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葬儀屋トシと送り屋ユリ(仮)  作者: 村川未幸
2章目
17/28

彼女がいた理由4

控室を出た中井は、ユリを探した。とりあえずホールに行く。


「ユリー」


ホールに入り、辺りを見回す。


すると、ホールの真ん中あたりにユリがいた。対峙しているのはさっきの女性。その女性は、顔を手で覆っている。


「ユリ」

「あ、トシ、どうだった?」

「うん、まぁ、大丈夫だと思う。そっちは?」

「今やっと見つけて、ここまで連れてきたとこ」


中井とユリは、女性の霊の方を向いた。


「沙弓さ……」

「疲れたの」


中井は黙った。


「生きているのが辛かった。子供の声が、頭から離れなくて、いつも眠れなくて。だから首を吊った。でも、次は、1人になるのが怖くて。私、優樹を殺そうと……」


中井とユリは顔を見合わせる。そして女性は続ける。


「死ぬのは、怖かった。でも、生きるのも、怖かったの」


女性は涙を流す。


「生き残るのは、大変だろうね」


ユリが声を発した。


「でもさ、一生懸命生きようとしてる人間を殺そうなんて、勝手すぎると思わない?」

「怖いのよ。これまでも、これからも……」


女性は肩を震わせ、声をあげて泣いた。


ユリは、その女性の肩をそっと抱いた。


「あの世はとてもいいとこらしいよ。だって、行った人が誰1人帰ってこないんだから。ね?怖くない。怖くないよ」

「本当?」

「うん。本当」

「もう、辛いことは、ない?」

「うん。もう辛くない。僕が連れてってあげるよ」

「あの世に?」

「うん。あの世に」


ユリは手を離した。そして、すぐさま腰にある短刀を鞘から抜き、何のためらいもなく女性の腹に突き刺した。


その瞬間、女性の顔が歪む。


「……いって、らっしゃい」ユリは彼女に呟いた。


女性は、ユリを抱きしめる。


「ちょっと…痛いよ……」

「すぐに楽になるよ」


すると女性は光を放ちはじめ、ガラスが割れるように粉々に砕け散ってしまい、その破片は、上へ上へと昇っていった。


残ったのは、ユリの短刀だけだ。


「ユリ……」中井は声をかけた。


「……泣いてるの?」

「……うん」

「……幽霊も、泣くんだな」

「そういうトシだって」

「ち、違う。これは、あの、あれだ。不謹慎だけど、散っていったのが綺麗で……」

「フフフ…命の散る様は、美しいよね」


ユリと中井は目をこすった。


「しかし、うまいことを言うんだな」

「何が?」

「あの世は、いいとこなのか?」


ユリはクスッと笑ってみせた。


「わかんない」

「え?」

「いいとこかどうかなんて、自分の心一つだと思うよ」

「……お前にとっては?」

「……どうかなぁ?」


そう言うと、ユリは短刀を鞘におさめた。


「いってー……」


中井は左手を見た。手に巻いたハンカチは、赤く染まっていた。


「いっけね、手当しなきゃ」


中井は事務所に戻った。ユリは中井についていく。


手当をした中井は、仮眠室で横になった。ユリは、仮眠室の隅で座っている。


横になった彼に、睡魔が襲う。


何日ぶりの疲労感。いきなり重くなった体は、本人の意識でさえ動かすことができない。


「タバコ吸いたいなぁ……」


中井はそのまま眠った。朝まで。ゆりは、仮眠室の隅で、一歩も動かず、中井を見つめていた。

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