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北方の魔王  作者: 冬空さんぽ
第二章 昏き深緑の迷宮編
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第三話 ハルモニア

「これが飛空庭園ですか・・・・・・」


 リンカが見上げる先には空飛ぶ超巨大な逆三角形の陸地が浮かんでいる。

 地上から見上げる飛空庭園は街の半分を覆うほどの影を落としていた。

「運ぶ荷物はこれで全てか?」


「はい、錬金・鍛冶・製薬に必要な施設や蔵書等全て揃っています」


「それじゃあ行こうか」


 アンブラとリンカ、そして荷物の周囲に淡い緑の光を放つ魔法陣が描かれる。

 これは飛空庭園との行き来に利用される転移魔法で飛空庭園を建造した際に使えるようになる魔法だ。


 瞬く間に視界を覆った光に導かれ天空の庭へ導かれる。

 眼下には切り立った山脈と様々な建築が不恰好にひしめく都市が広がる。

 

 どこまでも澄み切った青空の下小屋へ荷物を運ぶ。

 これは初期状態の庭園に備え付けられた施設でプレイヤーの手によって増築、もしくは改築する事が可能だがまだ手をつけていない。

 最初は城でも建ててみるかと考えたが築城スキルは魔王専用なので自分のジョブが露見する可能性があった為控えた、一般的なプレイヤーと同じカスタマイズを後日施す予定だ。


 元々一室に押し込める程度にしか荷物が無かった為荷物の搬送には大して時間は掛からなかった。

 あの一室に比べれば遥かに広くなった居住スペースを見回した後、真ん中に置かれているテーブルに着き旅行中に思いついた今後の予定を共有する。


「最初はせっかく東や西にも行けるようになったし自分が支配している地域を見て回ろうと考えていたんだが、結界の外に行くのも悪くないんじゃないかと考えているんだがどう思う?」


「結界の外ですか・・・・・・『魔物の園』に行くのは危険かと思いますが何か目的でも?」


「ああ、ちょっとこっちの事情でな」


 βテスト期間中は実装されていなかった人間の世界を覆う結界の外、精霊達からは『魔物の園』と呼ばれているらしい地域は本サービスと同時に実装されβテスト出身のプレイヤーがこぞって挑んでいるらしい。


 彼らは知っている、この世界において未知に挑むと言うのはリスクだけではなく大きな見返りがあるということを。

 そこには唯一無二の財宝やスキルが眠り、一度手に入れ損なえば二度と手に入らない。

 要は早い者勝ちなのだ、そして競争に勝ち残り力を得たプレイヤーは更なる力と更なる脅威に挑む権利を与えられる。形は違えどオンラインゲームにおけるある種の伝統とも言える流れだ。


 今の俺はこのゲームにおいてトッププレイヤーと言っても差し支えない程度の実力を持っていると思う。トップにいるという事は背を追うプレイヤーがたくさんいて追い抜かれる恐怖と常に戦うという事でもある。


 だからこそ俺は勝ち逃げる為に未開へ挑む。

 更なる力を手に入れる為に。


 「ところで結界外に進出する事は把握しましたがどの方角から探索するのですか?今なら選択肢が多くありますが」


 「迷ったが北からにしようと考えている、因縁の地からな」


 そう、かつてこのジョブに強制的に就かされ随分と手間をかけさせられたきっかけ。

 羊人のクエストを受けたあの地から手始めに探索する。

 本音を言えば少し気になっていた事があったのだ、それをまずは確かめに行く。

 

 大斧『ダークスティール』とダマスカス鋼の全身鎧を身に纏い、その上からアサシンクロースを羽織る。

 今までは踏破が目的だった為比較的軽装な装備が主であったが今回は真っ向から戦うつもりの装備だ。


 難敵が増えていると予想して投擲用の麻痺針、毒針、石化針を大量に持ち込む。

 いつもの呪術用の短剣二振りと大量のポーションは変わらず持っていくが、今回はポーションを錬金術で作成した蓋付きのピッチャーに移してある。

 ポーションは中身の質と飲んだ量により回復量が決まる為大型の容器に移したことにより一度に大量のポーションを飲みやすくしたのだ。


 身支度を終えリンカに片手斧と手投げ斧の製作を命じた後、転移魔法を発動。

 すっかりもぬけの殻と化した元市長邸を後にし魔境へと旅立った。


◇◇◇◇◇◇


 微かに残る記憶をしるべに坑道を突き進む。

 ゲリュオン北部に位置するこの坑道は中位の魔物の巣窟と化し人界から外界への侵略の妨げとなっていた。

 しかし今の俺からすればつまらない魔物ばかりだ、地中から不意打ちを狙う人食いモグラやつるはし片手に坑内をうろつくサイクロプスワーカー。

 それらの魔物を難なく一刀両断しつつ歩いていくと程なくして外界への入り口が見えてきた。


 目の前に広がるのは何処までも荒れ果てた荒地。

 厚い雲が天を覆い薄暗く不気味な雰囲気を引き立てている。

 足元に広がる白骨を踏み砕きながら俺は歩を進める、目的地は以前ここに来たときに結局探索しなかった砦だ。

 遠く視線の先には何体かの大型の魔物が徘徊しているが随分と距離があるので無視していいだろう、アンブラは真っ直ぐに砦へ向かうこととする。


 坑道を出て十数分、結局ここまで戦闘も無く平和に到着してしまった。

 石造りの古びた砦はちょっとした集合住宅ぐらいの大きさで外壁は所々崩れ、爆炎魔法の直撃を受けたのか表面は黒く焦げている。


 砦内には黒ずんだ血の跡が無数に広がっていて、ここでの凄惨な戦いの爪跡が至る所に見られる。

 不気味な砦の中には宝箱も無くモンスターもいない、ただただ静寂のみが存在していた。


 「当ては外れたか」


 わざわざ形を保ち荒野に建っていたこの砦には何らかの意味があると踏んで訪れたにも拘らず期待が外れそろそろ帰ろうかと思っていた矢先、俺は不思議なものを見つける。


 それは何て事は無い一室の中心に突き立った剣だ、外は曇天な筈なのに崩れた砦の隙間から日差しが差し込み剣を照らしている。

 その姿は幻想的でどっかの魔剣とは違い神聖な輝きに包まれている。

 前回の教訓から剣に触れるのを一瞬躊躇ったが迷ったのは一瞬、床に突き刺さる剣があれば引き抜くのがゲーマーと言うものだ。


 剣を引き抜こうとした瞬間、何者かに突然肩を触れられ勢い良く振り向く。

 ━━そこには銀髪の美しい少女が立っていた。

 柔らかく豊かな髪は肩のところで切り揃えられ、その瞳は蒼穹を思わせる蒼さだった。

 その身に纏う純白のドレスは返り血で黒ずんでいる。

 彼女の名はハルモニア、この少女との出会いがアンブラをより奇妙な冒険へと導いていく。

読んで頂きありがとうございます。

よろしければ引き続き応援よろしくお願いします。

あと事後報告にはなりますがタイトルを変更しました。


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