第十話 魔王様はクエストが面倒なのでズルをするようです
あらすじを最新の設定等も含めて加筆させて頂きました。
今回はいつもと違い少しだけ長めに書いてみました!
北で現状最難関と思われるこのカルデラダンジョンも遂に最深部。
未だwikiには四分の一程度しか攻略情報が載ってないこのダンジョンをこの俺が世界最速でクリアする。
もちろんwikiが様々なゲームで作られ編集してる人がいる以上今の俺の様に誰よりも早く未知の世界を攻略する人というのはそのタイトルの数以上にいるはずだがその機会は稀で信じられないぐらい少ない。
その一握りに、その舞台に今この瞬間だけは立てていることに感慨を覚える。
「扉の向こうのボスを倒したらこの長いダンジョンも終わりか、気合入れて行くぞ!」
数多のパーティーメンバーでも引き連れていればある程度様になるセリフだが完全にソロ、ぼっちの俺がダンジョンの最深部でこんな事を叫んでもただの痛い奴だ。だがいいのだ自分に喝を入れる為に口に出しただけだから!
慎重に扉に手を触れる、先程までの浮かれた気分はもうない。
完全にボス戦の為に気分を切り替え後は臨むだけというところで。
【扉は堅く閉ざされている】
「え?」
慌てて何度も扉に触れ直し強引に扉を開けてみようと前に引こうとしたりまさかのスライド式まで想定したが当然開くことは無かった。
「これは不味い、不味すぎる。北で受けれるクエストは目に付くものほぼ全て終えている・・・・・・つまりここを開く条件は・・・・・・」
ダンジョンの最深ボス階層は時にクエストなどでフラグを回収した後進入出来るパターンがあり、俺の経験した中だとゴブリンキング等がいい例だ。
砦で特定のNPCからクエストを受注し討伐メンバーを揃えた後再度話しかけ討伐に向かうという、まあありがちな流れ。このダンジョンも同系統だと思われる。
それをまさか長大なこのダンジョン最深部にまで仕掛けてくるとは思わなかった。
いや、この際クエストを受注した後再度進入する事に問題は無いのだ、多くは無いが前例もある。
最大の課題はその受注するクエストがここ『ゲリュオン地方』いやより厳密に言えば『マップ北部』に無い事が問題なのだ。
唐突だが王とはどのような存在だろうか?
圧倒的な強者?為政者?間違ってはいないだろう。現代人が連想する王とはそういう物だと思う。
このゲームにおける王も圧倒的強者だ、魔王というジョブについてる俺も当然強者。
INTに録に振っていないにも関わらず魔法を多用出来るしVITに少し振っただけで尽きぬHPと防御力を兼ね備えている。数多のスキルを自由自在に使いこなす事も可能だ(ただし鍛冶は除く)
だがしかしMMOという数多のプレイヤー=主人公が存在するこのゲームで無条件で圧倒的な力を手に入れるなんていうご都合主義は無く当然ながらこういうジョブには大き過ぎる制約と言うものが存在する。
その最たるものが『支配している地域以外ではステータスやスキルに莫大なペナルティを受ける』というものである。王が存在する以上その王が建国または支配している地域があって当然だろう、俺にとってはこの北方が支配地域である。俺がこの地方を支配したのには様々な成り行きががあるが今は割愛する。
そしてここからが本題なのだが著しいステータスの減少とスキル使用の制限があるものの北を離れる事自体は可能なのだがマップの探索はまだしも街への侵入が困難な為、今目の前にある扉を開けるためのキークエストを発注するNPCを探す事が実質不可能だ。
なんで街に入れないのかって?街に入った瞬間侵略クエストが更新されて街がインスタンスダンジョンに切り替わり衛兵や町につめている冒険者・・・もちろんNPCだが・・・と戦闘に突入し敵対NPCを全員倒した後町長を殺害し変わりに町長に化けた魔物にその町長の代わりを勤めさせ街を完全に支配させないといけないからだ。
しかも今話したのは自分が支配可能なフラグの立っている地域での話で既に支配者がいるマップだとその支配者を倒すクエストが発生する。
既に魔王が支配しているならその魔王を倒さないといけないし魔王が支配していないならこの世界の中心であるセントラルタウンの王や聖女等と敵対関係になり打ち倒さなければいけないので非現実的過ぎる上にダンジョン一つクリアするだけにそれだけの事を成すのは割に合わない。
この強過ぎる制約があるため俺は北の地にずっと縛られているのだ。
当然どこに居るかも分からないNPCを探す為に世界中を旅なんて出来ない。
どうしたものか・・・と考える。
ボス前の扉というのは破壊不能で基本的にシステム的に弾かれた場合あらゆる干渉が出来ない。
ダンジョン内にある扉等は魔法で破壊する事も蹴破る事も可能だ、当然例外もあるけど。
どうにかしてこの扉の先に行ければ・・・別のルートや扉・・・扉・・・?
そこである一つの妙案が思い浮かび自らのスキルツリーを表示する。
魔王のスキルツリーはうんざりするほど膨大なスキルが銀河の星々の様に連なる構造だ、その範囲は武器マスタリーから生産スキルまで幅広く揃っている。他のジョブのスキルツリーも攻略サイトなどで見た事があるが少なくても公開されている基本職は8つ程度の簡素な一般的形状をしている。
俺はその銀河を手探りで探し回る、かつてスキル振りを考えた時に一瞬目に映ったあの星を探す為に。
数分間の格闘の末なんとかその星を見つけ出し余剰スキルポイントとして余っていたポイントを前提スキル等に泣く泣く振り分け『取得』。
「これでやっぱり無理でしたとか勘弁してくれよな・・・」
俺は魔王だけど神に祈りながらそのスキルを発動する。
築城スキル『クリエイト・ドア』俺の右手が薄紫の光に包まれ難攻不落のボス扉のあったところに荘厳な扉が召還される。
そして意を決して扉を開けると・・・ぶわっと甘過ぎる花の鮮烈な匂いが周囲に広がる。
極彩色の花々が所狭しと広がり道中のダンジョンとは別世界な空間。
最奥には鮮やかな黄色い花で彩られた玉座が据えられその玉座にはこのダンジョンの主が座していた。
黄金の長い髪には美しい青の髪飾り、瞳は明るい翡翠色をしておりその輝きは星々ですら競り負ける美しさ。細い腕には木目細かい手入れがされているのか真珠の様に白く輝いている。
遠目から見てもその薄緑色のドレスに包まれた身体は異性を圧倒する魅力に満ちていて、一見何処かの国の王女にも見えるが背から伸びる幻想的な羽が彼女を人間ではないのだと証明している。
かなり分の悪い賭けだったがどうやら無事ボス部屋に到達出来そうだ。
何故この『クリエイト・ドア』でボス前扉を上書き出来たかというとそもそもこの築城スキルというスキルの説明からしないといけない。
築城スキルは魔王がどこにでも自分の城を築けるように作られたものでそれが例えダンジョン内だろうとダンジョンの上にだろうと問答無用で築けるというとんでもスキルなのだ。
というより運営的にはむしろダンジョンの上または中に築く事を推奨していてスキル説明のムービーにはダンジョンを半分以上取り込む形で築かれた城などを見ることが出来る。
これは多分運営的には古くからRPGに存在するダンジョンと魔王城が繋がった構造を再現出来るようにこの様な仕様にしたのだろう。魔王城自体ももちろんダンジョン化させる事が可能だ、凄い住み辛そうだけど!
それでもシステム的にかなり厳格に守られているであろうボス扉を扉召還で上書き出来るかは賭けだったがダンジョンすら上書き出来るという仕様はここにも無事適用されたみたいだ。どんだけダンジョン内に築城させたかったんだか・・・。
アンブラは製作者の自由っぷりに感謝と呆れを感じつつも本命である彼女との戦いに意識を切り替え背負った斧を斧ホルダーから外し右手に握り締める。
思わぬアクシデントで進路を防がれ時間が掛かったがここからが本番なのだ。
◇◇◇◇◇
左手を掲げ呪文を詠唱する。
普段はこの手の呪文をサボりがちだが今回は相手が相手、出来うる限りの供えをして臨む。
攻撃・防御・魔力・素早さをバフ━━能力上昇効果のある呪文の事━━を唱え強化。
斧に炎属性を付与する、もし効きが悪かったら再度の属性変更を行える様にアイテムショートカットに簡易属性変更アイテムをいくつかセット、とりあえず闇等から試していこうかな。
『王軍召還』は今回呪術師三名弓兵二名ヒーラー二名を召還、首無しの眷属が背後で静かに待機する。
俺が前衛に立つ為に後衛寄りの編成にしてみた、ヒーラー二枚は初だが敵の強大さを考えれば順当だと思われる。
室内に入る前に部屋中をくまなく目視で確認しダンジョンギミックが無いか調べ、貴重過ぎて今まで使った事が無かった魔力探査スクロールで室内に魔法によるトラップがないか探査させたが反応は無い。
「一層から五層はボス部屋にギミックがあったけど六層以降は無しか、真っ向勝負か」
今もなお玉座に座る美女はどう考えても戦いとは無縁の存在に見える。
だがボスの強さは見た目では測りきれない事が多い、部屋に入る前に出来る事は全てやり終えたことを確認しいざ室内へ。
濃密な花の匂いに包まれた室内を黙々と進む。
女王はいまだ玉座の上、立ち上がろうとする気配が無い。
「私を連れ戻しに来たのですか?人の子よ。これは我々夫婦の問題、そなたらには関係のない事柄よ」
「?!」
玉座の間の中央を越えた辺りで唐突に声が掛かり呆然とする。
今までボスモンスターが話しかけて来た事など無かったのだ。
連れ戻す・・・どうやらこの部屋に入る条件のクエストと関係があるようだがその内容を知りえない俺には返答のしようが無かった。この女性を連れ戻すといった内容なのだろうか?
何も答えず進むと突然見えない壁のような物に阻まれ部屋の奥に進めなくなってしまった。
どうやら返答するのは義務のようだ、事情は知らないが適当に合わせるしかないだろう。
「どのような事情で城を抜け出したのですか?私は詳しい事情も告げられずにあなたを連れ戻すように頼まれたのです」
「白々しい、全てカールから聞いているのでしょう?彼は不貞を働いたのです。絶対に帰りません」
どうやらこれだけ美しい女性と愛し合いながら旦那は浮気をしたようだ、羨まけしからん。
俺もこんな美しい女性と付き合ってみたいなあ・・・。
MMOのクエストでは稀によくある展開で、こういった内容を冗長に書いたりするので俺は大抵クエストの内容を読み飛ばす傾向がある。そのせいで重要な内容まで読み飛ばしwikiを見に行くまでがテンプレだ。
「力づくでも連れ帰らせていただきます」
「そう、手段は選ばないという事ね。それなら私にも考えがあるわ」
そう告げると彼女の前方に巨大な魔法陣が現れ辺りに濃密な魔力が溢れる。
それは巨人だ、美しい花々と刺々しい茨で形作られた4Mほどもありそうな巨人。
その手には一本の巨大な棘から削り出したかのような新緑の槍と蒼く大きな花の盾が握られている。
「距離を取り散開しつつ巨人の足を穿て、ヒーラーは随時回復を」
手短に眷属に指示を出し前に出る、あの女と巨人のどちらかを倒さないといけないのか両方倒さなければいけないのか判断に困ったが先に女を切りつけてみるのが早いだろう、討伐対象である可能性は低いがもし攻撃不可ならシステム的に弾かれるはずだから先に試す。
「・・・!!イーリア!私を守って!!」
女が叫び進路を塞ごうとするがイーリアと呼ばれた巨人の足は眷属の炎魔法により焼け落ち再生中だ、手を伸ばしても届くはずがない。必死に槍と盾を投擲してきたが無駄な足掻きだ、見る事もかわす事も無く見切り掴み投げ捨てる。
「さて・・・どうかな?」
炎の軌跡を描きながら無骨な斧を思いっきり振り当てるが見えない障壁に弾かれる。
半ば予想通りだったがこの女は敵対扱いではないらしい、名前もHPも表示されてないので実は分かっていたのだが何事においても確認というのは重要だ。
やはり倒すべきはあの巨人だ、だがこの巨人はさほど強いように思えないし今回は楽勝そうだ。
眷属達に足を焼き払われのた打ち回りながら手を振るうが俺の命令を遵守し距離を取った彼らには当たる気配がしない。
あるのは強い違和感、これほどの深層にも関わらずボスが弱い事の気持ち悪さだ。
不安を覚えたが眷属達に任せたままでは格好が付かないし何より暴れ足りないので巨人に大して駆け寄りその首を狙って振り下ろす。一閃が瞬き鋭い音と共に斧と鎌専用のパッシブスキル『首狩り』判定によりその太い首が一瞬にして断たれる。
「イーリア・・・イーリアアアア!!!」
突然女が玉座を立ち巨人に駆け寄る、自分でけしかけておいてやられたら心配しちゃうのかよ・・・と俺は内心思っちゃったのは内緒だ。
あんな化物の何を心配したんだと思えばその茨と花の鎧に守られるように白く美しい小竜が姿を現す。
どうやらこの小竜が化けていたというオチらしい。
「どうかこれ以上は・・・私に出来る事なら何でも・・・何でもしますから!!」
「ん?」
このゲームはR-15指定だ、大きなお友達なら色々想像しちゃいそうなセリフが美女から紡がれる。
そう、それは一種の好奇心だった。その『なんでも』にどこまで自由度があるのか気になったのだ。
あと浮気するような男の下に返す気がしないし返しに行く方法がなかった為と言うのもあるが。
「そうか・・・『なんでも』するのか・・・」
「うっ・・・はいっ・・・」
「ならば俺の下僕となれ、服従するのだ」
「はい・・・それではこれを・・・」
彼女はその左手に輝く指輪を魔法により割ってしまった、恐らく婚約指輪だろう。
そして天に手をかざすと黒い魔法陣が展開され空中から真っ赤なスクロールを召還する。
スクロールに文字を綴っている、これから下僕として使うと宣言されたのだ当然その表情には苦渋が浮かぶと思っていたが。
その口角は何故か少し上がっており目元は少し笑っている。俺には全く理解出来ず気持ち悪かった。
(もしかしてここまでが運営の罠だったのか・・・?)
変な勘繰りを起こし掛けるが止めておく、今はどう考えても俺が優位な立場だ。
もしこれが罠で奇襲や何らかのトラップが待ち受けていようとも全力で回避してみせる。
眷属達は俺と女と小竜を遠巻きに囲む様に展開している。左のヒーラーが首が無いくせにあくびをするモーションをしながらぼけーっとしている。やっぱりこいつらに感情があるように見えるのは気のせいじゃないような・・・。
「出来ました、これが誓約書になります」
割れた指輪と誓約書を受け取る。
するとクエスト更新を音が知らせ俺の知らないクエストが更新される。
クエスト名【精霊女王は月下を駆ける】
詳細:カール王配の不貞により実家に帰ったリンカ女王を男性のみのパーティーで連れ帰り妖精国の安定を取り戻して欲しい
クリア条件:女王リンカの帰還
EXクリア条件:女王リンカを娶る又は隷属させる◎
クリア報酬:EXP+5000000 スキルポイント+10 精霊の笛
「娶れちゃうのかよ!」
つい叫んでしまった、それにしても結婚も隷属もOKとはとんだ性癖の持ち主ですね・・・。
ボスは見た目では測れない、実力はもちろん性癖も。
スクロールに改めて目を通す、すると夫との神への宣誓を全て破棄し俺に隷従する旨が書かれていた。
(もしかして単純に夫との関係を断つ動機が欲しかったのか・・・だから笑ってたのか?)
「ええと・・・リンカ?本当にこんな誓約を立ててもいいのか?お前女王なんだろ?」
「ふふふ・・・気にしなくていいんですよ?もうあんな国へは帰るつもり無いですから。アンブラ様のお好きな様にこき使って構わないのですよ?」
美女は白竜を抱えながら薄く微笑む。
俺から提案しておいて何だが手許に置くのが不安になってきた・・・。
何はともあれこれでダンジョン踏破終了である、七階層の探索の為に再度訪れなくてはならないが・・・。
召還していた眷属を闇へ返しリンカを伴い玉座へ座る。
「・・・?何をされているのですか?」
「ちょっとした野暮用だよ」
リンカが不思議そうにこちらを見つめるがやがて手持ち無沙汰になったのか周囲の草花と雑談を始める、さすがは精霊といったところなのかな?
玉座に座ってからたっぷり二分待たされた後再びクエスト更新音が鳴り響く。
今度の更新は予期していたものだ、相変わらず遅い。
クエスト名【支配領土拡大:北方】
詳細:北方の魔王として街・街道・森・ダンジョンの何れか10箇所支配する
クリア条件:支配領域拡大 6/10
EXクリア条件:他地域の支配者の打倒
クリア報酬:支配可能領域上限解放
「カルデラダンジョンの支配を完了しました。ダンジョン情報管理を行う際はホームに一度帰還し15分程時間を置いた後更新をお願いします。」
いつものアナウンスが流れダンジョンの支配が完了した事を知らせる。
後は家に帰ってベッドでごろごろしながら配信でも片目にだらだらやればいいだろう。
「・・・えーと、待たせたな。帰還するからこっちへ」
「ふふ・・・分かりました。それじゃあね」
草花に別れを告げ此方に駆けて来る。リンカの頭の上では先程まで傷だらけだったイーリアがさすがの回復力で全快したのかだらしなく両手両足をぶら下げながら寝ている。
あとはいつもの手順、掲げた短剣から淡く青い光が溢れ風が生まれる。
玉座の間の草花がサラサラと揺れる、まるでリンカに別れでも告げるように。
移動は一瞬、瞬く間も無くいつもの薄暗い部屋に着く。
今日は何とか目標を達成出来た、予想外の報酬付きで。
そして俺はリンカにやるべき事を伝えベッドに寝転ぶ。
この後ボスドロップが全く無かった事に大分遅れて気付き頭を抱えるとも知らずに俺はいつものルーチンをこなしつつだらだらし始めるのだった。
読んで頂きありがとうございます。
日々PVとブクマが増えプレッシャーを感じています、少しでも良い物が書けるよう引き続き勉強しつつ頑張っていこうと思います。
本日遂にPV2500を突破しました。励みになります!




