表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
葬儀屋トシと送り屋ユリ(仮)  作者: 村川未幸
1章目
4/28

あいつとの再開は、過激だった。

そんな事があったが、2ヶ月間、中井はあの幽霊を見ていない。


石田にもその幽霊について説明したが、「あやだなぁ中井さん、きっと夢ですよ。疲れてるんですよぉ」と言って信じない。


それ以降は何事もなく過ごしている。あれ以来、幽霊らしきものは見ていない。




そんなある日、あの幽霊はやってくる。


それは、中井が、当直な時のことだ。夜中に事務所の電話が鳴り響いた。


仕事の依頼だ。


中井は、寝台車で病院に向かい、ご家族に挨拶をし、ご遺体を家族の自宅まで送っていった。


その家は玄関がなかなか広く、靴の収納棚の上には、とても綺麗な一輪の百合の花が飾ってあって、花の上品な香りが家じゅうに広がっていた。


座敷は20畳ほどの広さで、奥の壁には、滝が書かれた水墨画の掛け軸が飾ってある。


とても勢いのある掛け軸で、滝に流れる水の表現はとても力強く感じる。



中井は気になった。


「このご遺影は……」と掛け軸のかけてある隣の仏壇の上にある、3枚のご先祖様の遺影を見た。


「仏壇の上に掛けられますと、仏様より

ご先祖様が上の位にあると表せられると言われます。できれば、横の壁の上に掛けられるほうがよろしいかと思います」

と、できるだけ当たり障りのない声で家族の方に言った。



お体を座敷に休ませ、「また明日の朝に参ります」と挨拶をすませて、寝台車に乗り、仕事場である葬儀場に戻った。



無事に葬儀場に到着し、事務所に戻る。


中井は事務所のドアを開いて中に入ろうとしたが立ち止まった。


仮眠室からテレビの音が聞こえてきたのだ。


ここを出る時はテレビも電気も消し、玄関の鍵もかけたはずだ。


彼は、止まっていた足をそろそろと動かし、仮眠室の入り口を開け、電気のスイッチをつけた。


中井の目に入ったのは、2ヶ月前に見た、あの幽霊と同じ格好をした人影が、テーブルに腰掛けた姿だった。


白刃の鎌を右肩に立てかけ、黒い布のようなもので全身を覆っている。


何様なのか、まるで自分の家でくつろいでいるような光景だ。


中井は、入り口で口を開けたまま立っている。


言葉もでない。


すると人影は、中井の気配に気がついたのか、仮眠室の入り口を振り向いた。


中井はビクッとした。



『また殺される。いや、殺されかける』と思った。


人影の上唇は少し薄く、血色がない。


肌は青白い。どこからどう見ても顔色が悪く、不健康そのものに見える。


「あ、あの……」と中井がやっと声を出した。


「警察っ」と大きな声を出し、携帯をてにとって『1』『1』『0』を押して、通話マークを押した。


通じない。


画面の左上をみると、圏外になっている。


携帯を諦め、事務所にある固定電話から『1』『1』『0』を押すが、受話器から聞こえてくるのは、不通を知らせる音だけ。


『何でだ⁈』


何度もボタンは繋がらず。すると彼の後ろから、低くて澄んでいるが、ハリのある声で「ムダさ」と聞こえたので、中井は後ろを振り向いた。


「ムダさ。何でって言われたらわからないけど、ムダだよ」と言いながら人影は足音を立てることもなく、中井に近づいていく。


「来るな!」


中井は怒鳴る。


「だからムダなんだって」

「わかったから、こっち来るな」

「何?キレてんの?」

「うるさい。あんた、何なんだよ」

「何って、なんだろうね?」

「……」


人影は小さく笑った。中井は口を一文字に結び、人影を睨みつける。


額からと背中は、変な汗をかいている。事務所には、壁時計の秒針の音だけが部屋中に響いている。


その中で人影と中井は、何の音も立てることなく対峙している。


人影は口角を少し上げ、口を開いた。


「僕の事は、もうわかってるよね?」という問いに、中井は「……ユーレー」と呟くように答えた。


「そう、僕は幽霊。と言っても、そんな悪いことをするような下等な奴とは違うよ。僕は、とっても優秀で、ナイスガイな、とってもすんごい幽霊で……」

「ナルシストでアホな幽霊の間違いだろ?」


中井は幽霊の話を遮るように言った。


「う、うん。あながち間違いではないけどね、言う事が辛辣だね。なんでたろう、涙出てきた」

「お前、この間うちのホールにいた奴だよな?俺を殺そうとしたよな?」

「え、僕、いつ殺そうとした?」


「……」


幽霊は、手で顔を覆い、『えーん』という仕草をしてみせた。もちろん、嘘泣きだ。


その姿をみた中井は、お調子者な奴だと思い、これ以降この幽霊を怖がることはなくなった。


すると幽霊は、覆っていた手を外し、『あっ!』と何かを思い出したように、


「あの時、挨拶もなしに僕を見てたの、君だったの?」といって中井を指差した。


「そうだよ。あんな首を切られそうになればトラウマだ」


「そっかぁ、もぉ、あの時はメンゴメンゴー。僕も初登場でカッコイイとこ見せたかったんだよぉ。それに、あれには理由があったんだ」


「理由?」


「うん、ちょっとついてきて」


と幽霊は、足音を立てずに事務所をでた。


中井も手に持っている受話器を元に戻して幽霊についていく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ