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第132話:外伝:とっちゃんのアウトな日々──10話

 

 視点:Reアウト



 ──死した肉体からは魂が抜ける。


 ──抜けた魂は世界へと還り循環する。


 ──だが閉じた世界では魂は留まり。


 ──魂に刻まれし道しるべは赤く。


 ──赤の力で魂は再度受肉を果たし。


 ──彼等は戦い続ける。


 ──主がその目的を果たすまで。


 ──主の赤が。


 ──世界を赤く。


 ──染め上げるまで。



 ──────────



 意識がはっきりし、身体と精神が合致する。


 まず行うのは状況確認。


 死ぬまでの状況と、蘇り後の状況を。



 目の前には正座しお茶を啜るリチャードさん。


 横にはアヴァタールのアニキ。



「おや。反応がとても速い。

 蘇り直後にも関わらず、一瞬で戦闘態勢が取れている。

 素晴らしいことです」


『アウトは特に死んでいるからな。

 ここの訓練施設、【紅血の間】で死に戻り前提の訓練をしている。

 即座の状況確認と判断は、俺の配下の中でも随一だろうよ』


「いやいや買い被りっスよ?

 出来なきゃ死ぬんで、文字通り必死で出来るようになっただけっス」


 よし、身体に違和感なし。

 声も普通にでるっス。


『んじゃ、さっきの反省と行こうかアウト。


 まずはリチャードの剣の強さ、その質が分かっただろう?』


「それはもう。鋭い斬撃が詰将棋のように襲ってきて、恐ろしいのなんのっスよ」


「ですがアウト君の動きも素晴らしいものです。

 小柄にして、空中でも機動力を持ち、見切りも上手い。


 ステータス制限がかなり重く感じましたよ。

 何せ攻撃が当たらないのですから、当てるように誘導しなければならないのです」


『そう。お前の逃げ足、いや逃げグーパンチかな?

 きちんと通じてるんだぜ?


 詰将棋に持ち込ませたんだからな。

 普通なら切り刻まれて終わりだ』


「ロードならば、切り刻むことも難しく、切れても再生される。

 とても厄介な相手となりますが、アウト君、君も相手にすると相当に厄介なのですよ?


 それに最初右利きだと思っていましたが、最後に左でも遜色ない攻撃を放っていましたし」


『アウトは不器用だからな。どっちも使えないから、どっちも使えさせるように訓練させた。


 だから、どっちも使えて、リチャードを引っかけさせる程の域に有る』


「なんか物凄い評価良いっスね!」


 凄く評価されている。


 いやーなんて……怖いんだろう。


『そう。後で落とすからな、勿論のこと。

 アウト、お前のステータスはランク4以上ではあるものの、そもそもお前のステータスは低い。


 それは歴とした事実だが、それを補うだけのグーパンチがある。

 自壊前提の攻撃だとしても、通じれば良い。

 通じれば、だがな』


「フラグレジャミングは効果有ると思ったんスけどねぇー」


 あれ怖いっスよー、腕を生け贄にするんスから。

 紅血の間ではたまにやってた戦法っスけどね。

 死に戻りでは身体も体力も全快なんで、どーしよーもない時に腕一本使うっス。


「効果は有りましたよ? 目と耳、それは重要な感覚器官です。


 加えて、周辺の魔素や空間が乱れていて複数の感知を乱していました。


 ただ、君の動きを私は把握していたのです」


『速度だけは速くなったものの、動きそのものは変わらねぇ。

 あの時、もう1アクション入れてフェイクするなり出来りゃーマシだったかな』


 オイラの動きそのものっスか。

 アニキはエル様に頼ってる……とか言いつつアニキ自身の演算能力で相手の動きを解析していたりするっスけど、リチャードさんも長年の経験から動きを把握できるんスね。


 アニキ自分のことわりと過小評価してるんスよねー。

 エル様に頼ってるだけとか言ってるっスけど、大体自分でやってるっス。


 全く、なんで自分のこと分かってないんスかねー?


「ちなみに、アウト君の最後の一撃ですが、私に掠っていました。

 君のグーパンチの動きだけは読み取り切れず、勘も追い付ききれなかったのです。


 もっと鍛えれば、君は更に強くなれますよ」


「あれ、当たってたんスか?」


「ああ。切り飛ばした腕ですが、そのまま殴ってきたんです。

 君を切り刻んでいたので、対応が遅れました」


 おー。一糸ならぬ、一腕報いた……スかね?



『さて、アウト。本体()は今宿に居るんだわ』


 !


 ヤバい。凄くヤバい感じがするっス!


『お前の弱点、克服しようぜ?


 その為に、特別訓練だ。


 まあ、逝ってこい(来やがれ)?』



 あああああ!?


 アニキがニヤリとしてるときは危険っスよー!



 ──────────



「そのわりにはお前しっかり来るよな」


「そら行くっスよ。オイラに必要だからやるんスよね?」


「……うん。そうだよ? ホントウダヨ?」


「きっぱり言ってくれないと不安になるんスけど!?」


 すまんすまんと言うアニキ。

 宿の一室。結界張ってるっスね。メインは防音かな?


 ユニ様は……魔力の訓練をしてるのかな?

 魔力が循環してるんスけど、少し淀みが有るっスね。


「んじゃまず、お前の弱点だな。


 分かっていると思うが、お前の武器はグーパンチ。

 故に、そのグーパンチは弱点となる」


「んス。腕を狙われやすいっスし、無くなれば単なるゴブ以下っスからね」


「また腕は2本。グーパンチは2つしかないわけだな。


 その弱点を克服させる。

 ランク4になったし、レベルも上がってる。


 だから、()()()()()()


 ひー。怖い言葉っスねぇ。


「ではまず、ここにイフさんを用意します」


『どうもー』


「あっ、どうもっス」


 ナイフのイフさんスね。

 単純かと思いきや、考えて付けた名前。

 他の奴等が可哀想すぎるっス。分かる側から見ると。


「イフのスキル<痛撃膨激>を逆転発動させます」


『行きますよー』


 ?


「はいストーン」


「へ?」


 今、アニキがリチャードさんに似た動きで、イフさんを振り抜いた?


 ……オイラの右腕に?


「……イイイイイィィィィ痛くない?」


 血も出てない?

 痛みがないのは、慈悲剣が元となっているイフさんのスキルによるもの?


「アウトよ、最初はrockだ」


「!? ……? はい?」


「お前はグーパンチはグーがないと打てないとか思ってないか?


 そんなことはない。

 お前なら出来る」


「かなり無茶ぶりっスよ!」


 アニキがイメージを伝えてきてるっス。

 そしてやり方も。


 そう、グーパンチはグーがなければできない。

 ならグーを作れば良いじゃないとばかりに。


 グーがなくても打った凄い人も居るんだし。


 イメージ。


 オイラの右腕は肘で断たれて、ない。

 前腕部分がないから、グーはない。


 ならば作る。


 いつもグーパンチを打つように、氣力を腕に!


「……うっ、纏まらないっス」


「イメージしろ。グーのイメージを。

 腕を構成する骨、筋肉、靭帯、関節。


 血管や指、末端に至るまで。

 氣力をイメージで制御しきれ」


 イメージ。


 オイラの武器。


 オイラはアニキから解剖学的知識も植え付けられているっス。

 想像力だって普通ゴブより有るっス。


 っス、っス、っス。


 スっスっス。


 っス。


「ングググ。これは、きついっス」


「そうだ。それを維持したまま、俺に打ち込んでこい。

 命令だ。何も雑念を入れず、一撃を放て!」


「──グーパンチ!」


 ハッ!


 氣力のグーパンチが、アニキの盾に当たってるっス。


 フッ。


 あっ、氣力が霧散した!


「よしよし。出来たじゃないか。

 威力は低く、消耗もデカイ。


 だが、グーパンチは打てた。

 腕がないにも関わらず」


「ほんと……っスね。

 ただかなりの集中力が居るっス」


「なーに。一度出来たら、次は早いさ。


 んじゃ、はいストーン」


「? ……!? 左腕もない!?」


「両腕とも出来ないといけないからな」


 だー!


 この鬼畜アニキー!


 そしてユニ様は全く気にすることなく魔力の訓練。


 凄い集中力っスねもう!



 ──────────



 はー、はー。


「うし。大体出来てきたな。んじゃ、腕を再生するぞ」


「あれ、アニキ再生まで出来るように?」


「まぁな。<回復魔術>が上達してな。

 リチャードに斬られまくったし」


「もう。レッド様、あの時本当に驚いたんですから。

 あんなこともうだめですよ?」


「ごめんな、ユニ。エルも悪かったって。

 あれが一番効率が良いと考えたからさ。


 まずはアウトを治すか」


 回復には、知識も重要になるっス。

 その部位の解剖学的見地や、生理現象を詳しく把握していれば、更に効果を増せる。


 部位破損の再生は、エクストラスキルでないと厳しいらしいっスけど。

 アニキはイメージ力凄いし、ブーストできるスキル一杯なんで出来るんでしょうねぇ。


 あっ、これが腕が再生する感覚。

 死に戻りとは大分違う感じっスねぇ。


「あとはコイツを食べときな」


「? はいっス」


 丸薬みたいなのを、口に入れて、噛む──


「──あーあ、噛んじゃった」


「へ?」


「それ、カロリーの量と吸収速度に特化したもんで。


 何が言いたいかと言うとな。


 ──味が後回しなんだわ」


「─────!」


 や、ヤバい!

 口のなかに!


 なんとも言えぬ味わいが!


 ぐあああああぁぁぁぁぁぁぁ (あああああ)……あれ。


 モゴモゴ。


 モグモグ。


 ごっくん。


「あれ? 美味しくないけれど、不味くは、ない?」


「メシマズかと思ったか?

 俺は<料理>スキル持ちだからな。

 カロリー優先でも、ゲテモノにはならんのよ。


 むしろ、それが旨さの限界って感じだな


 名付けるとしたら<栄養玉>か?

 カロリーだけじゃなく、必要な栄養分をたっぷり含んでる。


 再生にはエネルギー使うから、本来食事の必要のないお前らでも食べておいた方がいい」


 あー、オイラ達もあった方が良いんスね。


 1から腕を生やしてたし。


「あとはこれだな。舐めとけ」


「これは、飴?


 ──────!


 これは美味しいっス!」


「それは蜂蜜とかをベースに作った、超高カロリーの飴玉。ちょいと紅く色付けしたから、<紅玉飴>ってとこだな」


「こっちはめっちゃ美味しいんスね」


 コロコロ。


 飴って、噛まずに舐め続けるの難しいっスよねー。


「栄養のバランスはそこまでよくないからな。<栄養玉>(あっち)と比べると。


 だがカロリーを燃焼しやすくなる作用もあってな。

 緊急時の補給には覿面だ。冬山に1つ有れば生き残れる品だな」


「カロリー燃焼って、ダイエットとかにも効果有るんスか?」


 オイラ達はそもそもがそもそもなんであんま関係ないっスけど。


「……。

 まあ、効果は有るな。よく運動している人が服用すれば、脂肪とか余分なエネルギーを消耗して筋肉を保護してくれる。


 ただ、楽してダイエットとか、運動ゼロでも痩せたーいなんて他力本願なやつが食べたら……」


 アニキが首を横に。

 その表情は悲壮なものが……!


 そんなに、ヤバいカロリーなんスか……。



「さて、アウト君。人心地ついたかね?」


「ええまぁ」


「んじゃ、グーパンチ発動してみろ。殴る必要はない。

 発動だけでいい」


「はいっス。グーパンチ!」


 おっ!


 凄くなめらかに氣力が込められるっス!

 イメージも伝わりやすいし、凄い効果が高くなりそうっス。


「どうやら、効果はあったようだな」


「! なるほど、普段グーパンチではグーそのものへの意識はあまりないっス。

 でも、今はきちんと意識しているっス。


 なぜなら無くなったから。


 それの効果っスね」


「ああ。ぶっちゃけ思い付きだったけど、予想より効果出て何よりだ」


「思い付き!? 相変わらずっスねぇ」


 あれ、そういえばなんで腕を生やしたんだろう。

 切った腕をそのまま付けた方が楽なのに。


 再生と栄養玉の実験?


 もしくは────




「────さあ、次の実験に行こうか?」




 もうオイラ色んな意味でお腹一杯っスよーーーー!









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