彼女がいた理由6
次の日、今日は火葬場の都合で朝からの出棺となった。
8時半、ホールにて。
お寺の住職がお経を読む。そのあと、棺に花を入れていく。
中井は花の入った籠を持って、遺族の皆様に花を配った。遺族は花を故人の入った棺に入れていった。そして、みんなそれぞれに別れの言葉をかけた。
「今までありがとう」
「お疲れ様でした。あの世でゆっくりしてね」
「今まで辛かったね。本当にありがとう」
遺族は涙した。そして、喪主の男性が最後に白百合を故人の胸元に置き、故人の額にキスをした。
「ありがとう。ごめんね……」
男性は、擦り切れる声で言った。
「パパ」
「……悠人」
「僕ね、知ってるんだ。ママがお空に行った理由を」
「……悠人?」
「えつこ先生が前、言ってたんだ。小学校にいたうさぎちゃんが死んだ時ね、『うさぎちゃんは、この世界で、いい生き方を学ぶために生まれたんだって。喜ぶとか、怒るとか、悲しむとか、楽しむとか。』だからママは、もう全部知ってるから、長いことこの世界にいる必要がないんだよ」
「……悠人……」
「だから悲しくないよ。僕、悲しくなんかないよ」
そういう男の子の目は、涙が浮かんでいた。
男性は男の子を抱きしめた。
「悠人、泣きたいときは、泣いていいんだよ」
そう言われた男の子は、男性の胸の中で泣いた。声をあげて。
「そろそろ、お時間です」
田中と中井は棺に蓋をした。
玄関にある霊柩車まで棺を運び入れた。
棺を入れて合掌、そして、霊柩車のトランクの扉を閉めて一礼し、遺族は霊柩車の後ろについている送迎バスに誘導し、喪主と家族は霊柩車に乗った。
社長、石田、中村は外で立っている。
霊柩車は田中、バスは中井が運転する。
霊柩車のクラクションが鳴る。それに合わせて石田は合掌、一礼する。90°の最敬礼だ。
社長と中村は道路を封鎖する。
滑らかに霊柩車とバスが出ていくと、社長と中村は、霊柩車に一礼、そして通行中の車に一礼した。