第99話:幸運なるうさぎと変異を誘発させし唯一者はほくそ笑む
16日目:都市セイレル、冒険者ギルドのホール
「どうなってやがんだ!
何時になったら鉱山は解放されんだよ!」
「ヤードさん。すみませんが未だに未定です。
ギルド側も手を尽くしては居るのですが……」
「そう言ってもう3日だろうが!
1日でも遅れりゃあ俺たちの信用問題にもなんだよ!
それだけじゃねぇ。
蓄えのねぇ新入りどもも奴隷落ちしちまう。
鉱山のアンデッドはどうにかならねーのか!?」
さあ。
<超直感・観>とフォルトゥーナ司令官がざわめきだした。
──エル、こっそり鑑定イケるか?
──エル:可能です。表示します。
【ステータス】
個体名:ヤード・ギルザ
年齢:32
性別:男
種族:ドワーフ
レベル:53
ジョブ:<烈火鍛冶師><豪鎚術士><防具作成者>
簡易的にパーソナルデータを読む。
ドワーフ。そして鍛冶師だ。
テンプレに会えた。
背が低く、筋骨隆々。
髭もじゃな顔。
うむ。イメージ通りのドワーフだ。
土に親和性が高く、鍛冶系の適性が高い種族。
レベルも高いな。
50の壁を越えているため、ジョブ枠は3つ。
そのうち、生産系ジョブ2つに、恐らく戦闘系ジョブ1つ。
ただ、鎚術は鍛冶にシナジー効果が有る筈だ。
ジョブは一本化しつつ、戦闘能力も多少ある。
流石に純・戦闘型に比べれば低いが、レベルが高いだけステータスは有る。
そして、鉱山は今、入山出来ない。
その理由、それこそがアンデッドである。
「Cランクパーティー<豪快奔放>の後釜はまだ見つからねぇのか!」
Cランクパーティー<豪快奔放>という、この都市セイレルで著名な古参パーティーが返り討ちにあったらしい。
5人のパーティーのうち、2人死亡。
2人は現在ダウン。冒険者業を続けられるかも危うい。
1人は耐性が高かったらしく、なんとか残り2人を回復させる為に走り回っている。
「すみません。ギルドの方でも、付近の冒険者を要請しているのですが……」
「セイレルは特殊な鉱山が有る以外、特に魔物が強い地域でもねぇ。
だから冒険者が育たねぇのはわかってんだけどよ。
俺の依頼はどうなってる」
いや、奥地にオーク・キング(ランク6)居ましたよ?
交易都市ハラスラの方が近かったけど。
「受注者は残念ながら……。
やはり<豪快奔放>があっさりやられたのが要因かと」
「クソッ!
こうなりゃ報酬釣り上げるしかねぇか!
うちのバカどもも腐っちまう」
さて、そろそろいいかな。
「すみません。今横で聞いていたのですが」
「おう? 兄ちゃん、若そーだが、ランクは幾つだ?」
下から見上げてくるドワーフのヤード。
うん。何もグッと来ない。
ユニの上目遣いは半端なかった。
「今Dランクに上がるところです」
「んじゃあ、ダメだ。
聞いてただろ。Cランクパーティーが殺られてんだ。
相手はランク6辺りのリッチって話だ。
わけーのを殺しに行かせるわけにはいかねぇ」
おっと。男気のある人情ドワーフ鍛冶師っぽいな。
「確かに俺は今Dランクに昇格するところですが、俺は日が浅いだけです。
依頼も、迷宮都市ガザラエンに向かうために素材の買い取りしかしていません。
そして俺は、オーク・キングを討伐しています」
「なに!?」「本当ですか!?」
証拠として、懐に持っていた(様に見せて)オーク・キングの魔石を取り出す。
「こいつぁ、確かにランクの高い魔石だ。
本当にお前さんが殺ったのか?」
「ええ。先程鑑定協会で、鑑定書を発行してもらっています。
これをカードに反映させてもらう為にも来ましたので、別室で話しませんか?」
「…………自信はあんのか?」
「話を詳しく聞くまではなんとも。
ですが、アンデッド相手なら自信は有りますよ?」
<意識投射><愛撫><工作>。
そして<人間ヲ嫌ウ者>を使い、言葉に説得力を持たせ、言外の雰囲気を演出し、懐柔工作を。
演技に長けた<人間ヲ嫌ウ者>の効力、さてどうなる?
「……そうだな。このままじゃ何も変わらんか。
すまない、部屋を用意してもらえんか?」
「はっ、はい!
カードの更新も出来る部屋へと案内します。
すみません、私抜けますよ!
ではヤードさん。えーと、レッドさん、ですね。
どうぞこちらへ」
おおっと。
「挨拶がまだでしたね。ただいまDランク冒険者になりました。
レッドといいます。
こちらはパーティーメンバーのユニです」
「(ぺこり)」
「俺はヤード。鍛冶師だ。
宜しくな」
握手を交わす。
剣士とは違う、手のひらの感じだな。
さてさて、俺の目的は果たせるかな?
アンデッド、リッチさんフラグでした。
あと鍛冶師フラグでも有りました。
リッチは後に解説予定です。
2018 3/6
多分、今日もう1話上げる予定です。




