ボクと似てない幼馴染み
幼馴染み二人が、ボクともう一人の幼馴染みを見て、似てるよ、と言った。
因みにその幼馴染みとは血縁関係にあらず。
更に言えば、似てると言った幼馴染み二人とも血縁関係にはないのだが、その二人はお互いがお互いをイトコとして認識する血縁関係にある。
まぁ、血縁関係がどうこうは、所詮似てる似てないという話題に必要なだけで、特別気にしたことはない。
何をどうしたって、ボク達は幼馴染みなのだから。
それで、本題に戻すと、似てるとはつまり、顔立ち、生き物としての容姿の造形の話だ。
性格ではあまり、と言うか、もしかしたら真逆と言ってもいいのかも知れない。
とにかく、中身は似ていないのだ。
「見た目も、似てないと思うけど」
視力低下のせいで、鏡に顔を近付けないと自分の顔すら認識出来ない。
目を細めて鏡を覗くボクと、幼馴染み。
似ているところを探そうとしても、見つかる気配はなかった。
睫毛はボクの方が長いけど、幼馴染みの方が量は多い気がする。
切れ長とも呼べる綺麗な瞳を思い返し、鏡の中にある丸みを帯びた目を見た。
不健康な肌の白さは見ていて嫌になるけれど、幼馴染みの健康的な白さは見ていて安心する。
あぁ、癖毛は似ているかも知れない。
癖の質は違うけれど、同じ癖毛だ。
「……何してるの」
むーん、と眉を寄せて鏡を覗き込んでいたら、背後から不審そうな声が聞こえて振り返る。
ぼんやりとした視界の中でも、声と浮かび上がるシルエットだけで誰なのか分かるのは、付き合いの長さからだろうか。
「文ちゃん」
無意識のうちに滑り落ちた名前。
そうだ、似ていると言われた対象の幼馴染み。
文ちゃん、ボクの幼馴染みの文ちゃんだ。
半開きの口のままのボクに近付く文ちゃんは、眉を寄せ、腰を折り曲げてボクの顔を見た。
鼻と鼻がぶつかりそうな距離なら、ボクでもその輪郭をハッキリと認識出来る。
やはり、健康的な白さだし意思の強そうな目に知的そうな黒縁眼鏡が良く似合う。
「自分の顔がそんなに好き?」
「まさか」
形の良い眉を歪めて問い掛けるので、肩を竦めておどけたように答えた。
自分の顔が嫌いなわけではないが、別に好きなわけでもない。
どこのナルシストだよ、そんなの。
むしろ、目の前の顔の方が好きだ。
艶やかな頬に齧り付きたいと思ったこともあれば、薄い色の唇に同じリップを塗りたくりたいと思ったこともある。
これだけ聞くと変態だが他意はない。
「似てるって」
「はぁ?」
「ボクと文ちゃんが似てるって」
どこだろう、と独り言のように呟くボクに、目の前の顔は分かりやすく歪んだ。
文ちゃんは賢い。
その知的な見た目に合うだけの脳味噌を持っていて、いつだって学年で一番の成績を叩き出している。
だから、こんな風にぼんやりとしたボクの受け答えが嫌い、なんだと思う。
ずり落ちた眼鏡を指先で押し上げた後、文ちゃんは押しを真っ直ぐに戻した。
遠くなった顔は、輪郭を失う。
ぼんやりとボクよりも身長の高い文ちゃんを見上げれば、またくだらないことを、なんて呟きが聞こえる。
「似てないわよ」
「だよねぇ」
ハッキリとした口調に乾いた笑みが漏れる。
それでも広角が上がったのはほんの数ミリなのは、ボクの表情筋が頑固とも呼べるくらい硬いから。
それを隠すように、自分の頬を両手で包み込む。
やはり、ボクと彼女に似ているところはないのだ。
そもそも、ボクなんかと似ているなんて失礼な話だと思う。
文ちゃんはボクよりも可愛くて綺麗で賢くて、とっても素敵な人なのだから。
「ねぇ、文ちゃん」
毛先に集中した癖毛を邪魔くさそうに払う彼女を見上げた。
スラリと伸びた手足はモデルさんのようだ。
向けられた視線は、確かな強い光をまとっていて、その目にボクなんかを映してくれるのが何よりも嬉しかった。
「本屋さん寄って帰ろうよ」
白魚のような指先を掴めば、一瞬だけ固まって緩くボクの指を掴んでくれる。
何だかんだで優しいところ、凄く、好き。
セーラー服のプリーツスカートを翻して、鏡の中のボクとバイバイをする。
ほら、早く、文ちゃんがボクを呼びに来たんだろうけれど、動き出したもん勝ちなのだ。
緩く繋いだ手を大きく揺らし、ボク達は駆け出した。