はじめ
「この子の名は、ルーメじゃ」
白髭を蓄えた村の長老の託宣に、村人たちはどよめいた。特に、赤子の父親は戸惑いを隠せない。
「古代語で世界を意味する、ルーメ……ですかい」
自分の生まれたばかりの子がそのような大層な名前をいただいて、果たしていいのだろうか。
「そうじゃ。この子は魔王を打ち砕き、この世界を光を導く勇者となる!!」
「パラディスんとこの子がや!!」
「すごいべ!!」
「やったのう!! すごいのう!!」
赤子を空に掲げ、長老をはじめ村人たちは興奮していた。通常十五分で終わる名づけの儀式が夜通し行われたのは、村の歴史上初めてのことだった。
そんな、ハタ迷惑な託宣から約17年。
「さぁ、かかってきなさい!!」
国外れの村で勇者の指名を受けたルーメ(金髪碧眼・ボンキュッボンに育ちました☆)は、草むらに隠れていた魔物たちに向って、剣を構えた。
「キ、キュ~~~」
「そろそろあきらめろよ、ルーメ」
切れ長のゴリマッチョの言葉に細マッチョがうなずいた。
「そうそう。見ててかわいそうだよ? 魔物が」
「だめよ! 妥協は許されないわ」
じりじりと間合いを詰める。目をそらさずに、少しずつ、少しずつ。
「ほ~ら。怖いことしないから、もうちょっとこっちへいらっしゃい?」
末は変質者か女王様か。不自然な笑顔でさらに近付く。
「キュ~っ」
「あ――っ」
不意をつかれ、魔物の逃走を許してしまったショックで、思わず座り込んでしまうルーメ。
「ま、また逃げられた……。レベルアップが~」
勇者として生きてきたこの十七年間。ずっと彼女はレベル1のままであった。これは彼女の怠慢のせいではない。それは――
「仕方ないって。そんなわかりやすい勇者いたら僕でも逃げるよ?」
そう。堂々と巻きつけられたハチマキが原因だった。
白地に勇者と書かれたそれは、物理的にも魔法でも取ることができず、試しに塗りつぶそうとしたら父親が弾き飛ばされ、しかし衛生的に保たれ続け、ルーメの人生を途中からではあるが共にしてきたものである。そしてそんなわかりやすい勇者に近づく馬鹿な魔物がいるはずもなく、徹底的に魔物が逃げまくり続けた結果が、今につながるのである。
そのおかげか(とばっちりか)、連れの二人はともにレベル94という、魔王に戦いを挑んでも無謀ではない位置までたどりついていた。格差に何度泣いたことか。
「託宣を受けたことが原因なのはわかるけど、これはないわよ」
どうにもできないいらだちと、どうしても魔王の城までにレベル上げしておきたい焦燥感が、ルーメを雑魚狩りにかりだしていた。
――といっても、雑魚キャラガリの被害者たちは結局残りの二人。ゴリマッチョ・剣士・スパーダと細マッチョ・魔法使い・サ―レによって命を落とし、二人のレベル上げに貢献するのであるが。
ルーメは泣いた。そして叫んだ。
「このハチマキが私の頭にある限り、嫁の貰い手がないんだからああああああ!」
突然の大声に、鳥(not魔物)が飛び立った。
「そこかよ!」
「思い起こせば八年前。あー勇者とかたるいわー。どうせ勇者とか長老ボケてたんでしょとか考えて無難に生きて畑仕事やってたときにいきなり黒い穴に吸い込まれたかと思ったら、ハチマキ巻かれてポイされたのよね。巻き逃げよ巻き逃げ。何が『外したければ、俺を倒すがいい。まぁせいぜいがんばれ。勇者とやら』よ!! おかげでスパーダ含めた近所の子たちに思いっきり馬鹿にされたんだからね!!」
苦々しい思い出がよみがえり、思わず握ったままだった剣を握る手に、力がこもる。
「そんなことがあったんだねー。がんばってるよ、ルーメは」
「このハチマキ見て笑わなかったのサ―レだけだけよ。ううぅ」
本気で泣きに入ったルーメをサ―レが抱きしめよしよしと慰める。それを見たスパーダが引きはがそうとサ―レの肩に手をかけた。
すると、突然出現した黒い穴にルーメが吸い込まれた。
「っへ?」
手をつかもうとする。しかし空ぶってしまった。
「ル・ルーメえええええ」
「ええええええええええええええええええ!?」
ルーメの先には、闇が待ち構えていた。
初投稿です。誤字脱字ございましたら(ヘタレなので)優しく教えてやってください。
黒い穴に吸い込まれたルーメの行きつく先に待っている相手は誰なのか? 乞うご期待。