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北方の魔王  作者: 冬空さんぽ
第一章 βテスト
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第十三話 βテストと世界の終わり

 央都に巨人の足音が鳴り響く。

 悲鳴はもう聞こえない、人もペットも動く者は殺された。

 無造作に破壊された住宅や商店を月明かりと星々だけが照らす。

 先程までの活気が嘘の様な静けさが不気味に広がる。


 俺は巨大な旗を持つ眷族を両脇に率いて央都の中心へ向かう。

 この巨大な旗は占領旗と言って魔王が侵略した領土を示す為の旗だ。

 俺の場合その御旗の周囲と以北は占領済みとなり俺の魔王としての力に制限が無くなる。

 

 央都の中心には人間界を守護する防壁を形成する為の神器とこの世界を支配する王がいるはずだ。

 眷属に露払いをさせ何の支障も無く城内へ。

 ここからが本番なのだ、少なくない時間をかけ準備してきた手間暇が水泡に帰すかどうか。

 βテスト終了まで二十分を切る。残された時間はあと僅か。


 城と言うとRPGでは壮大で贅を尽くした物を想像しがちだがこのゲームの中心にそびえる城はそれほど大きな物ではない、城と要塞を兼ねた作りだ。

 元々は魔物との長く厳しい戦いの末に逃げ延び、神器の奇跡で短い安寧を得る為だけの仮の拠点として築かれた経緯があるためだ。いつか世界を取り戻し本当の城を築く為に。 

 

 最後まで決死の抵抗をしたのか騎士達の死骸と眷属の亡骸が散見される。

 フルプレートの重層鎧は鈍器に何度も叩かれたのかぼこぼこに凹み盾は打ち捨てられ槍は折れているものがほとんどだ。その全てがここで行われた死闘を物語っている。


 周囲の空気が一変し、感じた事が無い程の殺意が辺りを包み込む。

 城内の如何なる扉よりも神々しい白亜の扉、二人の女神が向かい合うような飾り細工。

 その扉の神聖な印象とは真逆の鮮烈な殺意が扉の向こうから向けられている。

 

 もしこれがダンジョンのボス部屋だったとしたら俺は入るのに躊躇しただろう。

 だが今の俺を焦がす怒りと決意がカンフル剤となり葛藤は消える。

 取り戻すのだ、自由を。手に入れるのだ、この世界を旅する権利を。

 感情に身を任せ大扉を勢い良く蹴破る。

 

 玉座の間にはこの国の主たる王サイナスと王妃にして聖女と謳われたメリディアが来るべき時を待っていた。王の手にはまるで輝く星河をその柄に詰めたかのような豪奢な装飾剣。

 聖女の手にはシンプルながら異様な存在感を放つ儀式用短剣が握られる。

 

 俺はアイテムイベントリから濃紫の剣を静かに取り出しその剣に封印していた精霊を解き放つ。

 剣が鈍く光りその姿を徐々に象っていく。

 剣身と同じ濃紫の髪は肩にかかる程度の長さに切り分けられ、赤銅色の瞳が一瞬俺へ殺意を向けかけたが目の前にいる敵を認識しその怒りの矛先を変える。

 

 「出会って二言三言話しただけで封印されたかと思えば今度は人族の王の前で突然の召還。自分勝手にも程がありますが過去の諍いは水に流しましょう・・・・・・やるのですね?今ここで!」

 「頼む」


 剣精は残虐な笑みを浮かべると幻の様に消え剣へと宿る。剣身からは殺意が溢れ敵はもちろん俺や眷属すら脅かし旗持ちの眷属は足をがたがたと震わせる。

 剣を片手に玉座の間を駆ける、王が立ち上がり剣を斬り結ぼうと振るってきたが俺は王の剣を見切り左手で掴むとそのまま握り潰した。瞠目する王の首は下から跳ね上がった濃紫の剣によって綺麗に狩り取られた。


 聖女は震えていた、王が殺されるというありえない光景を直視出来なかった。

 その身に与えられた万能の力、それ故に聖女として崇められてきたがそのどれを持ってしても目の前の魔王には勝てないと分かってしまったのだ。

 力がある故に試す前に敗北を知り聖女と呼ばれた女はうな垂れただただ神に祈る。

 

 聖女は何の抵抗もせず地面に伏して神の名を呼んだ。

 人間を見限り捨てた神が今更助けに来ると思っているのか?いや、違うだろう。

 もはや偉大なる神の助けなくしてこの窮地を乗り越える術が無いと悟ったのだ。

 他に縋るべき物が無く都合のいい存在に泣きつこうとしているのだ。


 NPCとは言えどこまでもリアルなVRMMOという世界で無抵抗の人間を斬る事には激しい抵抗があった。

 だが俺とて最早退路は無いのだ、意を決し背中を剣で貫き止めを刺す。

 

 戦いが終わり俺はいつも通り慣れた身のこなしで玉座へ座す。

 魔王が玉座へ座す事によって征服の処理が行われセントラルタウン・・・・・・いや、この世界全ての制圧が成されようやく北の地に囚われる生活とおさらば出来るのだ。

 これでようやく自由になれる、今まではまるで子と妻に時間と金を搾取され自由な時間も金も持てない40代男性のような生活だった・・・・・・例え話であってアンブラはそのような歳ではないが。

 本サービスが始まったら何をしようか?今までの引きこもり生活とは打って変わって拠点を作らず旅でもしよう。イシディス平原やソリス湖を観光してノクティス迷路で謎に挑む。

 これからきっと輝かしいVRMMOライフが待っているに違いないと確信しスカルヘルムの奥で口角を上げ微笑んでしまう。希望が身体を巡り今までの鬱憤や怒りはこの瞬間幸福を彩る為のスパイスへと成り代わった。


 「人界の支配が完了しました。支配領域管理を行う際はホームに一度帰還し十五分程時間を置いた後更新をお願いします」

 

 いつものアナウンスが終わりクエストがいくつか更新されたが目を向けることも無く俺は玉座の間を後にした。


 訪れたのは城の見張り台。

 気持ちのよい夜風が興奮に火照った肌に心地いい。

 俺はやってやった、このゲームのβテスト参加者全員を出し抜き運営の想定を超えてβテスト中にこの世界を征服したのだ!ここから見える景色は全て俺の領土だ、もう俺を縛るものは何も無いのだ!


 あと十分も経たずに閉鎖されゆく世界、俺によって支配された世界を俺は一人眺め感慨に浸り静かにその達成感を噛み締めたのだった。


  

 

 

 

 

 第一章βテスト編終了です。

 ここまで読んで頂きありがとうございます。


 

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