プレイ・ルーム
第二章 プレイルーム
泣き疲れて泣き止むのを待ってから、口から手を離した。
ぼろ雑巾で頬のインクを雑に顔がしわくちゃになるように拭き取ろうとしたが、落ちずに却って顔中はパンダの様相になった。
僕はあいつを指差して高らかに笑いながら
「お前、パンダみたいだな。今日からお前の名前はパンダだ。」
こうしてあいつのあだ名はパンダになった。
「いいか、おじさんの話をよく聞け。おじさんはお前に決して優しくしたりなんかしない。雨露しのげる屋根の下で寝かせてもらえて飯もらえるだけありがたいと思え。」
相変わらずポカンと口を開けて手に持った玩具を弄りながらもじもじして見上げて話を聞くパンダに、「聞いてるのか。」と怒って万年筆のペン先でパンダの額を突いた。すると、また目に涙を溜めて泣き出したので、やつの鼻をつまんだ。すると泣き声が鼻声になった。鼻をつまんだり離したりするたびに泣き声も鼻声になったり地声になったりした。僕はそれで笑いころげながらディスクジョッキーの如く何度も繰り返し遊んだ。悪魔の所業だ。やがてゲホゲホとむせ出した。
「お前さ、泣くか咳するかどちらかにしろ。」
冷たく呆れ果てて突き放した。
泣き止んだところで、さんざん平手打ちを食らわせて腫れさせたうえにインクまみれにして汚したあいつの顔を机の引きだしから取り出した一眼レフカメラで二枚写真に収めた。幼児が苦しんだ泣き顔を撮って僕は悦に入っていた。
「俺はお前が悪いことをしたり約束を破ったら容赦なく罰を与える。さっき殴ったのはお前が悪いことをしたからだ。いいな? 返事は?」
「うん。」
「うんじゃない、゛はい゛だ!」
「はイ!」
絶叫するぐらいにパンダは声を張り上げ調子外れに大きく返事した。