
というか、冒険者はそんなに居ない。
依頼:供給と、需要が合うような数ぐらいだ。他の町に行けば良いのだし。
王都では、毎週新人研修をやっているらしいが、ここじゃあ、月に1回、2回位。
毎回参加しているが、俺にゃあ話し掛けてこない。
まっ、職員って嘘でもないこと言ってるし、鍛え上げた身体がこえーのは、分かる。
分かるが来いよ、冒険者だろ? お前ら。
おっ?
「ライドウさん、Fランク冒険者のレッドです。お願いします。」
「ああ。教えて欲しいことと、言えるスキル、戦闘方法を言ってくれ」
こいつは確か、ロンドに絡まれかけた新人の赤い髪か。
上手いこと逃げてたのは覚えてる。
あのバカは腕は良いんだが、のーたりんだからめんどくせーんだよな。
俺的にゃー嫌いじゃない。のーたりんだが、その分鍛えてるしな。
「スキルは<剣術>と<投擲>です。氣力と魔力は少し扱えます。武器は剣と、石を投げること。魔術も少し、扱えます。
ライドウさんに教えてほしいのは、剣と氣力、体術です。
午後は、弓術と魔術を他の人に教わろうと思ってます」
「随分手広くやるんだな」
「まだ、自分が何に合っているかが把握しきれてないので、試しているところです。メインは剣と投擲を磨こうと思ってます」
ほう、設計が良くできてる。
レッドという、口が回る冒険者を、自然に観察する。
身長は高めだが、まだ青い顔を見る限り、もう少し伸びそうだな。
身体には、筋肉はついている。軽戦士系統のつき方だ。
だがしっかりとついている。足運びにも気を配っているな。
基礎はきちんと押さえているって訳か。一朝一夕には身に付かないからな。
「そうか。まずは動きを見せてくれ。剣の動きだけで良い。氣力はとっとけ」
レッドが剣を取り出し、振るう。
ほー、悪くないな。まだまだ荒削りだし、経験の無さは分かるが、才能は有るな。
むしろ、良い方だ。
スキルだけに寄っ掛かっている奴が多いが、こいつはしっかりと考えて振っている。
ステータスも、この位の年なら、恵まれてるだろう。
俺は自分の観察眼を信じてるからな。こいつらのデータは見てねぇんだが。
こいつが一番の有望株だろう。
「その辺で良い。俺は言葉で説明するのが苦手だ。だから、実演するから見て学べ」
俺は言葉が苦手だ。武器と武器との方が意志疎通出来る気もする。
言葉遣いも殆ど直りゃーしない。
訓練場に設置された、模擬戦用の武器から、一番レッドの得物に近いものを取り出し、振るう。
俺にゃあ少しちいせーな。比率が近いものにするか。
剣を取り出し、振るう。盾は今回は良いらしいから、片手剣のやり方だな。
剣を振り、体捌きを見せ、可視化させた氣力を纏い、教える。
おうおう、視られてるな。そうだ、それで良い。自分より強いものを観察し尽くせ。
しかし、このレッドという新人。
俺の<超直観>が違和感を伝えてくる。
明らかに新人だ。まだまだ駆け出しの。
そのわりには、強いところもある。ちぐはぐだ。
よくわかんない奴だ。だが敵でもないし、向上心の高いやつぁー悪くねぇ。
精々、教えてやるかね。
「これくらいだ。何か見えたことはあるか?」
「はい。腕を振るうときに死角を作らないようにすることや、腰の位置などを」
「おう、悪くねぇ。次は模擬戦だ。俺はこのまま剣を使う。
レッド、お前はそれに近いやつを選んでくれや」
きちんと言語化出来てやがるな。そんなに俺考えてないんだが。
「おし、あっちでやるぞ」
素振りよりも、大きく立ち回るだろうからな。
邪魔にならないところに移る。
訓練場が広いってのも、良いとこかね。ここは。
「んじゃ、構えて、かかってきな。最初はお前さんからかかってこい。俺はそれに応対する。
そっから学べ」
「はい……。では、参ります」
おう、良い戦意だ。そうだ、殺す気で来い。
王都の格闘場に有るような、ダメージ転換装置が有るわけじゃないが、訓練用の得物なら、そんな怪我はしねぇし、回復魔術師も居る。
多少の怪我は覚悟しろよ、ガキ。
数メートル以上離れた距離を食い潰してくる。
速いじゃねーの。
だがそれだけ──っと。
氣力による加速か。おまけに、腕と剣にも纏わせやがって。
何が少し扱えるだ。バリバリ使えんじゃねーかよ。
流石に、氣力剣だと、得物がやられる。こちらも最低限の氣力剣だ。
ふん、良いぞ良いぞ。もっと来い。
そうだ、相手の嫌なところに振れ。
一気に攻めこむな、戦術を立てて、そうだ、それで良い。
おっと、戦意を向けすぎだ。先が見えちまうぞ。
流れを作れ、相手の流れに巻き込まれるな。さもないと。
「おら!」
<強撃(弱ver)>で弾き飛ばし、<斬撃波(弱ver)>を放つ。
どう対応する? その崩れた体勢でどうっ──っててめぇ! 崩れたのフェイクかよ!
しかも、斬撃飛ばしてきやがった!
「今度は俺からも攻めてくぞ。防いでみろ!」
斬撃を弾きつつ、攻め入る。
身体能力に制限をかけ、レッドよりも大分強めに合わせて、剣を振るう。
俺の剣は、オメーのより長いぞ。
リーチの違いをどう攻略する!
攻める、攻める。1拍置き、次は半拍子変えて放つ。
コイツ、対応力たけーな!
ギリギリで避けて、アホかと思ったがコイツ、きちんと見極めてんな!?
相対位置と、体勢の立て直しにかかる時間を計算してやがる。
演算系か、思考系かはわかんねーが、多分<高速思考>か<思考加速>だ。
しかも、まだまだ拙いが、剣を流してきやがる。
はっ、良いじゃねーの! レッドォ!
徐々に速度を上げていく。レッドも、氣力で速度を上げていく。
どんだけ氣力持つかね? 氣力も魔力も扱えるタイプなら、多分氣力特化じゃねぇ。そんなにねぇだろう──って、氣弾だぁ!?
虚を突くのがうめぇなおい!
<超直観>あっても、驚くことは驚くんだよ、気付いてもな!
右手の剣からは氣刃の斬撃波、左手は氣弾。
随分と大盤振る舞いだな!
体力も氣力も、そろそろ無くなるな?
午後からは、魔術つってたな。だから今は、氣力使い尽くして良いってか!
そうだ! 今は結局は模擬戦だ! やってこい。打ち砕いてやる。
氣力による強化を増し、攻勢を強めてくる。
コイツ、本当にスキルになってねぇのか!?
才能が有りすぎて、スキルに昇華する前に強い力を振るうってのは聞いたことあるが、そのタイプか!?
なんにせよ、そうそう上手くは行かねぇぞ!
攻撃を弾き、こちらも攻める。
っと、足元に氣弾を炸裂か。よく地形効果も頭に入ってんな。
<超直観>で反応できるとはいえ、制限している、少し足を止めたうちに距離を取り──氣弾の同時撃ち!? 数十個だと!
威力はねぇが、弾幕か!
しかも幾つかは氣力を多目に籠めてやがる。
だが、違いが分かりやすいぞ!
氣力剣を強めにし、思い切り凪ぎ払う。
おいおい、また地面に炸裂させての目眩ましか。殆ど砂は舞い上がらないが、氣力によるチャフには少しなってるな。
だが──戦意が強すぎだ。見え見えだぞ。
強力な一撃を弾き──!?
剣だけ!?
<超直観>が告げる。
下だ!
剣の腹を向け、氣力による盾にする。
ダァン!
氣力を込めに込めた、掌底!
これはさっき俺が体術で見せた技の1つかよ!
ここで出すか、だがまだ甘かったな。
「新人にしちゃー、相当筋が良いぞレッド」
首に剣を突き付ける。
まっ、これで一区切r──左腕を振り上げる!
無意識の内に、氣力の籠手を作り出し、上に対するガードをしていた。
「んなっ、氣力弾だぁ!? レッド、まだ手札あったのか!」
「やれやれ、やっぱり通じませんでしたか。最後のは少し自信があったのですが」
残念そうにしてるが、元Aランク冒険者の虚を突いたんだぞ。
威力は、俺にとっちゃ欠片みたいな威力でも、当てられないのと、当たるが効かない、には大きな差がある。
「レッド、お前は相当強くなれるぞ。今でも強さはEランクに引けをとらねぇし、戦い方も、上位冒険者並みだ。
レベルが上がって地力が付いたら、確実に英雄格を狙えるぞ」
「そっ、そうですか。それは嬉しいですね、ふぅー」
「どうしたよ」
「いえ、疲れが出てきて。圧力が凄かったので」
「っと、そうだったな。良い戦い振りするから忘れてたぜ。勉強にはなったか?」
「ええ、それはもう。ただ少し休んで良いですか?」
「ああ、あっちで休んどけ。余裕があるなら、他の奴等の訓練も見てろ。お前の【眼】なら、参考になるだろうよ」
レッドか、確かミーシャだったな、最初に受け付けたのは。
ミーシャの性格なら、その後も担当しようとするはずだ。
少し聞いてみるかね。
ギルドマスターはレッド君を気に入ったようです。ただ、レッド君はあくまでも強くはないです。
その戦い方などを気に入りました。
ギルマスはすごく強いです。基本的に強さ前提で、その他信用と、事務ができるなどで選ばれます。




