ハウス
第三章 ハウス
目に涙を溜めたものの、今度は泣かなかった。
それから僕は町にある「ぶつ」を買いに出かけることにした。そこでパンダを一人で留守番させようとしたが、無理だと早々に見限って共に連れていくことにした。「遊び」の痕跡がばれないようにマスクをかけさせ、帽子を目深にかぶせた。
急いで戸締まりをして部屋を出て、パンダを抱っこして駆け足で階段を駆け降りた。自動車の後部座席に仰向けに寝かせた。チャイルドシートなんて洒落た代物は持ってないし持つつもりもない。
警察に見つからないための特別措置だ。
荒々しくキーを回してエンジンをかけると、車を急発進させた。
「どこに行くの?」
目を擦りながらパンダが起きた。
「黙れ。馬鹿!起きるな寝てろ。」
信号待ちやパトカーとすれ違う時は肝を冷やした。まるでヒッチコックのサスペンス映画だ。
こうして着いたところはホームセンターだった。
「10分で戻ってくる。」
声をかけたがパンダは眠っていた。
ダッシュボードの上で平仮名だらけの書き置きを書き、寝ているパンダの腹の上に乗せた。
"すぐもどってくるよ。あとでおかしあげる。おにいさんより"
ホームセンターのペット用品売り場で大型犬用のゲージと、水飲み器、リード、首輪を買い込むと急いで車の中に戻った。トランクに荷物を入れる衝動でパンダは目を覚ました。メモを見てパンダが運転席のところまで乗り出してきて。
「おかしは?」と言った。
「ほれ。」と不躾に言って差し出したのはドッグフードだった。
パンダはドッグフードと知らずにむさぼり食っていた。とても滑稽に見えた。
「家に着くまで寝てろよ。起きたら承知しない。」
また車を急発進させてアパートに急いでもどった。ドアを開けると、我先にと家に靴を脱ぎ散らかして入っていこうとした。
僕はパンダの髪の毛を掴んで頭をぐるりと90度回し、
「靴、手洗い。」とだけ言った。
するときちんと靴を揃えて上がり、手洗いをした。こいつは僕のことを最近何でも聞くようになった。僕の「恐怖政治」が功を奏したようだ。こいつは僕のペットなのだから。
狭い廊下をパンダはぴょんぴょん跳ねながら通り抜けていく。
僕はその後ろを両手に大荷物を提げながらついてゆく。
僕は早速梱包を開いた。そして大型犬用のゲージを見せながらパンダに言った。
「ほら、ここがお前の新しい部屋だ。ここで寝るんだぞ」と。