第19話:マスター、それは非推奨です
注:残酷ではない表現が有ります。推奨するものでは有りません。決して真似しないで下さい。
2日目:アルサの町:風鷲の宿、客室。
今回は先に食堂で食べて、お風呂でさっぱり。日本で生まれた元は人、今は人外だけあって、お風呂は良いね。
石鹸類とかも、一応有る。中級以上で出回り、上は見だしたらキリがない。
凄いらしいぞ、魔法の石鹸。お肌ツルツルとかレベルではなく、ガチで変わるのだ。
その辺は、現代日本より進んでるな。化粧品て、高いがその分価値があるのは分かる。
人間に興味を持たないようにしてたのも有り、そこまで他人の顔見てなかったがな。
さて、本日もまた、色々やらかそうのコーナーだ。
相方はエルさんです。どうぞよろしく。
エル:了
俺の成長性は、無限大だ。ごめん嘘。……でもない。
本当に、成長性は、無限になりうるのである。今は塩辛い程度だがな。
そこで、成長方針は必要だ。
めっちゃ大まかには。
一極型。平均型だ。
一極型は、それ全てにリソースを割く。
単純に強く爆発力もある。
メリットも単純に分かりやすく、大きなものだ。
デメリットも分かりやすい。対応力、多様性の欠如だ。
一切合切、全てを凪ぎ払う程に強いので有れば別だが、強くなるまでには、大変だろう。
平均型。これは適性とか色々有るが、俺の適性は全方向に伸び、殺害に関して特に伸びやすい。
平均型には成れるだろう。
これのメリットは、一極型の逆と言って良い。
多様性は増え、選択肢は複数有り、対応力が広い。
そして、ここぞという爆発力に欠ける。
ゆえに、俺がとる方針は、偏極型だ。
一番多い方針だろう。
固定パーティーの居る冒険者は一極型になりやすい、それを選択しやすい。
ソロは平均型、若干の偏極型が多い。
これは、パーティーならそれぞれの役割を果たせば良く、その方が効率が良いから。
ソロは、一人でなんでもこなせるように、平均型を選ぶ。
だが、俺の成長率、成長速度は異常になりうる。
偏極型にし、集中して育てるものは、才能を尖らせた者よりも早く。
広く育てるものも、努力する者よりも早く育たせる。
それだけのポテンシャルは有るし、そうしなければならない。
たとえ寿命がないとしても、早いに越したことはないのだ。
さて、特化するものを決めよう。
まずは回復魔術だ。回復は重要だ。
今の俺の力では、軽い傷を癒し、毒を消し、傷跡を少し治すくらい。
特に、部位欠損と呼ばれるものや、重篤な病気は治せない。
病気に関しては、普段からエル式セルフモニタリングしてるから優先度は低いが、病気関連のスキルが怖い。
俺の肉体は、この世界で構成された物で、まだ獲得免疫などは育っていない。
更に、部位欠損。傷痕ならば、魔力を注ぎこんだり、氣力による活性で、少しは治る。
だが部位欠損は……無理だ。足りないものが多すぎる。
よって、特化宜しくエル。
エル:了。同じく、エルも回復魔術の優先に賛成します。
エルさんも賛成らしい。安全度が上がるからな。
実は回復魔術にも攻撃技は有るらしいんだぜ?
しかも、とびきり強力なのが。
そして、操作スキルの特化。操作系スキルは基本だ。これを強化しまくれば、磐石になるし、選択肢も増える。
エルさんに任せておけば、どんどん上がっていくだろう。
エル:了。
純戦闘系スキルは、<剣術>と<投擲>、魔術の<無属性魔術>。
寝ていることを前提にすると、魔術だ。
実は習得しようとしている無属性魔術がある。
さっきから頑張っているのだが、中々難しい。
それは、念動力。テレキネシスとも言う。
<魔力操作>と、<無属性魔術>に類する力だ。
魔力で、何かを動かす。それだけだ。
スキル<念動力>系や、<無属性魔術>のスキル技が生えないかなー、と必死になって動かしているのだ。
何のためか。
そう、念動力が有れば寝ている間、より<魔力操作>を使える。
そして、動かすものは、なんだ。
そう! 剣だ!
僅かだが、<剣術>スキルの熟練度が上がりそうなのだ。
そして、<投擲>にも関わる。投げるからな。静かに投げて、キャッチを繰り返す。
我ながら素晴らしい案だ。
そんなわけで、魔力を意識的に動かす。うーん。
ここは、発想しまくるか。
魔力の質のイメージ。
魔力で包む、魔力で掴む、魔力ごと動かす、魔力に質量を持たせる。
…………。
───────────────────────────
エル:マスター、スキルを獲得しました。
おっ!
どんくらい時間かかった?
エル:マスターが集中を開始してから15分程です。
そんくらいか。いや、スキル獲得に、恐ろしく早くて数日、早くて数週間、普通は数ヶ月、頑張って数年、ダメなやつはダメ。
そう、とてつもなく早いのである。
思考超加速の加速倍率を調整し、魔力を十全に操作できるギリギリ且つ最速でやった結果だ。
体感では、もっともっと長い。そう、集中してたから分からないが、主観の実時間は知りたくない。
なので、エル先生、そっちの計算は良いので、スキルの報告を。
エル:了。表示します。
【ステータス】
個体名:レッド
新規獲得スキル。
ノーマルスキル
<念動力:レベル:1>new
魔力で、何かを動かす事が出来るスキル。
レベル1では、小さなもの、軽いものを、近距離で干渉できる。
<無属性魔術>からの派生。無属性魔術にも、熟練度が入る。
<集中:レベル:1>new
集中力に補正。集中しても、周囲への注意を保持できる。
<投擲>スキルに効果有り。
他、情報系スキルに効果有り。
おっ? 集中しまくったら、<集中>取れた。
良いスキルだ。
エルさんにも効果有るみたいだな。
<念動力>も取れた。
やはり認識に依存するのか、<無属性魔術>の<念動力>が、スキル<念動力>単体として、確立したようだ。
──ちなみに、テレキネシスとサイコキネシスという言葉が有るが、この世界:イリガルドでは明確に区別されている。
テレキネシス:精神力を駆使し、魔力で運動を発生させる。
サイコキネシス:精神力を駆使し、魔力そのもので相手に攻撃・干渉を行う──
このように、スキルに含まれる、スキル技がスキル単体として、生えることは、まま有る。
本来は別種になり、経験値テーブルも別になるのだが、リンクしてくれたようだ。エルさんが。
さて、では次だ。
俺の、潜在的な弱点の1つ。
これの克服を目指す。
それは、痛みに対しての慣れだ。
俺は喧嘩をしたことがない。
喧嘩を起こさないように立ち回るし、喧嘩に関わらないようにすることもあれば、喧嘩に発展しないように抑えていた。
その為、俺は痛みというものに、そこまで慣れていないのだ。
エルのサポートと、精神耐性も有るが、慣れておいた方がいい。
なので、ここに清潔なナイフは用意した。
ポーションも有る。
宿屋の客室備え付けの椅子に座り、周りを汚さない配慮を整える。
いざ!
スッ。
血が、落ちる。
前に拭き取り、氣力を集中。
傷を、修復。
良し。
エル、どんな感じ?
エル:僅かに熟練度が入っています。あまり推奨できるやり方では有りません。
あらら、ダメ出しされちった。
指先に、ほんの僅かに切り傷を作っただけなのだが。
最初から、ざっくりいくわけがない。俺も、自分を痛め付けたい訳ではないのだ。
必要だからしているだけで、俺はドM思考にはなれないし、ならない。ドM、マゾヒズムとはまた違う気もするが。
氣力を使って、肉体を活性化させることで、自己治癒力を上昇させる。
それにより、傷の修復をする。
回復魔術とは、異なる回復方法だ。
体力の回復は難しく、怪我の修復もそんなに出来るわけではないが、回復手段は多いに越したことはない。
細胞分裂のし過ぎで、寿命が短くなる、という可能性も、俺以外には有る。
俺は、種族特性による、不老。
この微妙に成長チートでも有るこの特性で、劣化せずむしろ強くなるのだ。
魔力を使ってしまったから、氣力を使っているという事情もあるが、この作業により。
1、痛みへの慣れ。
2、氣力の扱い、及び肉体の成長。
3、切る:切断or斬撃に対する耐性へのアプローチ。
4、皮膚の対刃性能上昇。
まぁ、色々だ。
皮膚については、固くする、というよりは、断ちにくくする、だろうか。
この辺も、認識によって変えられる。
俺は人外の化け物。人の形を持つ、人ではない何か。
俺自身は、この人の形そのものは気に入っている。
それに、人の形は、魂の力を最も発現できる形の1つらしい。
故に、人類は強いのだとか。
とはいえ、わざわざ人の常識に捕らわれる必要もないから、皮膚を変えていく。
皮膚の柔らかさを経ったまま、強くする。
物理法則先生は、この世界では肩身が狭いのだ。
──────────
よし、このくらいにしよう。
エル:あまり推奨出来ません。ですが、皮膚のデータが増えました。夜間に、<回復魔術><氣力操作>を基にしたアップデートを行います。
あらら……、宜しく。
氣力の代わりに、魔力も回復してきた。
魔力ポーションも呷ったしな。
そこまで不味くもなかった。ソナーやら、味覚上昇やらで、更に調べたけど。
ポーションは。
生命力ポーション。
体力ポーション。
魔力ポーション。
氣力ポーション。
俺の買った、安いがきちんとした──鑑定により検査済み──ものは、全て遅効性のものだ。
戦闘時ではなく、戦闘が終わったあとに飲むようなもの。
単位時間当たりに回復する量を少し増やす、という効果だ。
即効性の有るものは、価値が高く、お値段も高い。
また、消費期限も有るぞ。アイテムボックスに入れれば関係ないけど。
消費期限の近いポーションを一揃い。
消費期限がまだまだ持つものも、一揃い。
近いものは、今呷って、データ収集兼回復。
長いものは、隠蔽工作用だ。
さて、お次を試そうとするのだが。
エル:その方法は非推奨です。
止められてしまった。
何をしようとしているのか。
<トロドの毒薬>
ランク:ノーマル
服用により効果を発揮する毒薬。主にダメージ毒。
トロドという毒草から抽出して作り出した薬品。
主に、狩人や冒険者が罠に用いる。
これの服用実験だ。
ちなみに毒に関してはそんなに解説しない。今回解説書多いし。
元の世界:アースのデータや、神話を基にしたこの世界:イリガルドは、共通する情報もあるが、異世界特有のも多い。
毒に関しては顕著だ。
医療知識は勿論効果があるが、発揮しきれない。
毒には、それこそ出血毒のなになに、麻痺毒のなになに、生理機能を低下させる毒のなになに、のように、沢山有るのだが。
この辺の、設定厨なところはエル様にぶん投げ。
毒を服用することで。
1、<回復魔術>の、特に<ポイズンキュア>の熟練度稼ぎ。
2、痛みへの慣れその2
3、毒耐性へのアプローチ。
4、その他、生理機能の確認。
ただ、エルさんにめっちゃ止められる。
最初は、ほんの少なめからやるのに。
<トロドの毒薬>は、大抵の毒耐性のない生物に効果を発揮するダメージ毒。
しかし、代謝や回復魔術で、比較的容易に治療される。
腹が破裂するほど摂取しなければ、この身体では瀕死にもならない。
──エル、これは必要なことだ。安全マージンもしっかりとるし、きちんと配慮して行う。
──エル:……了。
──何より、エルが居るからこそ出来ることなんだ。データ収集にフォロー、頼むぜ?
──エル:……了!
おや?
エルさんは、疑似人格は有るが、意思:意識はないはずだが……。
んじゃ、一口。
ふむ、味は殆ど無い。
毒の性質上、食べ物に混ぜるだけあって、違和感の少ないタイプの毒だな。
毒の味も、覚えていく。味覚強化は、毒味に使えるのだ。
美味しい食べ物、料理が食べたいものだ。
飯テロ系の如く、料理人をいつか手に入れるかな。
もしくは、料理系スキルを俺が取得するか。
……うむ、それは悪くないな。必要にもなるだろう。ただ、食べるのであれば、美少女の手料理が良い。ただし人外の美少女に限る。
せっかくの異世界だもんなー。
っと、毒の感覚がこれか。
吸収が随分早く、全身に回るもんだな。
身体が、痛い。
治療の意向を進めるエルに対し、まずは体内の確認。
痛みに堪えながら、情報を取得。
そして、<ポイズンキュア>を絞り発動。
ふむ、こんな感じか。実際に消えるというより、中和のイメージだな。
<トロドの毒薬>の毒は、増えるものじゃない。あくまで摂取しただけの分だ。
確認し、治療を施す。生命力も減ってるな。当然だ。
毒を呷り、確認して、治す。呷るという言葉が合うな、毒には。
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ふー、ここまでにしよう。体力も随分使った。
エル:……お疲れ様です。
おう。それじゃあ、魔力・氣力を使い尽くす前にポーションをまた呷り、使い尽くす。
エル、いや、<自己進化型大天使>たる我が大天使エルよ、頼んだぞ。
エル:! 了!
カッコつけてみた。
実は、一番特化して育ててるのは、エルさんかもしれないぜ?
ZZZZzz(注:イビキはかいてねぇよ! Byレッド)
エル:これより睡眠時トライアルを開始します──────────────────────────────────────────────
2日目終了。
おや? エルの様子が……。
レッド君は、必要があれば、色々出来る精神の持ち主です。必要がなくても、男のロマン的な何かでやったりもします。




