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北方の魔王  作者: 冬空さんぽ
第一章 βテスト
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第四話 小高い丘と濃紫の剣



 ゲリュオン山脈。

 それはまるで人間の生存圏と魔境を遮ぎるかの様に聳え立つ大山脈である。

 天にも届きそうな程の山々が連なり、山頂は雲を貫き麓からはその様子を見る事が出来ない。

 セントラルタウンの遥か北西から北東にかけて隙間無く続くこの山脈を越える方法は町人によると北の坑道を抜けるしかなく、坑道には大型の魔物が蔓延っており山脈を越える事は実質不可能という話だ。

 俺は今回その坑道の魔物がどんなものか見に行くつもりだった。


 しかし、実際に坑道に辿り着くとそこは蛻の殻だった。

 山の麓にある入り口から細心の注意を払いつつ薄暗い坑道内を探し回ったが、坑内は異様な静けさに包まれ生物の気配が全く無く。結局一度も敵に会う事無く向かいの出入り口に着いてしまった。


 推測ではあるがこのダンジョンのフォルムは完成しているがモンスターはまだ実装していないか、βテスト段階のプレイヤーでは瞬殺されてしまうので意図的に沸かせていないか。

 もしくは何らかのイベントが発生しないとモンスターが沸くフラグが立たたないのかもしれない。


 とりあえず坑道内の宝箱からいくつかのアイテムを頂いていく。

 だが俺がここに来た目的はレベル上げだ。

 敵を求めてやって来たのに敵が居ませんでしたでは意味が無い。

 坑道にモンスターが居ないのなら当然この先のMAP、山脈の向こう側にもモンスターはいないだろうが単純に興味をそそられた。

 人の世界と隔絶された魔物達の世界、それがどの様に描かれているのか。


 薄暗い坑道を抜けるとそこには一面の枯れた荒野。

 空は厚い雲に包まれ、昼間にもかかわらず少し薄暗い。

 大型の魔法が被弾したかのようなすり鉢状の穴や大型の魔物や人の白骨。

 地面に無数に突き立てられた矢がびっしりと広がり朽ちた剣や槍が墓標の様に大地に突き立っている。

 かつての人と魔物の戦争の名残か何かなのか・・・・・・。

 よく見ると遠方には破棄された砦の様な物も見られた。


 特に目的も無く歩いてみる。

 もはや気分は完全に観光気分だ、仮想の世界の仮想の歴史資料を興味本位で見て回るのだ。

 この場所も将来的に坑道で強敵が沸いた場合には気安く見に来れなくなるのだろう。

 

 ある程度見て回り、そろそろ本題のレベリングの為に坑道へ向かう事も考えていた俺は完全に油断していた。

 大型の魔物の死骸を観察していたはずが急に視界が暗転し先程までと全く違う景色が広がる。


 おそらくイベントマップに飛ばされたのだろう、背の高い木々に囲まれた森だ。

 目の前にはここを通れと言わんばかりの細い道が続いている。

 道なりに歩を進める。どのようなイベントが来てもいいように短剣を握り締める。

 魔境の難易度は未知数、油断無く周囲を警戒しつつ歩を進める。

 

 道の先には小さな丘がありその頂上に倒れている牛人と怪しい光を放つ剣が地に刺さっている。

 牛人からは電球アイコンが出ているのでおそらくNPCであり襲ってくる心配は薄い。

 近付くと遠くからはよく見えなかった牛人の様子が鮮明になっていく。

 手につけた手甲は割れ左足は根元からもがれ両角はへし折られている。

 戦いに敗れた死に体の戦士といったところか。

 遠くからはあまりの巨体に牛人に見えたが近付きよく見てみるとこれは牛ではない。

 山羊だ、山羊人と言うべきなのか。

 大地に突き刺さった剣は濃紫の剣身から禍々しいオーラを放っている。

 もしこれが光を纏っていれば伝説の英雄のみが抜くことが出来る伝説の聖剣のように見えたであろう。

 その放つオーラとは対照的に剣の鍔と柄頭には美しい装飾がされている。


 「そこに・・・誰か居るのか・・・?」

 山羊人が突然呟く。白く濁った目を見開くがその目に光は無い。

 「目を潰され足も欠け角と希望も砕かれた哀れな男の最後の頼みをどうか聞いていただけないだろうか・・・・・・」

 俺は了承し続きを促す。

 「すぐそこに突き刺さった剣があるだろう、その剣を引き抜き私の意志を継いで貰いたいのだ。

 もし剣を引き抜く事が出来れば後は剣が何を成すべきかを私の代わりに語るであろう・・・・・・」


 そう語ったきり黙る山羊人。

 どうやら剣を引き抜けば良い様だがどのように引き抜けば良いか等のヒントは全く無い。

 まさか力いっぱい引き抜けばそれだけで完了する程単純なものでは無いだろうし何か役立つような物はないか辺りを見回すがそこには鬱蒼とした森と丘しかない。

 ダメ元で剣を握り締め思いっきり力を込めると・・・・・・なんと簡単に引き抜けた!

 するとクエストが更新され再び山羊人に再び電球アイコンが浮かぶ。


 「無事剣を引き抜けたようだな・・・・・・まあ誰にでも抜けるのだが。」

 「それでは剣を引き抜いたお前には私の意志を継いで貰うぞ。

 騙すようで悪いがこれでも魔王なのでな・・・・・・頼んだぞ新たな魔王よ・・・」

 「は?」

 どっと嫌な汗が出る。

 先程まではただの死に体の戦士に思われた山羊人から濃密な気配が溢れ出し身体を襲った。


 そのセリフが終わると同時に周囲の景色が消し飛んでいく。

 もう山羊人の声も気配も彼方に消え周囲にはイベントマップに飛ばされる以前の古戦場の様な風景に戻っていた。

 「何だったんだ今の・・・」

 新たな魔王?あまりにも脈絡が無く意味不明である。

 とりあえず先程抜いた剣を確認しようと思いアイテム欄を表示しようとした瞬間いくつかの事が同時に起きた。

 まず最初に服が脱げた。当然下着などはそもそも脱げない仕様なのでそれ以外の服や装備がだ。

 次にレベルアップ音が周囲に響いた、クエスト報酬の経験値でレベルが上がった・・・・・・・のか?

 そして最後に新たなスキルツリーとジョブを獲得しましたというアナウンスが流れ一瞬にして今まで着ていたのとは違う服を着せられる。

 頭には・・・主観では確認しづらいので装備をはずし手に持ってみると山羊頭のついたスカルヘルムだ。

 身に纏うのは漆黒のフード付きローブに漆黒のマント。靴は銀色に輝くブーツだ。

 

 ここまで見せられればさすがに理解が追いつく。

 そう、俺は先程のイベントのせいで強制的に魔王に転職させられたのだ。

 最初に服を脱がせたのは職が変わった後本来装備したままにしておけない装備を装着したまま転職出来ないようにするためだ。

 唐突なレベルアップは本来まだ職につけるレベルでは無かったために強制的に20レベルまで上げられたのだろう。

 ステータス画面で確認してみるとちゃんとレベル20になっている。なんだかズルした気分だ。

 

 クエスト一つでレベルが8つも上昇した事は喜ばしいが目指していたバーサーカーへの道は強制的に断たれた事になる。

 そう考えるとかなり複雑ではあったが元々変なイベントや装備の多いゲームと聞いてはいた。

 諦めるしかないだろう。

 そう軽く考えていたのだが・・・・・・。



 この時はまだ知らなかったのだ、この魔王というジョブが途轍もない欠陥ジョブであるという事を・・・・・・。

 


 

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