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葬儀屋トシと送り屋ユリ(仮)  作者: 村川未幸
1章目
11/28

夢?現実?5

時刻は18時。


喪主との打ち合わせ、電報の確認、受注があった生花スタンドの名札の確認、門標看板の名前の確認と、受付の人への説明を終わらせ、中井は大ホールに行く。


祭壇は、菊や白百合、デンファレとかすみ草、色々な花で埋め尽くされている。白色を基調とした花祭壇は本当に美しかった。


菊の花で波を表現し、白百合やかすみ草で華々しく飾り、デンファレやバラでアクセントをつけている。


「綺麗だ……」と中井は心の奥で呟いた。


しかし、中井の顔は晴れない。


祭壇の右隅に、体育座りをして泣いている霊が、まだいる。通気口から、足だけを出している霊が、まだいる。


中井はまず、足だけ出している霊に声をかけた。


「そこの通気口の足だけ幽霊、そこから出たらどうだ」


返事がない。ただの屍のようだ。


しかたなく、泣いている幽霊に話しかける。


「おい、なんで泣いているの?」


「……」幽霊は泣いている。どうやら少女のようだ。


「お嬢ちゃん、泣いてばっかりじゃどうにもなんないよ。どうしたの?」

「……おじちゃん、誰?」

「ここの葬儀屋のおじちゃん」

「……おじちゃん、私、見えるの?」

「まぁね」


少女は立ち上がった。長髪ストレートの髪が綺麗で、目がクリッとした子だ。お人形さんみたいな顔をしている。


「おじちゃん、私のお願い、聞いてくれる?」

「お願い?」


と中井は少女に近づいたその時、少女の細い両腕が伸び、中井の首を締めるように掴んできた。


少女とは思えぬその力は、指の食い込み具合でわかるくらいだ。


息が出来ない。彼は手を離そうと仰け反るか、そう簡単に手が外れるわけもなく、指の食い込みはだんだん深くなっていく。


彼の額から冷や汗が流れていく。


どんどん視界が暗くなり意識が霞んで行く中、中井は不思議な体験をした。


体が浮き、どんどん上へ昇っていった。


天井近くまで昇った時、「あなたの魂、私にちょうだい」というか細い声とともに、中井は息絶えた。


外は日が沈んでいき、そよ風が銀杏の樹を揺らし続ける。


空はまた、闇に潜り込んでいく。


中井智之は、28才という短い人生に幕をおろした。

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