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悪魔の咆哮  作者: 秋村篠弥
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〜アクマに洗脳されしヒト〜

初めての投稿です。成長のため、アドバイスなど残していただけたら幸いです。

また、皆様がどのような作品をお書きになっているのか紹介いただけたら嬉しいです。

目を通していただき、ありがとうございました。

 その日は、雨が降っていた。ジトジトと嫌な雰囲気を、身体に受けた。でも、自然と嫌な気にはならなかった。

 狂ってしまったのかもしれない。普段なら億劫に感じる雨雲も、片手を塞ぐ傘にも、何も感じない。

 僕の中には、ただ一つの感情が左右に揺れていた。

 いや、そのたった一つの感情を揺らしているのは、様々な感情なのだが。

「兄貴…イオリ…母さん……。父さんっ」

 頰に一筋の雫が伝う、がそれは決して涙ではない。だから、拭わない。

 だが、その雫も勢いが増して来る。それと同時に、心の奥底から何かが這い出て来る。熱い、黒い何かが…。

「僕は……僕はっ」

 ゆっくりと顔を上げ、雨雲を優しい眼差しで見る。

「僕は、強くなれと威張る父も、いつも温かい母も、笑顔で見守ってくれる兄貴も、僕より優れている妹も…全部」

 これまでに無いほど、力一杯に拳を握りしめ、言った。

「憎いよ…?」

 僕の中から外へ、初めて何かが出た瞬間だった。

「坊や、その気持ちは、真実かい?」

 突然、声が聞こえた。口調は優しいが、声音は冷淡なものだった。

 僕は狼狽して、辺りを見回した。その姿が滑稽だったのか、高貴な女性の声はクスクスと嘲笑った。

「私は今の坊やにゃ探せないよ、なって言ったって」

 女性の声が話すたびに、僕は焦ったさに苛立ってきた。バカにされる事はあいにく慣れている。出来のいい兄妹を持つと、自然とそこに耐性が付くものだ。

「ふふ、もしかしたら、もう少しで見えるようになるかもしれないねぇ?」

「あんたは誰なんだ?何で僕をバカにするんだ」

 しかし、見知らぬ人にバカにされるなど嬉しくも無い。むしろ不快だ。

「まぁまぁ、私は…そうね、別に今更自己紹介する様な間柄でも無いと思うけどね?」

 勿体ぶる口調も本当に好かない。まるでずっと昔から自分のことを側で見ていたかの口ぶりだ。

「人が聞いてるんだから、素直に教えろ。何でそんなに勿体ぶるんだ」

「あらまぁ、教えてもらう側がそんな生意気な口聞いて」

 どこか最初の声音より、笑みを含んでいる気がした。

「でもいいわ。教えてあげる。坊やがちゃんと、私に耐えられたらね?」

 そう女性の声が言うと共に、僕の心にただ揺られていた感情が、溢れ、僕自身を包み込み、侵された。

 人徳のある兄貴への憎しみ、妹と比べられるもどかしさ、威張る父親への怒り、温かい母親への切なさ…全てに共通するのは嫉妬だった。

「僕の、何が分かるんだ?何が分かるから、人の心も知らずに好き勝手なことが言えるんだ?止めてくれ、触らないでくれ、不器用で、無能な僕を…これ以上色んな形で嘲笑うのは止めてくれぇええええ!!!!」

 僕は、意識が飛びそうな程の頭痛の中にいた。痛覚によって理性は奪われ、朦朧としている。

「坊やは、所詮この程度…?私の姿をその瞳に映したいなんざ、何百年あったって無理だねぇ」

 すると、脳内にあの女性の声が響く。

「うるせぇ、うるせぇよ!人のこと、笑いやがって」

 それでも、女性の声が笑うのが許せなくて、ここで意識を手放したら負ける気がして、キッと空を睨んだ。

 そこには何も無い、灰色の少しハゲかけた壁がそびえ立っているだけだった。

「………?」

 うっすらと人型が浮き出てきたかと思うと、そこからはみるみると人型は姿を決めた。

 出てきたのは、1人の女性だった。銀色のドレスを身にまとった、百合のようなイメージの女性だった。しかし、彼女の作り出す表情は、悪魔のように闇のある奥ゆかしいものだった。

「あ、貴女は?」

 僕が声をかけると、ゆっくりと瞼を開け、僕の顔を見た。瞳があった瞬間、何故だか全てを見透かされている気がして、身震いした。

 それを見て、女性は笑った。

「うふふ、本当に可愛いわね、坊やは。姿が出てきただけで敬語?」

「あ、貴女は誰なんですか」

「まぁ、私に勝ったのだから教えてあげるわ」

 そう言うと、女性は指をパチンッと鳴らした。しばらくは何もなかった。その指を鳴らした音が、反響し終わり、沈黙が現れると同時だった。僕の中に、再びあの感情が湧き上がってきた。

「あっ、くっ…」

 膝から崩れる。この胸が強く締め付けられる感覚は…。

「私の名前はジェロシーア。坊やのその感情を司ってる、坊やとは生まれてからずっと一緒だったのよ?うふふ」

 その感情とは、”嫉妬”だ。僕は確信した。

「人間はね、利口な奴なんて1人もいやしない。誰だって、罪は背負ってるのさ。坊やの大好きなスミレちゃんだって、ね?」

「そんなの、スミレだけじゃ無い」

「そうよ。でもね、償いはしないといけないのよ?」

 その日から、僕は彼女ジェロシーアを認識しながら、生きていく事になったのだ。

「僕の…罪は?」

「私自身よ」

「僕の…償いは」

「私に身を捧げることよ、坊や?うふふ」

 ジェロシーアは、今日も微笑んでいる。いや、あざ笑っているのか。この時の僕には、彼女の笑みは嘲笑いなんかじゃなく、企みだった。なんて知る由もなかった。









順調に新作を投稿させていただく予定ではあります。楽しみにして頂けたら幸いです。

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