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葬儀屋トシと送り屋ユリ(仮)  作者: 村川未幸
1章目
12/28

あぁ、お花畑

と思った中井は、はっと目を覚ました。


彼は、事務所の中に設置されている仮眠室で……


いや、ここはどこだろう?


中井はあたりを見渡した。一面お花畑だ。空は真っ白く、ただ花たちがそよ風に花びらや葉をなびかせている。


中井は歩き出す。行く当てもなく、ただ、歩く。どこの方向もわからないまま歩くが、歩けど歩けど景色は変わらない。


ただ遠くに誰かいるのか、人影が見える。


その人影は近づく度に大きくなっていく。


その人影の姿は、色白で血の気のない顔。切れ長の目で、エメラルドグリーンの瞳はとても澄んでいて、見つめていると吸い込まれそうだ。


真っ白なタブリエドレスに真っ白なズボンは、白に近いきめ細かな肌と同調している。


中井は、その顔をどこかで見たことがある。だが、誰なのか思い出せない。


立ち止まった。


その顔がはっきり見えるところまでで立ち止まり、中井は声を出そうとするが、声が全く出ない。


すると、向こうの人影が話しかけてきた。


「ムダさ。君はこっちにはまだ来れない」


茫然とする中井。向こうの人影は少し微笑み、さらに言った。


「ごめんね、これ、心臓、返すよ」


人影は、どこからか心臓を出し、中井の方に向かってくる。


彼の目の前で立ち止まり、手に持っている心臓を中井の胸に押し当てた。


すると心臓は、中井の胸の中に埋まっていく。


その瞬間、人影が消え、中井の目の前が真っ暗になり、中井は思わず目を閉じた。



と思った中井は、はっと目を覚ました。


彼は花畑に…あれ、ここはどこだろう。


どうやら中井はベッドに寝ている。


そのベッドの横には、石田…えっと、苦々しい顔の社長がいる。


「よぉ、起きたか」


中井は起き上がる。


「……ここは?」

「病院だよ」

「え?」

「……倒れてたんだよ。心停止の状態でな」

「……」


社長の話はこうだ。


通夜の準備から戻ってこないことを心配した阪口がホールにいったら、中井が祭壇の前でうつ伏せで倒れていた。


すぐに救急車を呼び、病院に運んだ。その途中で脈がなくなって、心肺停止になった。


病院について医師が蘇生をおこなったが戻らず、もう臨終かと思われた時、脈が戻り、呼吸を再開したそうだ。


「……あの、施行は?」

「無事に通夜は終わった。明日、予定通り本葬だ」

「そうですか、ご迷惑をおかけしてすみません」


病室はしばらく静かになった。そして社長は開口した。


「トシ坊、しばらくは休め。施行は俺たちがやるから」

「はい?」

「ここ最近忙しかったからな、疲れもたまってるんだろう」

「いいえそんな、俺、元気です。なんともないから、施行をやりたいです」

「トシ坊、お前わかってんのか。心停止だったんだぞ。無理は……」

「無理はしません。やらせてください」


トシ坊は責任感が異常だ。


「……無理はするなよ。分かったか?」

「はい、ありがとうございます」

「じゃ、病院に言ってみる」


そういって社長は病室を出て、ナースステーションに向かった。

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