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北方の魔王  作者: 冬空さんぽ
第一章 βテスト
6/20

第五話 初めてのパーティー戦

 「う~ん、ゴブリンキングの血がもう少し欲しいなあ・・・・・・」


 薄暗い室内の中で独り呟く。

 俺の今のホームは鍛冶・錬金・製剤の道具が所狭しと並びベッドには読みかけのレシピ等が散乱している。

 今までどのようなMMOでも精々鍛冶ぐらいで製剤や錬金は初挑戦だからすごく新鮮で楽しい。

 まだ手を出していない裁縫や酪農にもいつか手を出してみたいなあ。

 でもあんまり生産系ばっかり鍛え上げてもなあとぼんやり考えながら紙片の散らばるベッドにダイブしたのちゴロゴロする。


 何かを考える時は紙に書いて物事を整理するし疲れた時はベッドでゴロゴロしながら独り言を呟いたり呟かなかったりする。

 ゲームでもリアルでも家でやる行動というのは案外変わらない。


 今朝ようやく初級ポーションをある程度極め、効果の高い中級ポーションを作るレシピを模索している所だったのだがどうやらこの世界の様々なレシピや文献を読む限り上等なゴブリンの血が良いらしい。


 問題はゴブリンキングの血がものすごいレアドロップで今まで2回しかドロップした事がない。

 そのレアさからポーション作成に気軽に使う気が起きなかったのだ。

 どうせならある程度所持数に余裕を持たせた後に試してみたいところだ。


 ゴブリンキングを日に五回倒す事はもはや日課になっている。ゴブリンキングに初見で手も足も出なかったあの日の恨みを晴らすかのように惨殺してる。

 ちなみに何故五回かというと一日に自分が発生させたボスモンスターを狩れるのが五回までだからだ。

 つまり制限ぎりぎりまで毎日狩っているという事。

 それでなおここまで集まらないのだから残された手段は一つ。


 「前から計画していたあの作戦を試してみるか!」


 そう、俺にはいい考えがある。

 やるべき事はもう全て決まっているので指定の装備を纏いスキルスロットを入れ替え俺は目的の場所へと足早に移動を開始した。


 ◇◇◇◇


 「この街も賑やかになったもんだなあ」


 もともとゲリュオンはかなりゴテゴテした町並みで人も多かったがそこに居た人々はNPCであった。

 今は違う、東をある程度攻略したプレイヤーがどんどん北に流れ今では多くのプレイヤーで賑わっている。

 

 その中でもここ『砦前広場』は今最も人がいるフィールドの一つであろう。

 ゴブリン討伐クエやカルデラダンジョン攻略の為に臨時のパーティーを募集する場所としてここにプレイヤーが集まってきているのだ。

 利便性がある場所には人が集まってくるものだ、端っこの方では攻略を終えたパーティーが雑談したりギルドへの勧誘をしている。

 様々なゲームの中で古くから受け継がれ形を変えつつも変わらない光景がそこにはあった。


 そう、今回は『はじめてのぱーてぃーぷれい』をしに来たのだ。

 現在ここでパーティー募集をしてるプレイヤーはレベル25前後が多いらしいからそのレベル帯に合わせた装備とスキル構成で目立たないようにパーティーに潜り込みゴブリンキングの血が出るまでパーティーを転々と渡り歩くのだ。


 頭にはウサミミ帽子、手には金の腕輪、鎧は普通にレベルに見合った軽鎧、外套には天使の羽。

 これは俺の今までの経験を活かした『この手のゲーム慣れてるプレイヤーですよ』感の溢れる装備だ。

 いわゆるネタ装備と言うやつだ。

 あんまりがっちがちの装備だと「おっ?こいつこのクエ初見か?」ってナメられるしゴブリンキングの動きを理解し過ぎてる俺のプレイングとのギャップが生まれてしまいそうだったからこのような装備を入念に準備してきた。

 用意した後に「俺って自意識過剰過ぎじゃない?そんなにパーティーメンバーの格好とか気にしないだろ」というセルフ突っ込みが発動したがもう用意してしまった手前使わざるを得ない。


 「盗賊なんだけどまだ近距離職の枠が埋まってないなら混ぜてくれないかな?」

 

 ちょうど良さそうなパーティがあったのでこちらから声をかけていく。

 こういうのは積極的に声をかけていくのが大事、別に面白い話をしないといけないわけでもないので恐れず話しかけていく。


 「う~ん、盗賊かあ・・・・・・本当は盾持ちの戦士とかが良かったんだけど。前衛の経験あるの?」

 「はい、何度かこの広場でゴブキンやってます。今まで何の問題もなくやれてましたよ」


 もちろん嘘だけどね。

 最初は微妙な雰囲気だったが前衛が見つからず開始が遅れていた様なので参加させてもらえた。

 そもそもまだβなのにただでさえ数が少ない傾向にあるタンクなんてやる奴はそうそういない。

 どのぐらい居ないかって言うとわざわざ剣型ではなく斧型のスキル構成で戦士やる奴並にいない。


 「前衛枠で入ったアンブラです。よろ~」

 「よろ~」

 「よろ」

 「よろしく」

 「よろ~(´・ω・`)ノ」

 

 挨拶は基本。

 それにしてもこの音声入力全盛期にわざわざ文字入力で顔文字を打つ奴がいるなんて・・・。

 ロールか何かなのかな?


 今回はリーダー格の魔法使いがクエストを発生させ、ゴブリンキング討伐後にアイテムドロップの山分けをして解散という流れらしい。

 どうやら連続で挑むわけではなく一度攻略するだけらしい。

 野良での適当な募集としてはオーソドックスな手法だ。


 リーダーがクエスト受注後すぐに山脈のゴブリン砦へ向かう。

 通い慣れた獣道を苦も無く進む。

 途中で現れたゴブリンアーチャー等の雑兵はこのレベル帯ではもはやおやつ感覚で狩られるため何の問題もない。


 砦最深部に辿り着くと雰囲気がガラッと変わる。

 ボス部屋前特有の重い空気が当たりを包み込んでいる。

 

 「((((;´゜Д゜)))」


 うん、何か顔文字を多用するヒーラーちゃんも緊張してるみたいですね。

 他の三人も平静を装っているが武器を握り直したり所持アイテムを確認したり各々準備を整えている。

 俺はぼーっとパーティーメンバーの準備を眺めながらだらけていた。

 

 「それじゃ・・・開けるぞ!」


 リーダーが扉を開けていく。

 本来は前衛が開けた方が良いんだろうがやっぱりリーダーやるような人は開けたがるし別に問題はないので何も言わない。

 ゴブリンキングくんは今日も優雅に玉座に座っている。

 初見の時は王の風格を纏っているようなその威風堂々な態度に圧倒されたが今の俺には


 「またお前かよ、何度荒らしに来るんだよ」

 

 とでも言いたげな顔に見える。本当に申し訳ないですが血をください。


 

 パーティーメンバーが全員エリア内に入ると同時に扉が閉まりゴブリンキングの名前とHPバーが表示される。

 (まずは前衛がタゲを取らないとねっと!)

 盗賊らしい加速(多分)をしつつ一瞬で王の懐に飛び込みスコップをその懐へ突き立てる。

 それと同時にゴブリンキングのHPバーが一気に1割近く削られる。


 (やばい、スコップでも今ならこんなに削れるのか!)


 散々苦労して偽装したにも関わらずここでしくじっていく。

 今日の三回のうち一回でもスコップでどのぐらいのダメージが出るか見ておくんだった。


 パーティーメンバーは俺のしくじりを特に気にする事も無く攻撃を開始していく。

 魔法使い2人の雷撃がゴブリンキングの背を焼き本格的な戦いが始まった。


 王はこちらに向けてぶんぶんと大剣を振り回すが当然今の俺に当たるはずも無く余裕を持って見切っていく。今の王の命中率では真正面から俺に当ててもカス当たり判定になってほとんどダメージは通らない。


 もう一人の前衛である剣士くんは俺がずっとタゲを独占してるので仕方なく剣による攻撃を始めている。

 何というか少し申し訳ない気もするがこればっかりは仕方ない。


 ヒーラーちゃんは回復する相手が居ないので支援魔法を俺にかけてくれる。

 顔文字ばっかり使う痛い子だと思っていたけどちゃんとやる事はやるタイプみたいだ。

 多分中身はおっさんだな。


 そんな事をぼーっと考えながら盾役に徹しつつターゲットが流れないようにヘイト管理をする。

 ヘイト管理と言うと難しい事をしている様に聞こえるかもしれないけど単純に他の人に攻撃が流れない様に定期的に相手を殴るだけだ。ただしダメージが通り過ぎないようにスコップの刃の部分以外で。


 HPが五割、三割と減るにつれてどんどん攻撃が激しくなる。

 初見の時には見れなかったゴブリンキングの本気だ。

 ゴブリンキングはその肉厚の大剣を財宝の壁へ無造作に投げた後に左手の短剣を全力で振るい範囲魔法乱打モードへ移るのだ。

 

 氷の槍が降り注ぎ玉座の間を白く染める。

 その刃は白く輝きまるで絨毯爆撃の様に隙間も無く降り注ぐ。

 ここで初めて盾をストレージから出現させ槍を盾で受けていく。

 本当はこんな事しなくても避けるなり短剣で弾くなり手段はあるがそんな事をこのレベル帯でしてたら怪しまれてしまうので今回は盾で受けた。

 氷の槍が盾に当たる度に砕かれ破砕する音が響き渡る。


 (今まで一度も試したこと無かったけどこの魔法盾受けすると熟練度の伸びやばいな!

これは新たな日課にしないと・・・)

 

 ガード系スキルの熟練度は稼ぎづらい、特にソロだと尚更だ。

 そもそも耐久系のステータスを上げてない俺みたいなプレイヤーの場合盾受けを上げる際には格下と戦わざるを得ない上にちょうどいいレベル帯に連続攻撃を延々としてくれる敵が居ないと出来ない。


 だがボス属性モンスターの場合はどうだろう?

 レベル差による経験値減衰が適用されないボスモンスターの連続攻撃は熟練度をあげると言う一点で考えればこれ以上無い美味しさかもしれない。

 

 俺が攻撃を盾受けしてる間、味方は全員俺と王を挟み撃ちにする位置取りに固まっている。

 そうしないと魔法に巻き込まれるから当然だ。

 そして遂にリーダーの雷撃がゴブリンキングの背を焼き切りゴブリンキングが光へと消える。


 大量の経験値が入り僧侶ちゃんだけだがレベルアップしたようだ。

 ファンファーレが室内に響き渡る。


 「おめ~」

 「おめでとう」

 「おめ」

 「おめでとうございます」

 「(≧∇≦)」

 

 仲間がレベルアップしたら『おめでとう』と優しく祝してあげる。

 これもまた古き良きMMOの伝統であり(以下略


 そしてボス戦が終わったらもちろん精算である。

 全員のアイテムドロップを見せ合い、欲しい物がある人はそれを買い取りその買い取った金額を山分けする金額に加算する。

 買い取りたいアイテムの取引が終わった後は店や露店でドロップを売り合計金額を人数で山分けしていく。

 

 今回は残念ながらゴブリンキングの血が出なかったので俺は買い取りなし。

 ゴブリンキングの大剣はドロップしたので取り分はそこそこだった。


 「おつでしたー!」

 「おつー」

 「おつかれー」

 「おつっしたー!」

 「ヾ(*'-'*)」


 その後は特に何も無く解散。

 もっと雑談とかしないのかって思う人もいるかもしれないけどこんなものだ、知り合いでもないしね。


 「うーん、やっぱりボスドロップに対してはいまいち戦果を上げてくれないんだよなー」


 今まで散々酷使しておいて何だがスコップくんはボス戦だとあんまり良い結果を出してくれない。

 アイテム収集クエストとかだと物凄い役に立ってくれるのだけど・・・・・・。


 今回盗賊を偽ってパーティーに参加したのもスコップを使って少しでもレアドロップであるゴブリンキングの血が出る確率を上げようと試みたからであって本当は斧を振りたかったのに我慢して短剣を使っていたのだ。


 「寝ないといけない時間まであと2時間・・・・・・4回ぐらいなら回せるかな?」


 溜息を吐きつつ新たなパーティーを求め俺は精算広場を後にした。

 

今回は前話のちょっと後の話でした。

バトル回の筈がバトルが薄く・・・どうしてこうなった!

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