表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シンクロ率0%の没落令嬢、中身は伝説のエース(65歳) 〜「最近のロボットは軟弱じゃのう」とお茶を啜りながらマニュアル操作で無双する〜  作者: ぱすた屋さん
鋼と翼の聖女:鋼鉄の翼と銀の偶像(アイドル)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/93

第二十五話:偶像の涙、あるいは聖女の覚悟

短めです…!


 成層圏の黒い空で、火花が散る。

 エグゾスフィアの白銀とゲイレルルの禍々しい影が交差するたび、希薄な大気は悲鳴を上げ、プラズマの尾が漆黒を切り裂いた。だが、この戦場は今や空の上だけではなかった。


『見よ、迷える羊たちよ! これが神の力を盗み、理を歪める魔女の正体だ!』


 リヒターの咆哮が、全世界に投影された巨大な魔導ホログラムを通じて響き渡る。王都の広場、遠く離れた村々、そして避難所の片隅。空を覆い尽くすリヒターの偽りの光は、必死に戦うセリナを「世界を壊す邪悪」として映し出していた。


 民衆は揺れていた。自分たちに火を灯したアラクネの言葉と、長年信じ続けてきた神の代弁者の言葉。どちらが真実なのか、その答えを求めて空を仰ぐ。


「師匠、今です! アラクネ・全ノード、強制開放! リヒターの嘘を、物理の真実で塗りつぶします!」


 フェイが叫び、ミリーとポロが構築したバイパスがリヒターの投影システムを内側からハッキングした。空を覆っていた「邪悪な魔女」の幻影が、ノイズと共に掻き消える。


 代わりに映し出されたのは、加工も修正もない、エグゾスフィアのコクピットの光景だった。

 そこには、清らかな祈りを捧げる聖女の姿などなかった。凄まじいGに耐え、首筋に汗を流し、血走った目で操縦桿を握りしめる、泥臭くも必死な一人の少女の姿。


「……。聞け、世界の人々よ! わしはセリナ・アルスタイン。お主らが崇め奉る、聖女などという虚像ではない!」


 セリナの声が、アラクネを通じて世界中の耳元へ届く。その声には、かつての慈愛を装った静けさなどなかった。それは、幾多の戦場を潜り抜けてきた老兵の、魂を削り出すような熱い叫びだった。


 セリナは操縦桿から片手を離すと、髪に飾られた聖女の象徴――白銀の髪飾りを物理的に引きちぎり、コクピットの床へ投げ捨てた。


「わしを救世主と思うな! 祈りでパンが増えると思うな! わしが今、こうして空を飛んでおるのは、奇跡などではない! 緻密な計算と、鉄を叩き、油にまみれた者たちの執念の結果じゃ!」


 セリナは、迫りくるリヒターの熱線を間一髪で回避しながら、さらに言葉を叩きつけた。


「跪くのをやめよ! 奇跡を待つのをやめよ! 重力は、誰にとっても平等に厳しい! 祈ろうが喚こうが、物理のことわりは決して曲がらん。だがな……! だからこそ、物理は信じるに値するのじゃ! 自分の足で大地を踏みしめ、自分の知恵で明日を掴み取れ! 自由とは、神から与えられるものではなく、その手で掴み取るものじゃ!」


 その瞬間、世界中の空で屈折していた偽りの光が霧散した。



 魔法という名の屈折率は、真実の速度の前ではもはや意味をなさない。民衆が見たのは、神の代理人が放つ煌びやかな光ではなく、汗にまみれて戦い、一人の人間として生きようとする少女の「本物の輝き」であった。


『セリナ……ッ! 君は、君という存在そのものを、民衆の希望そのものを、自ら壊したというのか! 偶像を失った羊たちが、何に縋って生きるというのだ!』


 リヒターの絶望に満ちた叫び。彼が築き上げてきた、聖女を核とした宗教的支配体制が、セリナ自身の肉声によって根底から崩壊していく。


「縋る必要などない! 物理の火を灯した者たちは、もう羊ではない! 空を見ろ、リヒター。お主が『無』だと言い捨てたこの空には、確かに風が吹いておるわい! わしたちが、この手で起こした変革の風がな!」


 セリナの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。それは悲しみではなく、ようやく「聖女」という名の鎖から解き放たれ、一人のパイロット、一人の人間として空を舞えることへの、至上の歓喜であった。


「フェイ! 行くぞ! この茶番、ここで終幕じゃ!」


「はい、師匠! あなたの言葉、全世界が聞き届けました! 自由の翼、全開です!」


 エグゾスフィアが、夕闇の空を焦がすほどの青白いプラズマを噴き上げる。

 地上では、人々が教会に背を向け、アラクネの受信機を空へと掲げていた。魔法という名の眠りから覚めた世界が、今、自らの知恵で歩き出そうとしている。


 だが、追い詰められたリヒターの艦が、不気味な赤黒い光を放ち始めた。

 教皇庁の最終防衛機構――天空都市エリュシオン。物理の夜明けを阻むべく、神の最後の鉄槌がその巨大な機首を持ち上げようとしていた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ