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北方の魔王  作者: 冬空さんぽ
第二章 昏き深緑の迷宮編
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第二話 飛空庭園

 金髪碧眼でスタイル良し、その所作は元精霊の女王の肩書きにふさわしい鮮やかな物で先程の失態が無ければ見惚れてしまう可能性すらあっただろう。多分このゲームで一番中身と外見に乖離があるであろう美女は寝癖を直しよだれを拭き今は調子を取り戻しつつあった。


「ふふふ・・・・・・超長時間放置プレイしたあげく不意打ちで訪ねてくるなんて・・・・・・相変わらずご主人様は鬼畜ですね」


「勝手にお前と同種扱いするな、あとその『ご主人様』呼びはもういい。これからは名前で呼んでくれ」


「それではこれからはアンブラ様とお呼びしますね」


「お、おう・・・」


 相変わらず付き合いづらい、変態発言の後に急に業務連絡みたいに淡々と受け答えしたりするのでどうにも調子が狂う。普通の受け答えが全く出来ないよりかはマシなんだけど。


「それでアンブラ様、私は何をすればいいですか?斧はもう十分なんですよね?」


「そうだな、今日からは別の作業に入ってもらう」


「別の作業・・・・・・?一体なんでしょうか?」


「ふふふ・・・・・・まずは飛空庭園を作るのだ!」


「飛空庭園?」


 説明しよう、飛空庭園とはざっくり言うと空飛ぶプレイヤーハウスだ。

 今日以降北から進出する俺達にとって拠点が北に固定されてしまうのは面倒だ。


 普通のプレイヤーは何処にでも移動しやすいようにセントラルタウンに拠点を築くらしいがこの本サービス開始に伴なって央都に空き物件など無いだろうしそもそもあんな事をしでかした後に央都に居を構えるほど神経が図太くない。


 あと魔王には拠点でのみ行使可能な権限が多い為単純に拠点から離れ辛い。

 なので拠点を自由に移動させられる飛空庭園はこれからの魔王ライフに必須なのだ。


「なるほど、飛空庭園がこれからの旅に必要なのは分かりました。それで飛空庭園はどのように製作するのですか?」


「そこらへんはきちんと調べてある、メモによると」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

飛空庭園の素材

・丈夫な布 30枚(カラムシという葉から作成可能)

・丈夫な木材 200個(ヒノキから作成)

・頑丈な鉄 50個(鉄鉱石から精製)

・魔力のカケラ 100個(採掘時の屑石)

・頑丈ロープ 30個(麻から作成)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「こんなところだな」


「意外とお手軽に作れるのですね」


「内容は単純だけど数が多いから揃えるのはそれなりに手間かな。これらの素材を持ってソリス湖のほとりのNPCに声をかければいいらしいから作成難易度自体は低いね」


「そうなると・・・・・・足りない素材のヒノキと魔力のカケラを買い取ってくればよろしいのですね?」


「話が早いな。金はあるから頼む」

 

 リンカは何をすべきか理解すると小さく「行って参ります」と頭を下げた後足早に出て行った。

 なんだかんだでやるべき事はやるのだ。俺は彼女を見送ると手許の材料が足りている布・鉄・ロープの作成に入る。



◇◇◇◇◇◇


 数十分後、リンカが要求した素材の買取を終え帰還した。

 魔力のカケラは採掘さえ出来れば1レベルからたくさん手に入れられるしヒノキも品質を考えなければ数を揃えるのはそこまで難しくない。それでも数百個を数十分で買い取ってくるのは難しいと思うが。

 一瞬買取価格を聞こうと思ったが止めておく、失ったお金は返ってこないのだ。


 リンカと二人で黙々と作業する、リンカはこういった地味な作業が得意だ。

 厳密に言えば得意になるまで仕込んだのだが。


 程なくして作業が終わり南へ旅立つ。

 リンカはお留守番をしつつ飛空庭園に拠点を移動する準備を進めて貰う。


「南まで行くのは初めてだからちょっと旅行しちゃおうかな」


 そう、話には聞いていても実際にソリス湖を見た事はないし足を運んだ事はない。

 馬車に揺られながら攻略サイトで予習した内容を思い出していると気付けば央都に着いていたので慌てて南行きの馬車に乗り継いだ。


 南行きの馬車に乗りしばらくすると背の高い木々が増え街道の左右に森が広がる。

 物凄い高さだ、あまりに背の高い木々に囲まれている為街道は影に呑まれる。

 新鮮な森の香りを堪能しているといつしか森を抜け湖が見えてくる。


「これが湖なのか・・・・・・対岸が見えないし昔旅行で行った琵琶湖ぐらいの広さはあるのかな?」


 そこには広大な湖と隣接した街並みが広がる。

 湖の上にはいくつか船があり漁業も盛んなようだ、これは今夜の食事が少し楽しみである。


 馬車の御者にオススメの宿を聞き湖岸の都市ソリスを往く。

 ゲリュオンと違い道幅は広く人はそれなりにいるものの景観が考えられているのか建物はきっちりと等間隔で並んでいる。南国風な建物と美しいソリス湖の夕焼けがゆったりとした時間を演出していてここに来た目的を忘れそうになってしまった。


 見かけたお土産屋さんに道を聞きつつ御者に紹介された宿に向かう。

 今日はもういい時間なので一泊して翌日飛空庭園を依頼する事にしたんだ。

 紹介してもらった宿は藁ぶき屋根と白い壁で出来ておりかなりお洒落な雰囲気で実際お高い値段だったが折角の旅行だったので奮発した。

 

 宛がわれた部屋は離れになっていて湖に面した絶景を楽しみながら食事や入浴が出来る部屋だ。

 部屋から見るソリス湖は美しく日が暮れるまでずっと眺め続けていても飽きない程の絶景だった。


「おお・・・・・・これは俺史上最高に豪勢な晩餐だ・・・・・・」


 目の前に広がる豪勢な食事がリアルならいくらするんだと考えてしまう庶民感覚が恨めしい。

 ソリスサーモンの盛り合わせに剣海老の御造りをメインに和風の食事が所狭しと並ぶ。試しにサーモンから手をつけるとゲームの中に居る事を忘れる程の凄絶な旨みが口の中に広がる。サーモンの油が口内にじゅわっと広がりすぐに米が欲しくなってたまらず茶碗を手繰り寄せた。


 夢中になって米を搔きこんでいるとすぐに茶碗は空となり慌てておひつから米を掬う。

 昔見たアニメでちょっと美味しいご飯が出たぐらいで下品に茶碗を掻きこんでいる様を見て過剰な演出だと醒めた目で見た事があったが違うのだ。本当に美味しい物を食べると人は無我夢中で外聞も気にせず食してしまうのだと理解した。


 海の幸ならぬ湖の幸を堪能した後は露天風呂だ。

 月明かりに照らされた湖上は趣があってついつい長湯になってしまう。

 湯加減も絶妙で日々の疲れが足の先や肩から抜け落ちる、お湯の薬効のせいかもしれない。


 部屋に戻り床に就くとスッと眠気が訪れ気付けば朝であった。

 朝食もシンプルながら要所を押さえていて気付けばおひつは空となっていた。


「そういえば何しにここに来たんだっけ」


 宿から出た瞬間つい呟いてしまう、あまりに宿が素晴らしすぎて飛空庭園作成がどうでも良い些事になりかけていたが気を取り直して作成NPCを探す。


 この後飛空庭園を作成したアンブラが例の宿にもう一泊し、先日この宿を紹介した御者に少なくないチップを払ったのは言うまでも無い。

 


読んで頂きありがとうございます!

次回からはきっとVRMMOらしくなります・・・・・・多分!

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