序章?
「幽霊はね、人間が作りだした、想像の産物ですよ」という人がいる。
しかし、「宇宙人は信じないけど、幽霊は信じる」という人もいる。
この作品の主人公、中井は前者の人間だった。
あの出来事が起きるまでは……。
「う、え、えぇぇーーーーーっ?」
中井は、葬儀場の誰もいないホールの真ん中で叫んだ。
葬儀屋に勤める中井智之28才は、子供の頃から何の悪さをすることなく、ただ自分の取り巻く環境の中で流されるままに流されてきた、面白くもなんともない人間だ。
高校卒業後、親の勧めで地元の町役場で働いていたが、『このまま役所でずっと机の上で働いていくのか』と仕事について疑問が浮かび、25才で安定された職の道を捨て、流れ流れて、26才に葬儀屋で働きだした。
主人公の紹介はこの辺でやめておく。さて、何故彼がホールの真ん中で誰もいないのに叫んでいるのか。
いや、頭がおかしいわけではない。独り言でもない。
しかし、他の人が見れば独り言と思われてもおかしくない。頭がおかしいと言われても言い訳できない。
彼は今、自分の目の前にいる幽霊と話している。
彼は今、その幽霊に向かって叫んでいるのだ。