彼女がいた理由2
一通りの事を済ませ、田中は帰宅した。
今日の当直は中井。中井は仮眠室で過ごす。テレビを見ながら、夜ご飯のラーメンを食べていた。
そういえばユリはどこにいるのだろうか。今日は一度も見ていない。
「うん、うまい」出前で頼んだラーメンは美味しい。
至福の時が終わりそうになったとき、どこからともなく「トシ〜ッ」という声が聞こえた。
「早く来てーっ」というユリの焦った声に慌てた中井は、声のする方に走って行った。
声は控室から聞こえる。控室に入った中井の目に入ったのは、女性の体の前で、男性が刃物で自分の腹に今にも突き立てようとしている姿だった。
その男の後ろには、故人の女性が半分、男性の体に入っており、男の手に自分の手を添えている。
その女性の髪を必死に引っ張るユリがいる。
中井はすぐに男性のところに駆け寄り、その腹に刺そうとしている手を引っ張った。
「あんたなにやってんだ⁈」
「離してくれ。死なせてくれ」
男性は暴れ出す。
その拍子に、刃物が中井の左手を真横に切った。その瞬間、中井は顔を歪ませるが、すぐさま右手で男の頬を叩いた。
男は倒れ、刃物は手を離れて女性のお体のそばに飛んで行った。
男は泣き崩れる。後ろの霊は、ユリが何とか引っ張り出した。女性はどこかへいっていまった。それを追ってユリもいなくなった。
「死なせてくれ……」
「子供を残して?」
「もう俺には、生きる理由がない」
「子供を置き去りにするんですか?」
「……」
「子供達の親は、もうあなたしかいないんですよ」
「あんたには分からないよ。大切な人を失った気持ちは」
「わかりますよ」
「……」
「私はわかります……」