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葬儀屋トシと送り屋ユリ(仮)  作者: 村川未幸
1章目
6/28

あいつとの再開は、過激だった。3

「お、俺の後ろに霊が……」


「そう、あんたの後ろに、ずっと前から女の子がいたんだよ。あんたの精気を吸っていたんだよ。最近、何か体の変化とかなかった?」


「さぁ?しいて言うなら、やる気が起きないというか、忙しくて疲れていただけだろうけど、それ以外は何も」

「その無気力が、悪霊が憑いていた影響だ」

「はぁ?」

「ん、聞こえなかった?その無気力こそ、悪霊が憑いていた影響だ」

「じゃあ、世の中の無気力な人は、みんな悪霊が憑いてんのか?」

「そうだよ」

「そんなの信じられるかよ……」


中井は呆れた。幽霊は、真剣な顔で中井を見つめている。


「見せてみろよ。その無気力な人間全員が、悪霊とやらに憑かれているところをよ」



少し間が空いて、幽霊は小さくため息をついた。


そして、中井の目の前まで近づき、幽霊の左手を中井の目に、覆うように置いた。


その瞬間、幽霊の左手が、ぼんやりと鈍い光を放ち始めた。


中井はすぐさま幽霊の手をどかそうと祓うが、相手は幽霊。触れられるはずもない。


それにしてもやっぱり幽霊、手がとても冷たくて、目がヒンヤリとして凍りそうだ。


幽霊が手を置いている30秒ほどの間、中井はなんとか手から離れようとするが、体がどうしても動かせない。


なんとも言えないが、体が石のように動かない。



鈍い光が消え、幽霊は手を離す。


中井は、目をパチリと開いた。何度か瞬きをし目をこする。


今まで見えなかった何かが見えるのだ。



祭壇の右端に、何かが体育座りでシクシクと泣いている。


ふと気配がするので、左手側のホールの出入口を見ると、男の子が笑みを浮かべてこっちを見ている。


後ろを振り返ると、天井付近の通気口から、人の足が、にゅるりと出ている。



「これは……」と中井は見まわす。


「あんた、俺に何をした?」

「霊がはっきり見えるようにした。見える?この部屋だけで、3体はいるよ」

「……」


中井は黙ってしまった。


「あれ?驚かないの?」

「2度も殺されかけたんだ。驚いてたまるか」

「なんだよー。ツマンナーイ。でもあんたアレだね。驚いたりする割には、基本的なテンションは低いんだね?」

「そうか?」

「そうだよ。普通はさ、これだけ色々見えたりすると、興奮して倒れて気を失ってしまうのに」

「安心しろ。俺はもうすぐ倒れると思うから」



中井は、抜かした腰に力をいれて立ち上がる。足がフラフラだ。


夜中に一仕事して、戻ってゆっくり寝ようと思っていたのに、どこの馬の骨か分からん輩がやってきて、このザマだ。


外が少し明るくなってきて、彼らのいるホールは、白い壁が、外から入ってくる僅かな光を反射して、祭壇の左側にある五重塔が、3mもある高さと存在感を出してくる。


もう早朝なのだろう。



「もう朝か……」中井は目をこすりながら呟いた。


「お前が俺の後ろの悪霊を追っ払ってくれたことは感謝するよ。だから、金輪際、俺の目の前に現れるな。その前に俺の目を元に戻せ」


幽霊は中井を見つめる。切れ長の目をプイッと視界から外し、「嫌」と一言。


その目は、僅かな外の光でキラリと光っている。そのエメラルドグリーンの瞳はとても澄んでいて、見つめていると吸い込まれそうな、綺麗な瞳だ。


早朝と言われてもまだまだ暗い。この暗い中で輝いているから綺麗に見えるのかもしれない。



「僕ね、君にお願いがあるんだ。僕のお願い、聞いてもらえます?」

「断る!」


中井はスタスタと事務所に戻ろうと足を動かした。


幽霊は、歩いている中井の体を通り抜け、彼の目の前に立った。


中井はギョッとした。


そして、幽霊の何かを持っている左手からは、赤い液体が指の間から滴り落ちている。


その物体は、拡張したり収縮したり…あの形、何か見覚えがある。


「お願いだよ。でないと君の心臓、潰すよ」


幽霊はそう言うと、中井の目の前から、スウッと消えていった。


左手の物体とともに。



中井は、ゆっくりと自分の体を見た。


胸が、赤い液体でドロドロになっている。


その液体は、彼の体から足をつたって、大理石の床を真っ赤に染めていく。


中井は白目を向いて、そのままドサッと倒れた。



外はだんだんと明るくなりはじめた。空は、暗闇から顔を出していく。



中井智之は、28才という短い人生に幕をおろした。

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