第三話 ゴブリンキング
俺が少し震えながら室内に入ると背後で扉の閉まる音がした。
そしてゴブリンキングが玉座から立ち上がると名前とHPバーが表示された。
ゴブリンキングは静かにこちらへ向かってくる。
その右手には銀色に輝く肉厚の大剣が握られ、左手には飾りの派手な短剣が握られている。
普通なら右手の大剣を警戒する所だが・・・・・・もし左手の短剣が呪術用の短剣だとしたら魔法も警戒しないといけない。
意を決して懐に飛び込む為に駆けていく。
いつまでも考えていても仕方がない、剣を肩に背負いゴブリンキングの左手側から切り込もうとする。
だが当然そんな事を王が許すはずも無く右手の剣が振るわれる。
剣が振るわれると同時に突風が巻き起こり室内に並べられた財宝が宙を舞う。
剣を盾とし何とか防ぎつつ間髪入れずに王の左手に一太刀を浴びせる。
HPバーが僅かに減る。そしてそのままHPバーから目を離さずに後ろに下がる。
何をしているかというとHPが自動回復するかどうかを確認しているのだ。
こういうゲームのボスの中にはHPを自動で回復するスキルを持ち、低火力では倒せない類のボスもいる。数秒眺めていたがゴブリンキングはその種類のボスではないようだ。
持久戦さえ可能なら討伐が可能という事になる。
勝機が僅かばかり見えてきた所で一気に攻勢に回る。
左手に握る短剣なら振られても俺の長剣の方がリーチで勝る為強引に懐を狙わずに手や足を細かく切っていけばいつかは勝てる。
もちろん手や足は腹や顔に比べてダメージが出辛く時間はかかる。
だがそんな目論見はあっと言う間に崩れ去った。
ゴブリンキングのHPが一割程減った途端その目に赤い光が宿り突風を纏う大剣を派手に振るう。
先程まではダメージの無いノックバック技だった突風が俺の肌を裂きHPがあっと言う間に3割も持っていかれる。慌ててポーションを口に含むがその隙に間合いを詰められ致死とも思える斬撃が振るわれる。
他に手は無く長剣で切り結ぼうとしたが一瞬で長剣は折れ財宝の山まで吹き飛ばされる。
まさか一撃すら耐える事も無く長剣が折れるとは思いもしなかった、もう武器は初心者用短剣しか残っていない。この短剣では王の左手を狙う先程の作戦を取ろうとしてもリーチのアドバンテージが取れず敗北する事は確実。
ゴブリンキングの攻撃から逃げつつ辺りを見回す。
どこかにギミックは無いか、ゴブリンキングに対抗する為の武器がないか探す。
よく考えればこの部屋の両脇には黄金に輝く財宝が壁のように積まれている。
もしかしたらこの中にゴブリンキングを倒し得る宝剣等の武器があるのでは・・・・・・?
必死になって財宝の山に目を凝らしながら逃げ惑う。
ゴブリンキングはもはや先程までの王らしい振る舞いを捨て完全に猛獣の様にこちらに向かってくる。
短剣はもはや盾にすらならないとストレージに仕舞い、財宝を盾にしつつ逃げる。
皿、像、宝石類。
まるでボス攻略には役に立ちそうも無い品々だ。
やはり勝機など存在しないのか、そう諦めかけた隙をゴブリンキングは逃さなかった。
遂に今まで振るわなかったその左手の短剣が振るわれ鋭い氷の槍が俺の胸を足を貫く。
HPが一気に減りあっと言う間に死に近づく。
地面にうつ伏せに倒れた瞬間に目の前に黄金に輝く短剣がある事に気付く。
画面が暗転し街に戻される間際必死に手を伸ばしその黄金の短剣を握り締めた。
◇◇◇◇◇
ゴブリンキングには全く手が出せなかった。
やはりこのレベル帯ではろくなスキルも武器も無くソロでボスを倒そうなど無謀だったのだ。
だがしかしただでは死ななかった。先程死の間際に手に入れた短剣を調べてみる。
<スコップ>
種類:短剣
要求ステータス:LV12
ATK+35
AGI+1
LUK+7
トレジャーハント効果LV7
【説明】ドロップを採掘するのに最適な短剣、所持者に幸運の加護を与える。
ボス討伐にこそ役には立たないだろうが今まで見たどんな武器よりも強く、何より特殊効果が素晴らしい。スコップと言うのはMMOというよりハクスラと呼ばれるゲームの用語で武器を掘る(アイテムドロップを狙って狩りをする事)際に使用する為の繋ぎの武器の事である。ちなみに形状はスコップではなく黄金に輝く細い短剣だ。
これを手に入れただけで大戦果だ、だけどやけにイライラする。
自分でもかなり厳しい戦いになると思っていたし負けても仕方ないと思って挑んだ筈だがとにかく負けた事が悔しくてしょうがないのだ。
考えてみればMMOでボスに負けた経験が今まで無かったからかもしれない。
プレイした事が無い人には中々理解し辛い事かも知れないが通常MMOでボス戦をする場合動画やwiki等を熟読し必要な装備や職構成を揃えて攻略するのが一般的で、余程難易度の高いボス戦以外では失敗等起こり得ないのだ。
もちろんそのwikiや動画の作成をするプレイヤーは幾度にも及ぶ試行錯誤の上そういった攻略記事等を作っているわけだけどそういった最前線を走るプレイヤーは本当に一握りなのだ。
強くなりたい。
あのゴブリンキングをソロで打ち倒せるほどに強く。
そう決意を固めスコップを片手に俺はレベリングに最適な狩場を求めゲリュオンを後にした。