それだけが理由
気まぐれに、学園恋愛的なものを書いてみたくなって、書いてみました。
でも力尽きました。
続きを所望される方は、一言お願いします。
その時は、ちょっと頑張りますので。
学校に行けば、君に会える。
どんなにつらくても、君が退屈そうに空を眺めていたり、ノートを取っていたり、読書したりしている姿を見るだけで、ドキドキした。
無口なのも、良いと思った。君に会うためだけに、学校に行った。
それだけが、理由だった。
私が学校に行く理由は、それだけ。
7月。
高校二年生と言えば、一番気が緩みやすいと言われている。
一年生の時は、色んな事が初めてで緊張するし、三年生になったら受験やら就職活動やらで忙しくなってくる。進路のことで、みんな遊びどころじゃなくなる。
それならば、二年生の時に遊んで何が悪いものか。そう言って遊びまわる奴もいれば、すでに将来を見据えて、受験勉強に取り組む奴もいる。僕はどちらかと言えば前者だ。
ただ、他の奴らと僕とでは決定的に違う。僕はそれをちゃんと理解している。
彼らは、思い出が欲しいのだ。自分たちが、高校生の時、こんなに楽しかったんだという、そういう思い出が。だから仲間で集まって花火をしたり、祭りに行ったり、恋人作ってみたり、ちょっとはしゃぎ過ぎて警察に通報されたり。
彼らは遊んでいるけれど、一所懸命だ。精一杯だ。頑張っているのだ。周りの大人たちから見れば、それはとても愚かな様に見えることでも、彼らは精いっぱい『楽しい』のために、頑張っている。
そういう意味では、僕は彼らと違う。いや、僕自身は精一杯、目一杯楽しんでいるつもりなのだが、周りからはそうは見えないらしい。
誰かと一緒に何かするだけが、『楽しい』ではない。そう思うのは、僕だけだろうか。そんな考えだから、僕には……。
ぼんやりとしながら、僕はコントローラーのボタンをカチカチと連打する。モニターの中では、髭面のイカした傭兵が、敵の基地内にある弾薬庫のカギをこじ開けているところだ。
よしよし、ここで爆弾を奪って敵の施設の一つを破壊、陽動して、一気に内部に潜入するか。
そんなことを考えていると、階下から母の呼ぶ声が聞こえてくる。
「純平~! あんた宿題やったの~?」
「んー、今やってるー」
「うわあとかバーンとか聞こえてるわよー。先に宿題やっちゃいなさーい」
「んー」
僕は生返事で応対し、画面の主人公を操作して、作戦通り爆弾を設置していく。弾薬庫に一つ、続けて敵の基地内にある配電盤にも一つ。これで、敵の基地内の電源が落ちて潜入しやすくなるはずだ。
しかし敵が足音に反応して、こちらに近づいてくる。あ、やばいばれたか? そう思って、こっそり物陰から様子を見ようとする。
が、ここで操作ミス。左スティックを大きく倒しすぎて、ダンディな主人公は突然物陰から敵の前にしゃがんだ姿勢で躍り出てしまう。……映画だったらかなりシュールな光景だろう。むしろコメディか。
「敵だ!」
「……あーあ」
僕は画面の中で敵に撃たれ続ける主人公を無視して、冷静にスタートボタンを押してタイトル画面に戻る。もう一度チャレンジしようかと思うけど、どうにもやる気が削がれてしまって、リトライする気にはなれなかった。そのままゲーム機の電源を落とし、テレビを消す。
ベッドに放り投げられたカバンをひっつかんで机に座り、カバンの中から教科書を漁る。
確か、今日は数学だけだったような気がする。さっさと終わらせるか。なんてことを思っていたのだけど。
「……あれ」
教科書が出てこない。ノートもだ。カバンの隅から隅まで漁るけど、一向に見当たらない。
「……あー、学校だ」
深いため息を吐いて、僕は時間割を見る。
数学は……一時限目だ。くそ、午後からなら、昼休みに宿題を片付けられたのに。
時計を見る。まだ五時になってない。部活で残ってる生徒もいるだろうし、さすがに学校が閉まっているなんてことはないだろう。外を見ても、まだ日は赤くなっていない。でも。
「……めんど」
僕は空っぽになったカバンを背負い、リビングに降りる。
「あら、アンタどこ行くの?」
「学校。宿題忘れた」
「おっちょこちょいねえ、誰に似たんだか……あら、お母さん味噌買い忘れたかしら?」
「……行ってきまーす」
母とのやり取りも適当に済ませ、僕は家を出る。幸い、学校まではほんの一~二キロほどだ。歩いてでもいける。
道中は、お気に入りの音楽をイヤホンで聞きながら歩く。と言っても、誰かに聞かれても、どんな音楽を聴いているのかとか、どんなアーティストが好きとか、そういうのを教えることはしない。と言うのも、中学の頃、僕の好きな音楽はみんなの趣味と違いすぎて、誰にも理解されなかった。それ以来、人と音楽について語り合ったことはない。
それはさておき、加工されたような声で歌う歌姫と、生演奏などない、打ち込みだけの音楽を耳に叩き込みながら、僕は早歩きで学校に向かった。
三曲くらい終わったあたりで、僕は校門の前にたどり着く。野球部の怒声に近い気合の声や、談笑しながら楽しそうにボールを打ち合うテニス部を横目で見ながら、僕は学校に入る。
そのまま難なく玄関にたどり着くと、上履きに履き替え、二階の自分の教室を目指す。
吹奏楽部の下手くそなのか、上手なのかよくわからない演奏が響き渡る校内に、普段と違う印象を受け、なんだか不思議な気持ちになりながら、階段を上がり、教室の前にたどり着く。
ガラガラと大げさな音をたてながら、教室のドアをスライドさせる。僕は自分の席、前から三番目、窓側から二番目のところの席に向かおうとする。
「え? あ……ごめんなさい」
女子がいた。その女子は、僕の姿を見て声を上げたのだ。そしてみるみる内に狼狽して、青ざめていく。
彼女は、僕の席に座っている。そして今、机の中をのぞき込んでいた。
「……何してるの?」
「えっと、ご、ごめんなさい!」
彼女は慌てて席を立ち、そのまま僕とは逆側の出口に向かおうとする。
「待って」
僕は彼女の手首を掴む。女子は怯えたような、観念したような、そんな表情をしていた。
「答えてよ。何してたの?」
「……さ、探し物を……」
「……僕の机に入ってるようなものなの?」
「……わかんない」
「……はい?」
入ってるかどうかも分からないのに、この子は僕の机を漁っていたって言うのか。
「……どういうこと?」
「……家の、カギ……」
「無くしたの?」
問いかける僕に対して、彼女は首を振ることで応じる。
「……隠された……」
あー。なるほど。
いじめってやつかな。あるいは、冗談で隠してたつもりが、どこにあるかの種明かしをせずに忘れて帰っちゃったパターンか。どっちにしても、悪質だけど。
「……そっか」
僕はその手を放して、自分の机に向かう。そのまま当初の目的だった教科書類を引っ張り出して、カバンに詰め込む。……なぜか彼女も僕の机のところまで来る。
「なに?」
「えっと、ごめんなさい。でも、その、浜田君の机に、変なことはしてないから……」
「……はあ、そうですか」
別にそんなことを確認するために机に戻ってきたわけじゃないんだけどな。まあ、ノートの隅っこに落書きとかしてるから見られたら恥ずかしかったりするけど。
「で、どこ探したの?」
「え?」
「机。どっからどこまで探したの? 前の方から順番に見てたの? それとも後ろから?」
「……ま、前から」
「そう。鍵ってどんなの?」
「くまの、キーホルダーがついてるやつ……」
「ん。じゃあ俺後ろから探してくから」
「え?」
僕は言った通り、一番後ろの席から順番に調べる。正直、いじめるつもりで隠すなら机の中よりも掃除用ロッカーとかにありそうだ。不用意に誰かの机の中に入れるなんてことはしないだろうし、隠すなら『いじめたい対象』の机だろう。僕は黙って机の中を探す。
「あの、いいよ浜田君。暗くなっちゃう」
「じゃあなおさら早く見つけないと」
一人で探すよりも二人で探した方が早いに決まってる。めんどくさいけど、どうせ家に帰っても宿題をするだけだ。あるいはテレビゲーム。そんなことをしているよりも、フリだけでも一緒に探した方が何倍も人のためになるってもんだ。
あらかた探したが、やはり鍵は出てこない。彼女がまたなんか言ってきたけど、僕は気にせずまだ探していない場所を探す。
「ねえ、もういいよ浜田君。ちょっと暗くなってきてるし……」
「そうだね」
適当に相槌を打ちながら時計を見る。
もう一時間近く探したのか。そんなに隠すところは多くないと思うんだけど……。
何気なく、黒板のチョーク入れを覗く。
すると、中には女の子のキャラクターのキーホルダーのついた、家の鍵らしきものが出てきた。
(……熊のキーホルダーって言ってたよな。でもこれ、どう見てもアニメっぽい女の子のキャラだけど……)
「あ、それ!」
そう言うと、彼女はセミロングを揺らしながら、小走りで近づいてくる。
「……熊じゃなかったっけ」
「うん、球磨のキーホルダーで……あ! ごめんなさい……」
話を聞くに、どうやらこの女の子のキャラが『球磨』というキャラクターらしく、ついその名前で呼んでしまったとか。……わかりづれえ……。
「……で、なんでこんなことされてるの?」
「……」
「……口止めされてる、と」
問いかけに答えないことからそう判断する。
陰湿だな。こういうのは、男子じゃない。僕を含め、男どもは頭が悪いから、みんなの前でそいつを冷やかしたり恥をかかせたりするもんだ。その結果、周りから『いじめっ子』のレッテルを張られているのにも気づかずに。……こういう陰湿で狡猾なのは、大抵女子の仕業だろう。まあ、偏見だけど。
「まあいいや。よかったね、見っかって」
「……うん」
「じゃあ、また明日」
「あ、待って!」
彼女が、僕の半袖を掴む。すごく弱々しい力だが、『女子に袖を掴まれる』という男子なら割と夢見るシチュエーションに願わずして遭遇してしまい、つい足を止める。
「お、お願いだから、今日のこと、誰にも言わないでください……」
「……」
思わずため息が漏れる。
なんだこの子、そんなことよりも先にありがとうって言うのが礼儀だろうに。なんてことを思いながら僕は彼女の手を退ける。
「……普通、先にお礼するもんじゃない?」
「……わ、わかりました……」
彼女はそう言うと、絶望したような表情になり、言葉を紡ぐ。
「お礼に、なんでもしますから……だから今日のことは、秘密にしてください」
「……違うんだよなあ……」
「え?」
「その言い方じゃあ、エロい展開にしかならないんだよなあ……」
「え? え!?」
この子迂闊すぎるだろ。たかだかいじめの口止めごときに自分を自由にしていい発言とか。ついついエロ同人的な発想が脳裏をかすめるが、それをやったら色々人として終わってる。
「……なんでもするんだよね?」
「……は、はい……」
「じゃあ、ちゃんとお礼言ってよ」
「ちゃ、ちゃんと……?」
「お礼に何かをするんじゃなくてさ。『ありがとう』って。そっちの方が気持ちいい」
「あ、ごめんなさい……」
「だからお礼だってば……」
「あ、ありがとう……ございます」
「ん、どういたしまして」
そう言って、僕はご満悦で教室から出ていこうとする。今日はいいことした。一時間半ほど時間を費やしたけど、まあお礼もしてもらったし、あとは宿題やってゲームして寝るだけだ。
「は、浜田君!」
「?」
「あの、お礼がまだ……」
「? したじゃん、今」
「だから、その、言葉じゃなくて、その……」
「……なんでもするってやつ?」
そう尋ねると、彼女はコクコクと何度も頷く。
僕はため息を吐きながら、彼女に説教しようと近づく。
が。そこで僕は思いついてしまう。
こんなチャンスは二度とめぐってこないかもしれない。
女の子が、こんな風に言ってくれることなんて、もう二度とないだろう。
なんでも言うことを聞いてくれるなら。
なんか一個くらい、お願いしてみてもいいんじゃなかろうか。
僕は家のカギを探す手伝いをして、それを見つけてあげたんだ。多少無理なことでも聞いてくれるかもしれないし、むしろ好印象の今だからこそ色々とさせることができるんじゃないだろうか。
いい機会だ。女の子が、『なんでもする』なんて、簡単に言っちゃいけないんだってことをその身をもって教えてやろう。
僕は過去自分の中で五本の指に入るくらいのゲス笑顔を披露する。
「……じゃあ、なんでもしてくれるんだよね?」
「……! う、うん……」
彼女は、僕の下品な笑顔を見て怯える。それはそうだろう。散々鏡の前で、なんとなく悪い笑顔の練習をしてきた僕だ。特に理由はないけど。
自分でも戦慄するようなゲス顔なんだから、人様が見たら怯えるに決まってる。その顔をあえて見せた。このゲス顔に震えて、逃げ出してしまえ。
「……やっぱりなしって言うなら、今のうちだよ?」
「……、だ、大丈夫……」
何が大丈夫なんだこの子。
僕は大丈夫じゃないぞ。
「じゃ、じゃあ……そうだな……」
早まるな浜田純平。僕はまだ、犯罪者になりたくない。でも目の前の女子を好きにしてもいいなら……どうしよう。
正直、僕が悪い笑顔を見せた段階で逃げて欲しかったんだけど、なぜかこの子は僕の命令を待っている。まるで従順な奴隷のように。
……あ、ちょっとそそる。
じゃねえよ!
なんで逃げないのこの子もしかして僕にそういう展開を期待してるのかビッチなのかそれともただのあほなのかでもでもビッチだった場合僕の童貞が失われるしそれは避けたいしいやでもあほの子だったらそれはそれで可愛いしでもまて落ち着けもっと冷静になろうだってこんなの普通じゃ考えられない何してもいいって言うのかでもそれちょっとまずいですよここ学校だし他に生徒もいるしそう言うのに興奮する子なのかいやまて早まるなコレは罠だ多分ここで妙な事したら明日学校で僕が言いふらされてさらし者にされる奴だこれはそうに違いないでもまて、もし本当にそうだとしてもここしかもうチャンスないんじゃないのかそうだよそれならもういっそのことここでやってしまうのもいやいやいやいや駄目だって最初は好きな人とって決めてるのに僕でも今好きな人いないしいいよねいいよねいいよねいいよね! ダメ? ダメか。ダメだ何考えてんだ僕は。
エロいのは、ナシ。そういうのは、好きな人同士でやるもんだ。
「……あ」
「? どうしたの、浜田君」
「……ごめん、名前なんだっけ」
「……え~……」
「ごめんて」
「……沖崎響子……」
「よし、じゃあ沖崎。僕の命令を聞くんだ」
彼女が唾をのみ込む音がここまで聞こえてくる。両目をがっちりと瞑って、俯く。
今更後悔しても遅いぞ沖崎。君は僕になんでも言うことを聞くと言ってしまったんだ。こんな面倒くさい奴に、絡まれてしまったんだ。神様か、そのいじめっ子を怨むんだな。
「今日から沖崎は、僕の友達第一号だ」
驚いたような顔をする沖崎。ちょっと顔を熱くする僕。
恥ずかしいことに、僕には、友達がいなかった。
カテゴリーは恋愛と言ったな。
ア レ は 嘘 だ 。
そんな感じの小話でした。
期待した方はすみません。
騙したわけじゃなく、書きたくても書けなかったんです。