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北方の魔王  作者: 冬空さんぽ
閑話
15/20

第十四話 魔王様は世界を滅ぼし終わったので休日に予定を立てるようです

閑話です、次回から本格的な本サービス編が始まります。

「ふざけんな!アレはどういうことなんだ?」


 某巨大掲示板やSNSは荒れていた、先日βテストの終了した『マーズ・オンライン』内におけるある事件のせいだ。


 βテスト最終日、王都で『βテストお疲れ様会』なる催しを開いて二週間にも及んだβテストで見聞きした内容について楽しく語り合っていた彼らは突然のクエスト更新通知の後一人残らず皆殺しにされたのだ。


 その夜ログインしていた大半のメンバーが殺されたこの事件は行われた経緯を全く知らないプレイヤーによる推測や陰謀論が日夜繰り広げられ終わりの無い議論は正式サービス開始まで続けられた。


「普通のプレイヤーからすれば理不尽極まりない事件だっただろうな」


 アンブラは荒れに荒れきって住民同士で不毛な罵りあいに発展した掲示板を冷めた目で見つつ感想を漏らす。


 だがあれは仕方がないことだった、央都を制圧する条件の一つとして央都内のプレイヤーを皆殺しにする必要があったしβテスト最終日以外の日にあの騒乱を起こした場合各地に散ったプレイヤーが続々と央都に援軍として参戦し無駄な持久戦を強いられる可能性が生まれてしまう。


 それなら都合よく集まっているプレイヤー達が状況を把握する前に奇襲し蹂躙したほうが手っ取り早かったのだ。


 そしてプレイヤーを始末し場内の衛兵を倒せば王と王妃のみ、央都制圧のクエストはあくまでプレイヤーが主体となって防衛するクエストなのでクエストフラグである魔王の象徴。

 俺の場合は『濃紫の剣』を抜いた時点であのクエストはほぼ終わっていたのだ。

 予想外の殺気と2人の装備に一瞬焦ったのは内緒だが。


 俺としてはむしろ『濃紫の剣』に宿る精霊が言う事を聞くかが一番の懸念材料だった。

 あの精霊のお転婆ぶりは俺の手に余り初めて呼び出した時は「私の言う通り動いていればいい」と思いっきり殺意を向けながらこちらに恭順を求めてきたぐらいだ。


 文字通りこの世界における『魔剣』という奴なのだろう。

 もちろんそんな問題児を放って置く事など出来ないので即封印させて貰った。

 役割も済んだのでもう抜く事は無いだろう・・・・・・多分。


 冷房の聞いた部屋で左手にタブレット右手にジュースと休日における最強の贅沢空間でゆったりと過ごすアンブラは終わりの無い討論を続ける掲示板から目を背け『マーズ・オンライン』の攻略サイトを見ながら楽しい旅の計画を立て始める。


「うーん、やはり人界を一通り見て回った後に結界外に繰り出すかいきなり結界外に繰り出すか迷うな・・・・・・あと飛空庭園っていうのを作ってみたいな」


 飛空庭園とは今『マーズ・オンライン』について真面目に語っている人達の間で一番ホットな話題だ。

 なんでも空を自由に駆ける飛空邸にプレイヤーハウスとしての機能も兼ね備えた一品らしい。

 作るにはかなりの材料が必要でβテスト最終盤に興味のあるプレイヤーがこぞって素材集めをしたがβ終了前に作り上げる事が出来たプレイヤーはたった2人だったらしい。


 そのニ人の内一人はその飛空庭園を雑談の場として提供し多くのプレイヤーの憩いの場になっているんだとか。もう一人は商店を開いて空飛ぶ大商店と呼ばれるものを開いているらしい。


「もう北に縛られてるわけじゃないから移動できる飛空庭園は拠点として最高だな」


 これからは北以外にも活動の手を広げる為北に拠点を構えるのは非効率的である。

 だからと言ってあのような事件を起こした以上央都に拠点を築くのは気が引けた。


 その点飛空庭園はアンブラの求める条件を満たしている。

 必要素材から目を背けつつ素晴らしい空の旅を妄想する。

 雲を掻き分け風を一身に受けつつ飛空挺は何処までも飛んでいく。

 蒼穹の果てまで遮る物のない空を自由に飛ぶのだ。きっと最高に気持ちいいだろう。


 ジュースを飲み干したアンブラはグラスを食器洗い乾燥機に入れ洗浄のボタンを押しベッドに横になった。明日の昼には本サービスが始まるのだ、少し早く床に就こう。


 冷房の効いた室内はとても快適で明日への待ちきれない気持ちを鎮め、アンブラはすぐに夢の世界へ堕ちていった。

 


 

 

読んで頂きありがとうございます。

宜しければ引き続き『魔境だからね』をよろしくお願いします。

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