第114話:強力無比にして神算鬼謀たる呪術師の華麗なる英雄譚──小物のどうでも良い歴史:前編
凄く筆がのったぜ。
視点:ウォーレス・ミルワード(まだ人間の未来リッチ)の三人称
ミルワード家に生まれたウォーレスと名付けられた男の子。
彼は幼い頃から優秀な人間であった。
ただし、天才ではないと付け加えておく。
魔力の扱いに長け、魔術の適性も有ったウォーレス。
しかし彼が特に魅せられたのは、呪術であった。
魔術の適性よりも、希少な才能である呪術の適性。
リライガ王国では、呪術は忌避するものではない。
魔物、特に知性の有る人型の魔物や、不死の魔物等に扱える敵が多く。
他国家にも呪術師が居るため、対抗策としても必要になる。
また、呪術には、大きく分けて2つの側面がある。
どちらがよしとされるかは人にもよるが。
正のイメージの強い、おまじないとしての呪術。
負のイメージの強い、のろいとしての呪術。
おまじないの呪術としては、人の生理機能を向上させたり、精神の安寧をもたらしたり。
防御としての効果も有れば、魔物避けも出来る。
畑におまじないをかけることで、収穫高を増やしたり、病気を遠ざけたり。
家畜におまじないをかけることで、卵や乳の量を増やしたり、交尾の成功率、出産の死亡率低下に貢献したり。
国家として、とても便利な術と言えるだろう。
だが、負のイメージ・側面ののろい。
これを敵に向けるのなら良いだろう。
しかし、自分達に向けられるのは怖い。
聖職者等で対抗できるが、彼らは対処、後手だ。
ならばエキスパートである呪術師を望むのは不思議なことではない。
ついでに言えば、コントロールしておきたい存在だ。
のろいとしての側面の強い呪術師となると、犯罪率が非常に高いのである(偏見に非ず)。
して、ウォーレスはと言うと。
そこそこの才能と、頭脳をもった彼は人を見下し、自分の方が上だと無意識に振る舞い、人に嫌われるタイプ。
しかし、前述通り才能は有るので誉められることは有る。
でも嫌われる、というかモテないしなんか評価されにくい、何故だこんちくしょう、なんで才能ないのに顔だけ良いクズが可愛い子持っていくんだこのやろう!
どう考えてものろいの方であった。
ちなみに彼の容姿はそんなに悪くない。
ただ滲み出る性格の悪さ、ひねくれた性根、近寄りがたいというよりは、関わりたくない雰囲気の呪術師。
リライガ王国としては、呪術師は否定していない。
むしろ必要としている。
ただ民間としては、なにあの怪しいやつという評価である。
しかも、彼には、ミルワード家には兄弟が居た。
槍の腕が良く、才能の有る兄(ワイルド系イケメン)。
回復系のスキル・魔術に適性を持ち、評判の良い妹(清楚系巨乳)
真ん中に居る、呪術という怪しげなものが好きなコミュ症。
なんかもう、ひねくれてもおかしくない環境であった。
親は俗物では有るが、一応真ん中のウォーレスにもきちんと愛情を注いで育てていた。
とはいえ、ハキハキと目立つ兄。清楚で目を引く妹。あまり人と話さず、独り言の多い真ん中。
ちょっと、ねぇ?
そんなこんなで、自分にも原因が有るのに、思春期特有の、というより人間特有の、悪いのは全部周り、全部世間が悪い、全ては認めないこの世界が悪いのだー理論で拗らせていった。
拗らせつつも、決定的に排除されず、むしろ上層部から受け入れられていたのは、やはりそこそこの才能が有ったからだろう。
リライガ王国では、ある程度の教育機関が有り、そこで才能を示したウォーレスを育て、お抱え呪術師として採用した。
ようやく認められた!
と喜ぶウォーレスだったがしかし、兄はなんか騎士団ではっちゃっけてるし。
妹は治癒を専門とする教会で巫女的扱い。
おかしい!
俺の方が才能有るのに!
実際に才能値だけであれば三兄弟の中で最も優秀であるウォーレス。
コミュ力に振り分けられた値が低かっただけである。
勿論のこと、悪いのはみーんな周り理論で鬱屈としつつ、仕事をこなすウォーレス。
リライガ王国としては、呪術師を認めている。
しかし、王国上層部で働くもの達に仕えるメイドとか女の子とか可愛い子とか、つまりは呪術師の必要性をそこまで理解していない若い子だと、ウォーレスは怪しい雰囲気してるし独り言多いし臭そうだからキモい。
酷い……! 臭そうだなんて! 実際臭いよ! 呪術の触媒で!
ちなみに理解している頭の良い人達も、頭が良いので、ああアイツ腕は良いけど性根腐ってね? というか臭くね?
と評価するのはその才能だけ。
うん、間違ってない。
そんな大人になっても不遇なウォーレス。
だが運命の出会いを果たす。
それはリライガ王国の王城に施された、対呪術設備の点検の時のこと。
『いつもありがとうございます。あなた方のお陰で、私たちは安心して暮らせます』
お姫様に~~出会った~~。
優しい言葉をかけられたウォーレス君。
商売女性以外相手にしたことない彼はハートブレイク。
実は、商売女性にも地味に嫌われていることを知ってしまって、落ち込んでいたウォーレスのひねくれた純情を直撃した。
彼女はリライガ王国の第二王女。
美しく、心の優しい彼女は、その長く艶やかな髪と、透き通るような肌から、白き薔薇と例えられた程。
うっかり惚れてしまったウォーレス。
やる気スイッチonで頑張りまくる。
ちなみにこのお姫様。誰にでも声をかける人当たりの良い性格である。
別に個人個人意識して言ってるわけではなく、処世術でしかない。
加えて言えば、その方が印象が良くなるという計算である。
笑顔の力、仕草の角度、かける言葉の選択。
全ては、第二王女であり、政略に使われて終わるなんて御免とばかりに策略を行う頭の良い人間である。
言っただろう、良い性格をしていると。
言っただろう、白き薔薇に例えられたと。薔薇には棘有りますし?
勿論そんなこと知るわけもないウォーレス。
凄く頑張っては、お姫様の目に止まるような場所に赴く。
見ている周りは、うわっ、キモいやつなんか頑張ってる。
ついたレッテルが悲しいほどに仕事する。
そんな折、ウォーレスの耳にとある英雄の名が入ってくる。
お姫様以外に興味もなくなり、他の人間に意識が行かない彼ですら、認識した英雄とは。
今までの流れからして当然の如く、リチャード・セイズという剣士である。
リチャード自身には、英雄願望は無いものの、培った力と、人を助けることに労を厭わぬ性格により、英雄と持て囃された男。
リチャードは王城に呼ばれ、王族から祝福を受けた。
頑張っただけあり、元々上層部からはこっそり認められて出世していたウォーレスは、その現場にも立ち会っていた。
そして見てしまう。
リチャードを見る、お姫様の、その表情!
うっすらと赤く染まった、他の人間とは違う対応!
──貴様もか!
──貴様も顔が良いクソ女か!
怒りに駆られるウォーレス。
何のことはない、リチャードを貶めた理由は一方的な嫉妬である。
だがしかし、才能がそこそこあるウォーレスはそれを表に出すことなく、ひっそりと仕込みをしていた。
周りからは、英雄に奮発されて頑張ってるとしか思われず結果オーライ。
お姫様に見向きもしなかった彼はついぞ気付くことはなかった。
そのクソ女さん、表情なんて変えられるアクターだと。
リチャードを自分の手駒にしようとアプローチしてただけだと。
そして剣を振る以外に興味のないリチャードには通じず、すぐに見切りをつけていたことを。
そして工作活動を続けるウォーレス。
人格は認められていないものの、業績の良い彼は仕事を認められているため、堂々と工作。
ちなみに、気付かれていないと思っていたが、最近雰囲気が変わり、仕事も最低限になっていた為、一度休ませてやろうと忙しくない業務=閑職に回されたウォーレス。
その実、何の裏もなく、心配した上層部の計らいだったのだが、深読みし過ぎて、才能を妬んだクソどもがー! と更に身勝手な恨みを積み重ね。
ウラミハラサデオクベキカー! な精神が呪術をより強化するという追い風により、リチャード陥れ計画は実行。
そしてその計画は、バッチリ成功。
リチャードは魔物に襲われた村を守ろうとし、庇った味方──ウォーレスに操られた村人にグサッとやられ、危険な状態に。
抵抗力が低下したリチャードを、集めた呪いの武器も駆使して支配した。
ちなみに、呪術師してるので、呪いのアイテムとかは待ってても入ってくる。
呪いの専門家故に、解呪も出来れば利用も出来る為だ。
解呪して破棄したと偽り、保持しておくのは難しいことではなかった。
仕事では真面目だと思われていたウォーレスは信用されていたのである。
本人は俺の手腕はやはり天才だ……と気付いていなかったが。
かくして、リチャードを操り、魔物を扇動し。
リライガ王国、特に誘惑した挙げ句見向きもしない第二王女(勘違い)とか、認めてくれない上層部(気付いてない)とか、復讐を敢行した。
無駄に優秀だったウォーレス、罠を周到にしかけ、実力者等が王城を空けていた隙を突き、リチャードで復讐を果たす。
優秀だけど抜けてたウォーレス、魔物が思ったより一杯来ちゃって大混乱。
でもまークソ女に復讐は出来たし、なんかもう国ダメそうだし。
復讐によって生まれたこの負の力で、強力なアンデッドへの転生でも果たそう!
俺の力と、この負の怨念が有れば、ランク7位なら行けるんじゃね?
とばかりに転生術式を起動。
こうしてリライガ王国は滅亡し、一人の男が巻き起こした暗躍は、誰に知られることもなく幕を閉じた。
後半へ続く!
そういえば、ノーゲーム・ノーライフの新刊読みました。
影響されそうで怖い。
この作品、著者と絵師が同じ人なんですよ?
ついでにマンガ版書いてる人身内ですよ?
凄いですよね。この作品に影響された人多そうです。
ヒント:レッド君のユニークスキル。




