夢?現実?4
葬儀社に戻った2人は、早速、式の手配をする。
阪口は、供養品や通夜菓子などの準備、中井はまず、祭壇花の手配に、隣の花屋へ行く。
『フラワー山田』の店主、山田貴子は、本田社長の親戚にあたる。
確か、従姉妹だとか。
白髪メッシュのソバージュヘアのセミロングで、社長はいつも、その風貌から『ラーメンババア』と呼んでいる。
「店長こんにちは」
「あらトシ君、今日も仕事が入ったのね?」
「はい。今日は花祭壇でお願いします。あ、これ、注文書です」
「はい、分かったわ。ありがとう」
「いえ、こちらこそ。お世話になります」
本田葬儀社の生花は、全てここの花屋を使っている。
社長の親戚ということもあるが、他の式場より、花を多く盛ってくれる。おかげで、「本田さんのところの花は、他より多くて、とても綺麗なのよね。値段は張るけど……」と周りからの評判がいい。
花の手配を済ませ、棺と骨壷、会葬名簿を準備し、会葬礼状を印刷する。刷った礼状は、供養品の中に入れていく。
死亡届を出すために、死亡診断書を持って役所に行く。
役所から戻り、そうこうしているうちに事務所で昼食を取る。
時刻は15時。今日のご飯はコンビニのおにぎり、梅味だ。
疲れた体には梅。酸っぱくて顔が歪む。
目、鼻、口が顔の中心に寄っていく。ベタなことだけど。
それを見た石田は笑う。その笑顔を見た中井も、照れくさそうに笑う。その一部始終を見た阪口が、ニヤニヤ笑う。
つかの間の時間は過ぎていき、中井は棺と死装束を積んで、寝台車で山本宅へ向かう。
「お迎えに参りました」と座敷にあがった。するとやっぱりお体の頭の横に、故人の幽霊がいる。
「あ、さっきの。どうもすみませんねぇ、お世話になります」
と、幽霊は頭を下げる。
中井は見て見ぬふりをした。
男の人に手伝ってもらって、棺にお体を入れる。死装束は、棺の中に入れる。遺体の骨が脆いようで、むやみらやたらに動かせば折れる可能性がある。それを遺族に伝えたら、服はこのままで、あの世にいったときに死装束に着替えてもらうということにした。
本当に着替えるかはわからない。物理的に言えば、最後は燃やしてしまうから。
遺族から小銭を少しいただき、死装束にある袋に入れて、棺に収める。
三途の川を渡る、渡り賃である。あの世で困らないようにするため。
本当に使うかわからない。物理的に言えば、やっぱり燃やすから。
棺を寝台車にのせ、式場に出発する。
幽霊は、お体を離れることはない。
その車中、「お兄さん、お名前は?」と何度も言われるので、中井は答えた。
「あ、中井と申します」
「あ、あんた、わしが見えるのか?」
「はい、まぁ……」
「そうかそうか。だからわし、見られてる気がしたんだよ」
「はは…私も見えるなんて、思いもしませんでした」
「あっははは。中井さん、あんたとは仲良くできそうだ」
中井は顔が引きつっている。
さて、式場に着き、お体と遺族は控室で休んでいただき、中井らスタッフは通夜の準備を続ける。
阪口、松下らは遺族のそばについて、お茶出し等を行う。
中井、田中、中村は、祭壇のライトアップ、ろうそくに火を付け、焼香台の準備を行う。
故 山本 敬三様 89才
通夜 10月15日 19時
葬儀 10月16日 12時
出棺 10月16日 13時
寺院 浄土真宗本願寺派 小法寺