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葬儀屋トシと送り屋ユリ(仮)  作者: 村川未幸
1章目
8/28

夢?現実?2

従業員は一頻り笑った後、社長の『さぁさぁ』という一声で仕事を始める。


中井も、夜中に仕事の依頼があったご自宅に訪し、通夜、葬儀の打ち合わせをしに行く。


大きめのバッグの中に、パンフレット、見積書、電卓などを入れ、職場の軽自動車の通称『天国1号』に乗り出発する。


この天国1号の由来は、ナンバープレートが『1059』なっているところからある。このナンバーは社長のこだわりで、霊柩車は『天国2号』、社長の自家用車は『天国3号』と言われている。


打ち合わせの際は中井だけではなく、もう1人を一緒に連れて行く。


お客様の要望をきちんと聞くためだ。


今日の相方は、姉貴肌で色気全開の阪口由美だ。阪口は、式典10年のプロで、司会はもちろん、お客様との接客もお手の物。


中井自身、阪口から打ち合わせの仕方や式典での立ち回り方など、仕事ではいつもお世話になっている。


中井は運転席、阪口は助手席に乗り、ここから車で10分の山本様のお宅へ向かう。


その途中中井は、阪口に質問攻めにあっていた。


「トシ君てさ、桜子のこと、どう思ってるの?」

「え、桜子ですか?」

「えぇ、どう思ってるの?」

「どうって、優秀な事務員だと思います」

「それだけ?」

「は、はい」

「ほんとに?」

「……何か言いたい事がおありのようで」


阪口はクスクスと笑う。まるで女狐だ。


「あなた、桜子が好きなんでしょ?」

「……」

「あらあら、顔赤いわよ。可愛い」

「ち、違います…、これは、あれです。あの、少し風邪気味なんです」

「あら大変、桜子に看病してもらわないと……」

「由美さん、人が悪いですよ」


阪口は細い目をしてずっとクスクス笑っている。


「ところでトシ君、なんで朝はホールで寝てたの?」

「いやぁ、それが記憶になくって」

「あらぁ、病気?」

「ハハハ…でしょうか?」


そうこうしているうちに山本様宅に到着。


広い玄関から、まず左手にある座敷に移動し、仏壇と休まれているお体に線香をあげ、玄関から右手にあるリビングで、ご家族とご親戚の方々に挨拶をする。


「この度はお世話様でございます。皆様方におかれましては、胸中お察し申し上げます。大変紹介が遅くなりました。私、故、敬三様の通夜、葬儀全てを担当致します、本田葬儀社の中井智之と申します。隣におりますのは、皆様の身の回りのお世話などを致します、阪口由美と申します。どうぞ宜しくお願い申し上げます」


いつも通りの言葉をいつものように言い、喪主の長男と、その奥様と打ち合わせをしていく。


大体の遺族は、こういった不幸事があると、気がナーバスになる。


人生に何度もない人の死だ。慣れていることもなく、無理もない。


中井達葬儀屋は、その遺族のケアも行っていく。葬儀屋の人間が、遺族と一緒にうろたえてはいけない。遺族を落ち着かせるためにも、葬儀屋は、落ち着いたトーンでスローペースで言葉を発していかなくてはならない。


遺族はデリケートだ。言葉ひとつ間違えれば、心を傷つけてしまう。


中井と阪口は、そつなく打ち合わせを進めていく。


寺院様の名前、祭壇花のグレード、会葬者数、骨壷、棺、供養品など、確認することはたくさん。


中井は喪主と話しながら、見積書に記入し、阪口は奥様と話しながら、会葬礼状に入れるための遺族の名前を聞いていく。


一通り打ち合わせが終わった葬儀屋2人は、最後に遺族に聞く。


「敬三様は、どんな方だったのですか?」


「そうですねぇ、写真が好きで、しょっちゅう近所の人達や道端の草花の写真わ撮ってまわってましたかねぇ」と喪主がいう。


「そうそう、自分が写真を撮るものだから、本人の写真は少ないのよねぇ」と奥様。


「ははは、そういえば『わしはタバコも酒もやらないのに、なんで金が無くなるんだ 』ってつぶやいてたっけ?」

「そうそう、そういえば言ってたわねえ」

「そうでしたか。敬三様は、人のために尽くされる、優しい方だったのですね。先ほど座敷に上がった際、敬三様のお顔を拝見致しましたが、とても穏やかに眠っておられました。優しい方そのままのお顔でした」


中井は奥様がいれてくれたお茶を一口飲んだ。


遺族はその言葉に感動した。


「いくら仕事とはいえ、見ず知らずの人をそのように言ってくださる人なんて、そうそういない」と喪主は涙を浮かべて言った。


中井は軽く微笑んだ。


それからいくつかの思い出話を聞いた中井と阪口。そろそろ準備をするために、式場へもどらなくてはならない。


最後にもう一度、仏壇とお体に手を合わせ、家を出た。


天国1号に渇をいれ、山本宅を後にした。


その車中、阪口はふと中井の顔を見た。彼女は思わず「ちょっと、大丈夫?」と心配した。


中井の顔が、青ざめていたのだ。

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