第111話:セイレル鉱山──激突その3
17日目:セイレル鉱山
<怨讐ノ鮮血殺刄>であるイフを構え、リチャードの剣閃と相対する。
リチャードの振るう、英雄に相応しい技量と、相応しい武器による攻撃は、苛烈だ。
アンデッドになり、呼吸等が不必要になったのを本能的に察し、疲労の概念が消失、間断の無い連撃が俺を襲う。
右手にイフ。
他にはなし。
投擲武器では強度不足な上に、リチャードに追い付かない。
剣だけでなく、体術で避け弾かれてしまう。
布石として放っておいても、蹴散らせれて防がれる。
ハハッ、良いねぇ。
憎悪に塗り潰された思考のままに、未来を見て判断できる強さもある。
これでフルポテンシャルなら、なりふり構ってられなかったが。
──今なら、まだ余裕がある。
「ナラバ<精神魔術>ダ!
食ラウガ良イ──効カナイ!?」
くっ、レジスト出来るし、特に精神干渉系は効かないが、邪魔だな。
対グループ系の魔術や呪は飛んでくる。
<呪術>であれば、片っ端からラーニングしている。
<死霊魔術>はリチャード以外に使っていない?
後衛向きなのに、リチャードは俺が釘付けにしているというのに。
くっ、やっぱり<呪ウ釘打チ>は効かないか。即興で作ったものだし。
ん?
ヤードが対グループ系魔術食らって昏倒している。
ダメージはないが、意識レベルの低下か。
!
『ユニ! ユニはヤードを起こさないように気を付けながら守れ!
それ以外はゴブリン隊の保護を。
アウトォ! フォルトゥーナ! 全力でやれぇ!
解禁だ!』
ヤードの意識が、目がないのなら。
更に無茶が出来る。
契約があると言っても、見せる情報は制限した方が良いからな。
さあ、意識の全てをリチャードとの戦闘に注げ。
その他一切合切、エルに丸投げする。
──頼んだぞ!
──エル:了。
──────────
リチャードから振るわれる上段の剣撃を、イフで逸らす。
逸らした先から剣筋がブレ、脚が抉れる。
回復をかけながら、吹き出る血液を武器に攻撃。
血液そのものを操り止血。
魔力を巡らせ、切り裂かれた<適応進化蜘蛛の再生布>の防具を再生させる。
リチャードは才能と努力、どちらもこなしてきた元英雄なのだろう。
その才を腐らせることなく、余すことなく発揮させる。
努力を怠ることなく、思考を続け、その一振りに意味を込める。
こちらから攻める隙がない。
嵐のような連撃を弾くことが精一杯で、血液による反撃と、魔術による妨害を挟んでも尚、止まらない。
呪武器の鎖。あれが巻かれていることで魔術耐性が副作用的に生まれ、アンデッド化により耐性が人間の頃よりも高い。
浄化は呪武器で弾かれるし、危険だと判断されそもそもまともに受けてくれない。
技量が基本で、その一撃は重いというよりは巧い。
しかし、武器のスキルがそれを補い、傷を重症化させてくる。
俺の人外らしい生命力と、回復特化のスキル群。
アイテムを駆使することで、対抗できる。
武器を壊すことは無理だ。
壊れにくい上に、ハイエストランクだ。
相手の精神に干渉するスキルは、俺に効果がないのが救いだろう。
その程度の不快さなど、前世で培った経験は越えられない。
注意するのは、一撃死。
死んだところで備えも有るが、死ねばリソースが裂かれる。
死ぬわけには行かない。
注意するのは、継戦能力の欠如。
皮膚が切り裂かれようが、肉が抉れようが、骨が断たれようが。
戦えるのならば良い。
すぐに回復できる。
だが、戦えなくなるのはまずい。
一気に流れを持っていかれてしまう。
だからこそ、今のこの状況。
リチャードの剣を幾度も身体に受け、何度も切り裂かれ穿たれ断たれようとも、決定的にはならない状況こそが望ましい。
俺の剣の技量では、捌ききれない。
そもそも武器を取り扱い始めて、3週間と経っていないんだ。世界時間で。
そして初めて遭遇する。
才能と努力を積み重ねた敵。
魔物は本能的に攻撃してくる。
盗賊はかなりアホかった。
あの頭目は強かったが力押しだった。
リチャードは、強い。
イフによる迎撃を弾かれ、<斬撃耐性>の有る防具を裂かれ、魔術やスキルによる強化をかけた肉体を抉ってくる。
反撃も中々通じない。
体力はアンデッド故になく、一息入れる間もなく。
俺を切り裂き続ける。
ああ。
強いなリチャード。
──だがそれでも、俺の命は切り裂けねぇ。
そして見えてきたぞ。
お前の剣の持つ、歴史を。
その一振りの意味。
目線、脚さばき、腰の移動、腕の振りと微妙な握り、体重移動からのフェイント。
その全てを、暴き、適応する。
その振りはもう見た。
その動きの先も、知っている。
さあ、新しい動きを見せろ。
俺の想定を越える繋ぎを見せてみろ。
初撃で俺を仕留められなかったのが、終わりの始まりだ。
「────!」
下がったな、リチャード。
怖じ気付いたか。
俺に。
そして、イフに。
大丈夫か、イフ。
『は……い。まだ戦えます、旦那様』
何度も何度も、ランク差の有る相手と切り合って、消耗するイフに力を流し込み、強化と保全をしてきた。
もっと行けるか、イフ。
『もっと、で御座いますか?』
もっとだ。
もっと先へ、何もかもを、切り裂けるように。
どんな相手とも戦えて、どんな相手をも切り裂けるように。
もっともっともっともっともっともっと!
あらゆる豚を殺せるように、行けるな、イフ。
『勿論で御座います。旦那様。
ワタシの全ては旦那様のもの。
ワタシは旦那様の刃となり、切り裂くもの。
ワタシの全てを、扱ってください。
旦那様────!』
良い覚悟だ。
<呪之真髄>全力起動。
<呪術>を見取ったため、本格的に使えるようになったスキル。
イフに、俺のスキル群を以て、力を流し込む。
用いるは<剣術>。
<工作>と<錬金術>で、イフを可能性を広げる。
溢れる殺意を<意識投射>で統御し、成形する。
<教導>でイフの殺意を引き出し、<指揮>して<連携>。
<愛撫>スキルで、全てを最強化。
<詠唱技術>で紡がれた呪いを、<思考技術>で迸る感情を、<極限集中>で更に先鋭化。
イフを<限界弑逆>により、限界を殺し尽くし、<変異誘発>させる。
それら全てを、<凌駕する唯一者>により凌駕させ。
俺の本質たる<人間ヲ嫌ウ者>の純然たる殺意を昇華させる。
「ア゛ア゛!」
もう遅いぞリチャード。
俺の全ては、イフに流し込めた。
『────────ッ!』
流し込まれた力は、イフの全てを──昇華させる。
行こうかイフ。
気分はどうだい?
『────勿論。最高で御座います』
多分別視点書きます。
取り敢えず映像化したら危険なくらいのスプラッターです。
わりと身体ぐっちゃぐちゃなのを、無理矢理回復してます。
<苦痛耐性>で、支障なく出来るのが、より深刻です。




