夢?現実?5
時刻は18時。
喪主との打ち合わせ、電報の確認、受注があった生花スタンドの名札の確認、門標看板の名前の確認と、受付の人への説明を終わらせ、中井は大ホールに行く。
祭壇は、菊や白百合、デンファレとかすみ草、色々な花で埋め尽くされている。白色を基調とした花祭壇は本当に美しかった。
菊の花で波を表現し、白百合やかすみ草で華々しく飾り、デンファレやバラでアクセントをつけている。
「綺麗だ……」と中井は心の奥で呟いた。
しかし、中井の顔は晴れない。
祭壇の右隅に、体育座りをして泣いている霊が、まだいる。通気口から、足だけを出している霊が、まだいる。
中井はまず、足だけ出している霊に声をかけた。
「そこの通気口の足だけ幽霊、そこから出たらどうだ」
返事がない。ただの屍のようだ。
しかたなく、泣いている幽霊に話しかける。
「おい、なんで泣いているの?」
「……」幽霊は泣いている。どうやら少女のようだ。
「お嬢ちゃん、泣いてばっかりじゃどうにもなんないよ。どうしたの?」
「……おじちゃん、誰?」
「ここの葬儀屋のおじちゃん」
「……おじちゃん、私、見えるの?」
「まぁね」
少女は立ち上がった。長髪ストレートの髪が綺麗で、目がクリッとした子だ。お人形さんみたいな顔をしている。
「おじちゃん、私のお願い、聞いてくれる?」
「お願い?」
と中井は少女に近づいたその時、少女の細い両腕が伸び、中井の首を締めるように掴んできた。
少女とは思えぬその力は、指の食い込み具合でわかるくらいだ。
息が出来ない。彼は手を離そうと仰け反るか、そう簡単に手が外れるわけもなく、指の食い込みはだんだん深くなっていく。
彼の額から冷や汗が流れていく。
どんどん視界が暗くなり意識が霞んで行く中、中井は不思議な体験をした。
体が浮き、どんどん上へ昇っていった。
天井近くまで昇った時、「あなたの魂、私にちょうだい」というか細い声とともに、中井は息絶えた。
外は日が沈んでいき、そよ風が銀杏の樹を揺らし続ける。
空はまた、闇に潜り込んでいく。
中井智之は、28才という短い人生に幕をおろした。