第108話:セイレル鉱山遭遇──リッチ編
17日目:セイレル鉱山、そこそこ奥、集積所
リッチ。
魔術師系のアンデッドであり、主に杖を持ち、水分の失った肌、醜悪に歪められた、皮膚のない顔をしているとされる。
そのリッチと、あまり変わりはない。
ただ、ローブや杖が豪華であり、その顔は醜悪且つ狡猾な顔であるように思える。
リッチの発生は、主に魔素溜りからの発生と。
魔術師の死体からの発生となる。
特に、自我の強いもの。恨みを残して死んだもの。
同じくアンデッドに殺され、魂が変質したものが成るとされる。
そして、自然発生型と、元人間による新たなリッチでは、後者の方が強く厄介であるとされる。
「ククク、クックック。ゴ機嫌如何カネ、人間ドモヨ。
ソシテ、ソノママ、死ヌガヨイ」
コイツ……話さずに攻撃してきやがった!
「行ケ! 下僕ド……何ィ!」
お互い考えることは似ているな。
まずは殺してから話し合う。
「キッ、貴様、コノゾンビドモハ貴様ラノ仲間デハナイノカ!?」
「知らねぇよ。敵は敵だ」
リッチの回りには、7人の元冒険者らしきゾンビ。
そのうち2人は、装備や強さが違う。
他がランク4で、あの2人はランク5。
Cランクパーティーで、殺された2人だな?
だが、ここら一帯には、既に魔術基点となる投擲武器や、仕込み武器、罠を仕掛けてある。
まずは邪魔な、ゾンビ達を浄化する。
死体から作られたコイツらなら、死体を残したまま浄化出来る筈だ。
魔術基点は、5点と5点、繋いで表すは、五芒星。
それぞれの頂点と交点に、基点が入り、魔法陣を形成する。
続いて<レッドの腕輪>から、アイテムを取り出す。
その間、魔物軍団の前衛はリッチを牽制。
ユニは<ドレイン>による嫌がらせ中だ。
取り出すは<属性符>。
新たなアイテム、符、札のうち、符の方。
違いはいつか説明するかもしれない。
符は、木属性で作り出したパピルスを<錬金術>で紙として形成。
紙には、俺の髪と爪、皮膚を混ぜ込むことで、効果を上げる。
そこに、魔紋、魔印、魔文字を塗布する。
そのインクは、魔水と、俺の血液からなるマジック・インク。
最後に、それぞれの属性の魔力を付与することで完成する、<属性符>である。
文字通り身を削って作るのに、消費期限が短い欠陥品だが、特殊なアイテムボックス持ちの俺には関係ない。
用いるは。
<木行符>
<火行符>
<土行符>
<金行符>
<水行符>
土と金は、<地属性魔術>からそれぞれのエッセンスを抽出して作り出したもの。
何気に<土棍杖>バットを作った経験が活きた。
この符達を、それっぽく<念動力>で浮かし、形成するは、五行。五芒星。
五行相生の理の元に。
木は燃えることで火を強め。
火は燃えた後に土を残し。
土はその身に金を生み。
金は表面に水を集め。
水は木を養い育む。
五行の力を回し、相剋せぬよう、相乗せぬよう。
一定の理をもって循環させ、連環の中にある力は増していく。
五行をもって成した力を。
自然なる力をもって、不自然なる死者の力を調和させ、打ち消す。
「陰陽の理、その一端。
陰と陽を拮抗させ、過剰にせぬこと。
ここにありし負の力を、我が生成し正の力で打ち消せり」
この間、実に2秒。
五行の力は、同じ五行を持つ五芒星に力を注ぎ。
その内に囚われた死者を死に還す。
「「「──────」」」
その力は、荒々しい浄化ではなく、清々なる調和。
ゾンビ達は、リッチの支配から解かれ単なる躯へと戻った。
『回収しろ!』
『ハッ!』
ふー、上手くいったぜ。
光はまだまだレベル不足。
それを補うために、アイテムを考えていたら陰陽術を思い付き、やってみたら出来てしまった。
勿論既に実験済みだ。
ただ、魔力だと反応が鈍く、魔素では違和感があり、氣力では何か足りない。
こう、規格が合わないのだけど使えなくはない状況のため、効率が良くない。
やはり霊力とか呪力とかになるのだろうか。
そこに、いるよなぁ?
呪力、<呪術>とやらを使えるリッチが。
さあ、見せてみろ。
お前の取り巻きは、単なる死者に戻った。
後衛向きのリッチが、前衛を喪いどうする……?
余裕が、見えるな。
「ヤード! 下がってろ! 何か来るぞ!」
「!? おう! すまねぇが、俺じゃ相手できなそうだ!」
よし、ヤードはわりと柔軟な性格だ。
無理に戦いに参加しないで貰いたかったからな。
「サモン、レッドール!
ヤードを守れ、ゴブリン隊スイッチ!
ユニ、ゴブリン隊のフォロー!」
『ここからは<超直感・観>が反応している!
総員、気合いいれろ!
口頭は全てブラフだ!』
『ハッ!』
「ククク。マサカ一気二浄化スルトハナ。
ダガ所詮、アレラハ単ナル人形ヨ。
来イ! リチャード!
リライガ王国二、リチャード有リト吟ワレタ、ソノ剣ノ腕ヲ見セ付ケロ!」
「うっ、ぐっ、がっ、ガァァァァアアアア!」
鉱山の奥から、控えられて居た、リッチの奥の手が現れる。
それは、ヒトに近い。
人間そのまま、ただ、アンデッドである。
手には鋭く光る長剣。
身体は鎖衣服を主とした軽装。
その容姿は、美形だったのであろう。
だが、恩讐と憤怒に染まった表情は、鬼気に溢れている。
【ステータス】
個体名:リチャード・セイズ
性別:男
種族:アンデッド・ソードマスター
レベル:100
ランク:7
称号・特記事項
<故リライガ王国元英雄>
<剣之神に見捨てられし者>
<裏切られ陥れられた者>
<剣の探求者>
<技剣のリチャード>
・リッチによる特殊支配下
・限定的ポテンシャル解放
想像以上にヤバい敵である。
ランク……7、だと?




