第122話:盾の完成──かなり時間は経っている
18日目:都市セイレル、ヤードの工房
盾が出来上がった。
烈火を受け継いだかのように、仄かに紅く、黒いラインの入った前面。
手甲に盾を付けたようなデザインであり、俺の腕によく馴染む。
「ランク……ハイエストか。
俺が今まで造った防具の中で、文句なく最上の出来だ。
思い切り納得の行くものが出来たぜ」
汗を垂らし、酷く疲れ窶れたようなヤード。
それも当然だろう。
ぶっ続けで10時間近く。外は夕方から夜に移り変わる大禍時。
或いは逢魔ヶ刻。
どちらにしてもワクテカ……ゴホンッ、危うい時間帯である。
飲まず食わずで鎚を振るい続け、鬼気迫る勢いで造り上げた逸品である。
俺ですか? こっそり飲んでは食べてましたが?
加えて言うなら、念話したり<レッドの腕輪>内部の設定したり、魔物見たり。
流石にスキルの練習は少ししかしなかったけど。
ヤードは今にも倒れそうだが、俺に解説をしている。
俺は聞き流してエルの解説見てるけど。
<三位一体成す回避盾>
ランク:ハイエスト
スキル:<受け流し><耐性強化:火・水・風><属性盾:火・水・風><複合盾>
個体名:ヤードが、個体名:レッドに合わせて造り出した盾。
前腕に着け、主に受け流す為の盾であり、使われた鉱石により属性効果を持つ。
火属性の鉱石、水属性の鉱石、風属性の鉱石を、反発しあうことなく、高みで噛み合わせ、より効果を増すことに成功した、技巧の逸品。
<属性盾>
魔力・氣力で、属性の盾を生み出せる。
より耐性を増したり、形状を変えることで攻防に使える。
また、盾の持つ属性であり、尚且つ盾に類する技術・魔術ならスキルが発動し、難易度・消耗が減少し、効果を増すことが出来る。
<複合盾>
文字通り、属性を複合させた盾。
火・水・風の3属性のパターンのみ効果を発する。
その代わり、三位一体によりその効果は非常に高い。
「──って訳だ。慣らしをしておきな」
「ああ、ありがとう。凄いものを造って貰ったよ」
ランク:ハイエストか。
元々の鉱石自体は、そこまでランクの高いものじゃない。
それを技術で以て、高みを体現している。
そのハイエストでも、上位の盾だ。
こりゃー、かなり使えるぞ。
そもそもの防御力も高く、スキルにも現れている<受け流し>により、捌きにも使える。
属性は3つだけだが、それは俺が属性持ち過ぎなだけで、本来は贅沢な位。
それを三位一体とすることで、更なる効果を増している。
鉱石それぞれの硬度や粘りの違いを上手く組み合わせており、表面は硬いことで弾きやすく、内部は粘りが有り砕けにくい。
それらを上手く繋げており、相当の技術が使われているな。
──エル。
──エル:現在編纂中。今回確認できた全ての技術と、その意味を総当たりで解析、及び適応しています。本日夜間睡眠を以て完了と思われます。
よろしく頼むよ。
最初は鍛冶だけ盗んで、自分と作っちゃおうかとも思ったけれど、この盾なら充分すぎる程だな。
俺は1度、ランク:ユニークを作ったことは有るが、元々の素材の良さがあってのものだし。
鍛冶か。落ち着いたらやってみるとしよう。
良いものはすぐには出来なくとも、追求するに足るものだ。
ゴブリン達にもやらせてみっかな。
エルが研究したものは、ある程度配下の魔物達にも適用出来るし。
適性の有るものにやらせれば、~~スミスとか、~~ブラックスミスとかの種族になりそうだし。
「レッド。これで契約は果たしたぜ」
「ああ。完璧だ。ありがとう」
「へっ。俺も良い仕事が出来たってもんさ。
俺はこれから丸2日くらい寝るが、お前さん達は何時出るんだ?
迷宮都市ガザラエンに行くんだろ?」
「明日、早くに出ようと思っているよ。
今日はもう遅いからな」
「お前もよく付き合ってたもんだな。
うちの弟子どもじゃあとっくに音ェ上げてるな。
ここからガザラエンだと、次の大きな街は……ラジキアか?」
「そうだな。今のところそのコースだ」
「そうか……」
ん?
疲れて眠そうな顔してるが……何か心配そうな顔してるな。
髭もよれてるし、というか焦げてるし。
「何か有るのか?」
「ああ。少しな。レッドはどう見ても大丈夫だが、ユニ嬢ちゃんは、亜人とかじゃないか?」
「いや、違うぞ」
「そうか。なら良いんだ」
もっとヤバくて、俺的に素晴らしい種族だよ。
今テンション高いから良いけれど、俺のこと人種扱いしてないか? これ。
それは人種扱いして喜ぶ、自称人種とか自称人族とかにしておけ。
「ラジキアは、この国では珍しい人種主義が強い地域でな。
最近更に焦臭くなってるんだ。
行くなら気を付けておけ。もしかしたら何かに関わっちまうかもしれないからな」
凄いフラグ立ったよこれ。
俺人種どころの騒ぎじゃないけれど。
<直感>はどうだ?
ウサウサはどうだ……。
?
なんだろう。
面倒ごとは有るけれど、益になることも有るような……。
フォルトゥーナも、微妙な判定だな。
まぁ、近付いてからまた考えるとするかな?
「じゃあなレッド。
またセイレルまで来たら歓迎すっから、お前さんも頑張れよ」
「ああ。またな」
また会うときは──────殺戮かな?




