第134話:外伝:とっちゃんのアウトな日々──12話
視点:アウト
なんでしょう、バカにされたような。
或いは見られていることを示しているような……。
まあそれは置いといて(モーション付き)。
オイラとゴブリン隊9人との模擬戦っス。
勿論ハンデ有り。
あっちはアイテム類の制限。
こっちには、フィールド選択権と、魔力・氣力が常時MAXっス。
アニキが常時、オイラの上限まで供給することで成立させるらしいっス。
まぁ、体力や精神力は自前っスけどね。
回復出来るのも、体力や負傷ならともかく、精神力や集中力はガリガリ削られて行きそうっス。
さて、行きますかねー。
──────────
オイラが今居るのは、森の中。
おいでよ紅血の森ではないっス。
普通の森。なんの変哲もない、森。
ただ動物は存在せず、一般的な樹木だけの森っス。
いやー!
すばらしいっスね! まともな森って!
なんで森エリアを戦闘フィールドに選択したかと言うと。
まずは障害物っスね。
相手は9人、こちらは1人。
広場とかじゃあ、話にならないっス。
それに、オイラは立体機動出来るんで、足場となる枝葉が有ると便利っス。
それに、相手も分散してくれれば各個撃破も可能になるっス。
まずしてこないと思うっスけどね。
もし1人や2人で居たら、釣りでしょうね。
第2の理由としては、森での経験値っス。
……ずっと紅血の森で戦ってたんで、森林エリアでの戦闘経験値がバカにならないっス。
相手には、森に強いトウゾさんやユミさんが居るっスけど、他のヒトなら多少は有利になるでしょう。
『あーあー。テステス。本日は晴天なりはマイクテストに不向きなり。
あー、聞こえるか? 聞こえてる前提で話すぞ』
アニキのホログラムが空に映っているっス。
光属性と水属性っスかね?
ホログラムは胸より上だけ映る仕様みたいっスね。
多分何かが元ネタでやってるんスね、アレ。
というか突っ込みどころ多すぎて間に合わないっス!
『今回はアウトVSゴブリン隊。そのハンデ模擬戦だ。
森フィールドでの遭遇戦。エリアからは出れないようになっていて、内部はどれだけ破壊しても良い。
アウト側の勝利条件は、ゴブリン隊全員の戦闘不能、もしくは死亡。
ゴブリン隊側の勝利条件は、アウトの戦闘不能、もしくは死亡。
まぁ、やり合えば良い。
設定したハンデ以外は何してもかまわない』
さて、静かに集中力を高める。
まずは相手を見付けること。
そして、倒すこと。
やることはシンプルっス。
『準備は良いな?
────戦闘開始!』
ブワァァァ────!
っと風が吹き抜ける。
この為だけのエリアエフェクト組んだんスか、アニキ……ッ!
まずは隠密を発動。
殴ったものは隠匿されるグーパンチ。右手で3発分。
左手で、受動探知を発動。3発分を直列発動させて強化。
グーパンチに当たる感覚を強化・確かめるっス。
3発分なのは、それが一番効率が良いからっス。
普段なら消耗が大きすぎて使わないっスけど、魔力たっぷりなんで。
3発以上だと、精神力・集中力を使いすぎるっス。
ふーむ。
この森に動物は居ない。
エリアエフェクトによる風で揺れるのは植物のみ。
探知出来たのは7つの生命体。
次いで、微かに1つ。
これはレンジャー系技能も有るユミさんスかね。
トウゾさんはさっぱりわからないっス。
今わかることは、8人が1ヶ所で固まっていること。
既に陣形は取れている。
トウゾさんは分からない。
1人で行動して罠か、同じく団体行動か。
あちらにはアナさん含め、探知出来る人材が居るっス。
でも、こちらには来ていない……?
分かっているのか、いないのか。
まずは、あちらと同じく罠を張りながら接近するとしましょう。
あちらさんは、全員が隠密するのは不可能と考えて、陣地を構築しているようですし。
こそこそ。
こそこそ。
受動探知は、能動探知と違って、周囲の情報を読み取るだけなんでバレにくいっス。
さてさて。
やっぱり問題はトウゾさんが何処に居るか。
トウゾさんの純攻撃力は低い。多分ホリィさんより低いっス。
その代わり、瞬間ダメージ量ならトップっス。
暗殺系ですし、アイテム使いっスからね。
その分一番ハンデで弱体化してるはず。
弱体化してても手強すぎる相手だけど。
あちらのリソースは限られている。
狙うとしたら……。
──初手! アルティメット・グーパンチ・セカンド!
樹上から、ホリィさん目掛けて必殺遠距離攻撃を放つっス。
技後硬直が殆どなく、速射出来て込められる最大の氣力を込めた。
技の性質は弾速優先の一撃。
相手の感知限界一歩手前からの不意打ち!
「<盾術><ガーディアン>!」
ホリィさん目掛けて進むグーパンチビームはキシさんにインターセプトされる。
今回キシさんは愛馬であるファングは居ない。
その為、大盾装備のタンク役っスかね。
右手で能動探知。3発分を並列で。
パターンの違うソナーを極短い時間差で放つ。
──感有り。オイラの真後ろ5歩!
飛んでくる魔術と矢、遠距離武技を遅延発動させた推進グーパンチで右に飛び出し。
加えて殴って飛ばすグーパンチで、更なる緊急回避。
オイラの首が有った場所を、短剣が交差した。
トウゾさんこっわ!
あっちはアナさんが情報を収集、即座に同期しているゴブリン隊に波及するから面倒っスねぇ!
左右のグーパンチを3発ずつ、ジャミングを発動させ拳を打ち合わせる。
合わさったグーパンチは、光と音と。
空間の情報を掻き乱してオイラの情報が錯綜するっス。
加えて衝撃波(弱)が発生するんで、神出鬼没なトウゾさんを捉えられる。
瞬間、隠密を再起動させて隠れ。
一気にキシさんに肉薄。
──次手! アルティメット・グーパンチ!
驚きに目を見開くキシさん。対応は早く<盾術>を発動される。
でも、完全には発動出来ない時間差。
今度の隠密は5発分!
一瞬しか効果がない代わりにめちゃつよっスよ!
右腕を少し自壊させるほどのグーパンチ!
「がぁ!?」
加えて!
左手に氣力を集中!
氣力は渦巻くように、ドリルのように、削り取るように。
放つは、セカンドとは真逆の用途!
──アルティメット・グーパンチ……サード!
その用途は、射程:至近距離の強威力!
殴った全てを消滅させたら嬉しいグーパンチっス!
右手のアルティメット(無印)で硬直したキシさんの顔面にサードを叩き込む!
バリンバリンパリン!
くっ、顔の前に魔力盾が3つ!
リアクティブと今作った奴っスか!
それでもサードは容易く盾を食い破り、顔面を破壊する。
くっ、仕留めきれなかった……。
でも一時リタイアっス。ホリィさんにも、回復に手を割かせるという選択肢を与えられる。
その代わり、サードにはまだ慣れてないんで左手が砕けてるっス。
いやー、痛いっスね(棒)。
ちなみに、ほぼ会話はないっスよ?
だって、基本念話っスから。
そもそも会話で相手に情報与えることはないっス。
技名とかも、理由がないと発言しないっスから。
紅血の森で慣れてしまった、手の再生を加速させる。
オイラ殴らなくとも、回復できるようになったんスよ。オイラの腕限定で。
そこを狙って、前衛のセンシさんとソウシさんが来る。
ソウシさんは短槍に変えてる? 森対策か。
──グーパンチ。
何時から砕けた手ではグーパンチ出来ないと錯覚してたんスか?
センシさんの斧も、ソウシさんの槍も、リチャードさんやアニキに比べればまだまだ遅い。
対応可能圏内っス。
1度に装填できるグーパンチは現在、それぞれ6発!
そのうち3発分を回復に、3発分を攻撃と移動に!
木々を足場に、移動しながら攻撃をばらまく!
1発を更に分けるショットガン風味のグーパンチ!
って、なんスか今の一矢!
センシさんの後ろから隙間を縫うように飛んできた上に曲がった!?
奇射って奴っスか!
砕けた右足膝を無視し、左足とグーパンチで機動。
くっ、ホリィさんが回復してるし、マホさんは弾速の遅い魔術は使わず、移動阻害と補助に専念しているっス。
あと、何もしてこないトウゾさんが怖い!
治った拳に6発分の回復イメージを込めて膝を治す!
膝は複雑なんでイメージ大変っス!
もう片腕の6発分をショットガン。
トウゾさん近くにも居ないんスか! 警戒されてるっス。
あっ、キシさんが大分回復してしまった。
流石耐久力の高い相手っスね。
はー、しゃあないっス。
もう6発使い始めたっス。
地面に降りて、グーパンチを叩き付ける!
イメージが大地に伝播し、魔力の込められた土煙が上がり、地中を進むグーパンチがゴブリン隊を襲う!
被弾は前衛のみ、損害軽微。
後衛は素早く避けられた。
それで良い。時間が稼げる。
右拳を、左の手のひらに叩き付ける。
『お前の弱点はグーパンチが2本しかないことだ』
左拳を、右の手のひらに叩き付ける。
『手のひらから風の槍を出す少女は、基点が手のひらしかないという弱点が有ったという』
両手をパーで合わせるように。
『サイボーグでもあった少女は、機械的に手を増やすことで基点を増やした』
最後にグーパンチ同士を打ち鳴らす。
『ならばお前はどうするか』
拳を額の左右に有る、ちっちゃな角に当てる。
『さてここに、お前から切り落として生物的に改造した腕がある』
そして呼び出す。
『言いたいことが分かるな?』
来い。オイラのグーパンチ達。
「さぁ、蹂躙を開始するっス」
──アルティメット・グーパンチ・セカンド……十二発同時発射!!!
12本のグーパンチビームが、土煙を貫通してゴブリン隊に襲いかかった。
すまない。想像以上に長くなってしまったんだ。
次はアウト外伝だけれど、ゴブリン隊視点になるよ。
理由かい? それはね。アウトがゾーンに入ると更にコミカル度が減るからさ。
ちなみに紅血の間、紅血の森の時間加速度は<レッドの腕輪>内でも最速なんだ。




