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北方の魔王  作者: 冬空さんぽ
第二章 昏き深緑の迷宮編
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第一話 本サービス開始

「やはりこうなってしまったか・・・・・・」


 ついそう呟いてしまう。

 今俺が見ているのはマーズ・オンラインのアップデートの内容。

 つまりβテストから本サービスに移行するにあたりどの様な変更がなされたかの一覧だ。


 フィールドボス追加や結界外の世界の本格実装等がメインだが俺にとって一番影響がでかいのはやはり<<ユニークジョブのバランス調整を行いました>>の一文だろう。

 

 基本的にユニークジョブの名前は公表する気がないらしくスキル名のみの表記だが見覚えのあるスキルが軒並み弱体化修正をされていた。その中でも<<神剣白刃取りの判定成功時の効果を変更しました>>の一文を眺めてつい溜息をついてしまう。


 この『神剣白刃取り』は対象の呪文・物理攻撃どころか落下ダメージすら『見切り』スキルによって適切に見切れていれば無効化し武器スキルの場合は武器破壊まで可能という俺の持っているスキルの中でもぶっちぎりで壊れた性能を持つ強スキルだった。


 そもそもこの『見切り』スキルからして判定がガバガバで、攻撃される気配を感じただけで攻撃を目視する必要も無く攻撃をかわせるおかしなスキルだったので調整に依存は無い・・・・・・むしろこれから他のプレイヤーやこのスキルを備えたモンスターと戦う可能性を考えれば調整された事を喜ぶべきだろう。


 今回『神剣白刃取り』に科された調整は今までダメージ無効化だった効果がダメージカット<大>に変更になったらしい、このダメージカット<大>がどのぐらいダメージを減らせるかどうかは実際にログインして確認してみるしか無い。


 他のスキルについては細かい調整が入っているが致命的な物は無さそうだ。

 クールタイムが微妙に伸びたとかそういった些細な調整が主になっている。

 自分のスキルを確認し終えた後は自分が所持しているスキル以外━━自分以外のユニークジョブ持ちのスキル名からどんなユニークジョブが存在しているのか推察する時間にあてる。


 俺の予想ではまず間違いなく『勇者』や『聖女』のようないかにも魔王討伐しますよって感じのジョブがある筈で、実際それっぽいスキルがいくつか見て取れる。


 『氷菓子作成』や『渓流釣り』などの生産職用と思われるスキルもある。生産のユニークジョブに就いてる人とか友達や知り合い多そうなイメージだ、自分にしか作れない生産品で大儲けとかしているのだろうか?


 他にも興味深いスキルが多くあり、全てじっくり見ていたいがそろそろ本サービス開始の時間だ。

 後ろ髪を引かれる思いではあるがゲームが落ち着いた後でもアップデート記事は見る事が出来る。

 βテスト開始の時と同じ様に秒単位で今か今かと待ちわびた末に三週間ぶりに俺は『マーズ・オンライン』の世界へ帰還した。


◇◇◇◇◇◇


 ログインして一番最初に目に入ったのは恐ろしい人口密度になっている央都の姿だった。

 今俺がいるのは央都の中心部にある城の見張り台の上だ、そういえばここから終わり行く世界を見ながらログアウトしたのであった。


 城下を見下ろすと周囲に視線を走らせクエストNPCに向かって駆けて行く人や知り合いと待ち合わせているのだろうか?中央広場の噴水近くで腕を組んでる人々もいる。

 そしてそんな大量に現れた新人に向かって大声で自分の店の商品を紹介している商人達はβテスト終盤からこの機を待っていた熟練プレイヤーたちだ。新人に商店の名前を売り込むのに彼らは必死なようだ。


 みんな目を輝かせてプレイをしていてどこか眩しい感覚になる。

 俺も初めてログインした時はあんな目をしていたんだ、目に付いたクエストを全部消化して次の街へも意気揚々と冒険しに行くんだろう。


 そんな後輩達をいつまでも眺めていたい感覚に陥りそうになったが俺にもやるべき事がある。

 今日する事は決まっている、まずは拠点へ戻らなければいけない。


 この街へ来た時と同じく馬車で北への道を行く、まだ馬車内に新人は無くNPCのおじいさんと女の子が旅の友だ。女の子を眺めているとニカッとした笑顔の後に小さくこちらに手を振っている。

 こちらも手を振り返すとキャッキャッと騒ぎながらおじいさんに抱きついた。


 馬車から見える風景が徐々に変化し遠くに絶壁のような山々が見えてくる。

 βテスト最終日には雪が降っていたが今はさっぱり雪は止み、切り立った山々に抱かれた街並みが姿を見せる。

 三週間ぶりに見る街並みは何処も変わらず、相変わらず建物や屋台が所狭しと並び狭い通路には人が溢れている。全てあの時のままだ。


 馬車を降り歩き慣れた道を行く、メインストリートから脇へ逸れ薄暗い道に入る。

 先程の道とは打って変わりとても静かだ、壁と壁の間をすり抜けるように歩いていき子供達がチョークで道や壁にイタズラ書きをしている脇を抜ける。そのまましばらく歩けば俺の住んでいた元市長邸が見えてくる。

 相変わらず中の下という言葉がお似合いな何とも言えない屋敷だ。

 最初はこの広さの屋敷をどうしたものかと思い悩んだが結局一室だけ活用し他は捨て置く事に決めた。

 庭にある薬草はきちんと手入れがされている、奴はサボらず世話をしていたようだな。


 俺はあんな経緯で奴隷としたリンカに若干罪悪感を感じていた。そしていい機会でもあったので本サービス開始と共に態度を改めきちんと共にこの世界で一緒に生き抜くパートナーとして対等な立場でやっていこうと決めていたのだ。

 見慣れた扉が見える、恐らく彼女はこの中だろう。少し緊張しつつも扉に手をかける。


「ただいま、久しぶりだなリンカ━━━━」


 意を決して開けた扉の向こうには見慣れた室内とベッドでだらしなく眠る女がいた。

 例えるなら飼い慣らされ野生を失ったパピヨンがお腹を見せながら寝転がってるようであった。


「━━ハッ」


 すぐに目を覚まし取り繕おうとしているが時既に遅し、相変わらず残念な相棒に苦笑しながらも俺は彼女に今日の予定を伝える準備を始めた。

投稿が遅くなり申し訳ありませんでした!

これから徐々に遅れを取り戻せるよう頑張ります!

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