神様がくれた勇気
君はいつも笑っている。僕の隣で。
小さな頃から変わらない二人の距離。
友達のような恋人のような中途半端な位置。
そんな距離がもどかしくなったのはいつからだろう?
分かるのは僕の心が脆くなったこと。
君の事を考えると心が痛くなってしまうから。
近付こうとしてもいつも邪魔される。
心地よい関係。幼馴染の関係。
崩れたら怖いから動けない。
僕はとてもとても弱くなった気がする。
「ねぇ、佑紀帰ろうよ」
「うん。もう少しだけ待って」
僕の幼馴染の由衣は口を膨らませて早くという表情をしている。
そんな表情にさえも僕はドキッとしてしまう。
こんなんで一緒に帰れたりすることが少し不思議だ。
「ごめん。準備終わったし帰ろう」
「もう遅いよ」
「次から気をつける。でも、急ぐ理由がある訳でもないよね?」
「それはそうだけど・・・。いいじゃない」
彼女はそう言って僕の背中を叩いた。
彼女のいつも通りの誤魔化し方だ。
小さな事から大きな事まで彼女はこうやって誤魔化す。
これを知っているのは僕ぐらいだと思う。
そう思うと少しだけ嬉しくなる。
「どうしたの?にやけちゃって」
「別ににやけてないよ」
危ない。顔に出てたみたいだ。
これからを気をつけないといけないな。
「もう、夏だねぇ」
「うん。そろそろ夏休みだしね」
「佑紀はなんか夏休みって予定決めてるの?」
僕はその質問に首を横に振る。
帰宅部の高校2年生に夏休みやることなんてほとんどない。
受験勉強だって来年だし夏休み中はほぼ暇だ。
「やっぱり佑紀は今年も暇なんだね」
「由衣は暇じゃないみたいな言い方だね」
「もしかしたら暇かもしれないし暇じゃないかもしれない」
「変な答えだね・・・」
「だって本当の事だもん」
「何かあったの?」
「告白された。1つ上の愁斗先輩に」
僕は絶句した・・・。
好きな子が目の前で告白されたと宣言されてるのだから当たり前である。
しかも告白をしてきた相手が人気者の先輩だ。
これでショックを受けなかったらおかしな人間だろう。
「迷ってるの?」
「うん。返事は明日するの」
「そっか。だから分からないんだね」
「うん。OKしたらデートとかするだろうし、断ったらいつも通り」
「そっか・・・。それにしても凄いね」
「愁斗先輩に告白されたこと?」
「うん」
「そうなのかな?私には良く分からない」
「由衣は先輩の事をどう思ってるの?」
「良い人そうだと思う。きっと付き合ったら楽しそう」
「それなら迷う必要はないんじゃない」
「え?」
自分でも驚く発言をしていた・・・。
由衣が告白を受け入れてほしくなんかないのに。
きっぱり断って欲しいのに。
僕は由衣に付き合うほうを促してしまった。
自分でも分からない。理由なんてないのかもしれない。
ただ僕の弱い心が傷つく前に自分から彼女を遠ざけようとしたのかもしれない。
つくづく自分が嫌になる。
思いもしない事を口にする事。後悔しながら弁解しない事。
自分の弱さ。そしてそれを隠そうとする卑劣さに。
「佑紀はさ、いいの?」
「いいって何が?」
「私が愁斗先輩と付き合うこと」
「それは、由衣が決めることだから・・・」
嫌だ・・・。嫌に決まっている・・・。
心では答えが出てるのに興味のないふりをする。
彼女に興味がない素振りをする。
傷付かないように。自分の弱い心を守るためだけに。
いずれ後悔する事を分かりながらも強くなれない。
「そっか。そうだよね・・・。ごめんね変な事聞いて」
「いいよ、気にしないで」
「うん、ありがとう」
彼女はそう言って微笑んだ。
その笑顔が僕の心に痛みを与える。
「私はね・・・」
突然、彼女がそう言った。
「私はね、告白ね断るつもりだったの」
「え?」
「気になる人がいるから」
「・・・・・・」
「でもね、その人は私には興味がないみたいなの」
「・・・・・・」
何を言っていいのか分からない。
彼女の次の言葉を聞くのが怖い。
足が震える。目頭が熱くなる。
心臓の音が痛いほどに大きくなる。
「私ね告白を受けようと思うの」
世界が反転する。黒と白が逆転する。
彼女までの距離が分からなくなる。
僕が何処にいるかさえも分からなくなりそうになる。
もうこれ以上何を言わないでくれ・・・。
壊れてしまう。自分を保てなくなる。
君を失ったら僕はおかしくなってしまう。
「つらい思いをするよりも、新しい恋に進んでみるのもきっと悪くない事だから」
「嫌だよ・・・」
初めて出た本音。出たというよりも零れ落ちた本音。
彼女が一瞬、驚いたような顔になる。
「え?」
「嫌だ。告白を受けないで欲しい」
「どうして?さっき関係ないって言ったでしょ」
あれは僕の自己防衛だ。くだらない何の意味も持たない。
辛い場所から逃げようとしただけ。
自分の心を偽った最低の行為。
「離れないで欲しい。僕の側を。1人にしないで欲しい」
「それ、どういう意味?」
「そのまま。僕はずっと由衣といたい。今までとずっと同じ様に」
胸から溢れる言葉をそのまま口にする。
言葉を選ぶ事なんて出来ない。
止めてしまったらまた元の僕に戻ってしまいそうで。
今はただ僕の想いをそのまま口にするしかない。
「それって告白・・・だよね?」
「うん。僕はずっと由衣が好きだった。告白して今までの関係が壊れるのが怖かった。
だからずっとそれを隠して生きてきた。自分を偽って生きてきた。
でも、もう無理だよ。由衣が違う男と歩いて笑うなんて嫌だ。
耐えられない。心が持たない。自分を見失ってしまう。
だから僕は由衣と離れたくない」
「・・・・・・・嬉しいよ・・・・・」
「え?」
「嬉しいよ。佑紀が自分の気持ちを聞かせてくれて」
「うん・・・」
「私はね・・・私はずっと佑紀が好きだったから」
その言葉に耳を疑う。
「僕の事が?」
「うん。さっき言ったでしょ。気になっている人がいたって」
「あ、うん。」
「でも、まさか佑紀も同じ気持ちだったなんて驚いた」
「僕はずっと隠してたから・・・。本当の気持ちを」
「でも良かった。ちゃんと佑紀の気持ちを聞けて」
「僕も良かったよ。由衣に伝えられて」
「私、どうやら夏休みは暇じゃないみたい」
「え?」
「だって佑紀とカップルになるんでしょう?デートとかいっぱい行こうね」
そう言って彼女は微笑んだ。太陽よりも眩しい笑みで。
それが僕だけに向けられてるのは確かで僕は幸せな気分になった。
今でも不思議に思うことがある。
どうして僕はあの時、自分の気持ちを言葉に出来たのか。
本当の僕は弱いからそんな事出来なかった。
でも、あの時だけは違った。
目に見えない力が僕に働いたのかもしれない。
僕にはそれが何なのかも予想つかないけど。
唯一、考えられることは神様が勇気をくれたのかも知れないっていうこと。
〜Fin〜
短編2作目です。
どうでしたか?
読んでくれた方々ありがとうございました。