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北方の魔王  作者: 冬空さんぽ
第一章 βテスト
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第十一話 魔王様は不器用なので変態奴隷を使いこなすようです

 『マーズ・オンライン』

 それは暗黒神に閉ざされた世界を救う為の物語。

 剣や魔法を極め、強大な魔物達を打ち倒し世界を救う。

 まさに王道を往くMMORPGなのだ!


 数多のユニークスキルやユニーク武器、ユニークジョブや魔法の数々。

 それらを使いこなして暗黒神を打ち倒し世界を救う物語。

 日夜プレイヤーはありとあらゆる未開の地に踏み込み冒険をし力をつけている。


 そんな世界の北方にゲリュオンという街がある。

 山間にそびえ所狭しと住宅と塔が立ち並び、行き交う人で溢れ活気に満ちている。

 そんな活気のある街のとある住宅。著名な貴族の家ほど大きくは無く平民が暮らすほど小さくも無く。

 庭には緑が溢れ趣味程度に作られたであろう花壇には色とりどりの薬草が生える。

 こじんまりとした畑もあるが家の主はあんまり農業には関心が無いらしく少し荒れている。


 屋敷は煉瓦と石材の壁に包まれた中世ヨーロッパを想起させる作りだ。

 小さいながらも歴史を感じさせる佇まいはさすが元市長邸だ、殺してでも奪い取った甲斐があるという物である。その元市長邸の中は随分と物が少なく閑散としている。

 もはや人を招ける状態ではないだろう、家財は何処かへ運ばれたのか売られたのか。

 この屋敷で機能しているのは一室のみだった、何故広い屋敷を奪ったにも拘らず狭い部屋に篭ってしまうのか。

 多分普段から犬小屋みたいな小さな部屋で暮らしているからだろう。広すぎる屋敷は彼の手に余ったのだ。


「ほう・・・美しいな」


 ビクッとその背中が震える、パールホワイトに磨き上げられた肌に紅が刺しじっとり汗ばんでいる。


「見られて感じてるのか?とんだ変態だな・・・こんな女が女王だったなんて国民に対して恥ずかしくないのか?」


 彼女は恥じた、短気を起こし見ず知らずの男に隷属を許し毎日辱めを受けているのだ。

 したくもない作業を延々とやらされ男を喜ばせなければいけない。

 最初はそう・・・嫌だったのだ、なのに最近はおかしい。あんなに嫌だった事が楽しくて仕方ない。

 私は変わってしまったのだろうか・・・もうあの頃の私には戻れないのだろうか・・・。


「ふん、見てみろ。このたくましさ・・・素晴らしいと思わないか?お前もこれを扱ってて興奮したのだろう?」


 そうだ・・・何度も何度も扱ってるうちに夢中になっていた。

 あのたくましいものを扱ってると気持ちが高ぶり興奮してしまうのだ。

 もう私は戻れないのだ、どうしようもない異常性癖の変態元精霊女王なのだ・・・。


「やはり無骨な斧はいい・・・お前を鍛冶漬けにした甲斐があるというものだ」


「はい・・・この鈍い輝きを宿した刃に逞しい柄・・・最近は斧頭の良さも分かってきました・・・ふふふ」


「お前の変態さに磨きが掛かった事以外は万事計画通りだったんだがな・・・邂逅した当初から感付いていたとはいえリンカの果てしない変態っぷりは一周回って気持ち悪い・・・」


「はあああ・・・ふふふ・・・でも知ってるんですよ?ご主人様も私を罵ってる時興奮していらっしゃるでしょう?私達はお似合いだったんですよ!!」


 く・・・そんな馬鹿な・・・。決してそんなことは・・・。

 俺は決してリンカの事を意識して無いし依存して無い。一方的にそういう目で見られているだけだ。

 軽く呼吸を整え本題に入る。


「それで?何本か見せてもらったが俺が頼んだ斧とは違うな?俺が依頼した品はどうした」


「ふふふ・・・いや、あまりにもいい出来なので渡したくなくて・・・ふふふ」


「試し切りにお前の首を狩ってやろうか・・・さっさと出せ」


 リンカは渋々と言った様子で製薬道具が並ぶ棚と錬金道具が並ぶ棚の間の隙間から袋を取り出す。

 小学生が拾ったエロ本を隠すような杜撰過ぎる手際である。隠す気は最初から無かったのだろう。

 本当に嫌そうな手放したくなさそう顔をしているが叱ってはいけない、喜ばせるだけだ。

 

 やや緊張した手付きで袋を開ける、この斧を作る為だけにどれだけの苦労があったか。

 いくらこの世界が狭いとはいえ世界中から希少な素材を掻き集め惜しげもなく使用されたおそらくプレイヤーメイドの中では最高傑作と呼べる。


 その両刃は漆黒に染まっているのに何故か不思議な青い燐光を纏い一目見ただけで常軌を逸した存在感と切れ味が感じられこれから幾千幾万の敵を屠ろうとその輝きを失う事は無いだろう。


 その柄はソリス湖の近くに生えていた最高級の樫をあらゆる魔法で加工した至極の一品、幾重にも及ぶ加工が施されているにも関わらずその肌触りの良さは変わらずしっかりした握り心地は持つ者に安心感を与えてくれる。


 別に俺は斧の評論家でもプロでもない。

 ゲームで使う斧が好きなだけでリアルの斧の知識は少し興味を持って調べた程度だ。


 だがこれは・・・この斧は正しく神器と呼べるレベルの素晴らしい両手斧だ。

 俺一人では決して成し得なかった偉業を称えようと思ったがベッドの上でもぞもぞと妙齢の女性がしてはいけない動きをしてたのでそっとして置いた、多分斧の素晴らしさに興奮してしまったのだろう。


 俺はリアクション待ちのめんどくさい奴隷を放置して部屋を出た、試し切りをしに行くのだ。

 振るわなくても素晴らしい斧だと分かるが振るうことによって更なる良さが分かるかもしれないからだ。

 

 存分に振るい感触を確かめ、ログアウト後に熟考に熟考を重ねこの斧には『ダークスティール』と名付けた。その不思議な燐光を纏う刃から好きなカードゲームの魔法の金属の名を連想しそのまま名前を貰った。




 

 

読んで頂きありがとうございます。

いよいよβテスト編も佳境に近付いて参りました。

気合入れていきます!

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