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シンクロ率0%の没落令嬢、中身は伝説のエース(65歳) 〜「最近のロボットは軟弱じゃのう」とお茶を啜りながらマニュアル操作で無双する〜  作者: ぱすた屋さん
鋼と翼の聖女:鋼鉄の翼と銀の偶像(アイドル)

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第十八話:再会、あるいは鉄の執念

セリナの話し方が安定しないので後々修正入るかもです…!

 南方拠点『アイアン・パレス・アルファ』の最上層に位置する展望サロン。

 分厚い耐圧ガラスの向こう側、紺碧の空はどこまでも静謐を保っているように見えた。だが、アラクネ・ネットワークが世界中に張り巡らされた今、その静寂はいつ破れてもおかしくない薄氷の平穏であった。


「……。イザベラ。……。茶が。少し。冷めたな。……。新しい。葉に。替えて。くれ。……。この。香りが。一番。落ち着くわい」


 セリナ・アルスタインは、ティーカップを静かに置いた。

 十六歳となり、令嬢としての美しさに磨きがかかったその立ち振る舞いには、しかし中身である六十八歳の老兵としての「戦気」が静かに、だが確実に染み出している。


 傍らで計器の最終チェックを行っていたフェイが、静かに顔を上げた。十六歳の彼女は、一番弟子として常にセリナの傍らにあり、その物理学を最も深く理解し、体現する右腕となっていた。


「師匠、お茶の前にデータの最終確認を。アラクネによる情報の拡散に対し、教皇庁の公式なジャミングは止まっています。ですが、これは引き下がったわけではありません。より物理的な『回答』を用意しているはずです」


 フェイの声に浮ついたところはない。彼女にとって、セリナとの時間は神聖な学びの場であり、同時に何者にも侵させない絶対的な聖域であった。


「……。フェイ。……。お主。……。勘が。鋭く。なったな。……。奴らは。言葉で。勝てぬと。悟れば。……。即座に。暴力に。訴える。……。それが。リヒターという。男じゃ」


 その時、サロンの計器が一斉に警告音を鳴らした。

 作戦室のクラウスから、緊急通信が割り込む。


『セリナ様、緊急事態です。成層圏境界より、超高エネルギー反応を捕捉。魔法マナの波形に、物理的な質量衝撃波が混ざっています。……速度、マッハ三を突破。直進してきます!』


「……。来たか。……。フェイ。……。行くぞ。……。アーク・フェニールⅣ。……。エグゾスフィアの。……。真の。初陣じゃ」




---




 地下格納庫のカタパルトから射出されたセリナの愛機『アーク・フェニールⅣ エグゾスフィア』は、これまでの機体を遥かに凌駕する加速力で要塞を飛び出した。ガッツが丹精込めて組み上げ、アイゼンが極限まで無駄を削ぎ落とした、白銀に輝く物理学の結晶。


 随伴機を操るフェイが、冷静な声で通信を入れる。


「師匠、敵影を確認。……。あれは、教皇庁の移動聖域――魔導艦『ゴルゴダ』です。……。周囲に展開している随伴機、これまでにないマナの歪みを検知。……。不自然な高熱を帯びています」


 セリナの視線の先、雲海を割って現れたのは、巨大な浮遊戦艦であった。

 その艦橋に、あの男がいる。教皇庁総帥、リヒター。五十代半ばの彼は、モニター越しにセリナの機体を見つめていた。


『……見事な羽ばたきだ。セリナ・アルスタイン。……。物理の魔女と蔑まれてなお、これほどの美しさを維持するとはな。……。君という存在は、実に私の好奇心を刺激する』


 リヒターの声は、慈愛に満ちた聖職者のそれでありながら、底知れぬ狂気を孕んでいた。彼はセリナを「物理という未知の異能を操る、類稀なる天才少女」として認識し、高く評価していた。


「……。リヒター。……。久しいな。……。お主の。空には。……。相変わらず。風が。吹いて。おらんわい。……。精霊を。焼く。音しか。聞こえん」


『物理の風など、私には不要だ。……セリナ、君の「理」は確かに強力だが、それは脆い個人の力に過ぎない。見せよう。精霊の魂を直接物理的な推力へと変換する、我が教皇庁の新たな福音を』


 ゴルゴダの周囲から、数機の機甲騎士が飛び出した。

 それは、空力特性を完全に無視した異様な加速を見せた。精霊石を限界まで励起させ、その崩壊エネルギーを推進力に変える「魔法物理ハイブリッド」のプロトタイプ。


「セリナ様、第1小隊、接敵します! ……こいつら、動きが異常です。慣性を無視した急制動を行っています!」


 第1小隊長、レンの声が響く。二十一歳の彼は、卓越した腕で敵の突撃を回避しながら、正確な射撃を叩き込んだ。だが、敵機を覆う厚い魔導障壁が、物理的な弾丸を火花と共に弾き返す。


「……。レン。……。深追いするな。……。奴らは。……。自身の。機体を。焼いて。飛んでおる。……。いつか。自壊する。……。それまで。耐えよ」


「了解、セリナ様。ですが、この重圧。まるで空そのものが牙を剥いているようです」


 レンは「セリナ様」への忠誠を胸に、死地を駆け抜ける。フェイもまた、エグゾスフィアの翼を援護するように、冷静にミサイルの軌道を計算した。


「師匠、敵機のエンジン特性を解析。……魔法で空気抵抗を強引に打ち消していますが、そのせいで機体表面にプラズマが発生しています。一瞬の冷却サイクルを狙えば、障壁を貫通できるはずです」


「……。よし。……。フェイ。……。お主。……。計算が。早く。なったな。……。合わせる。ぞ」


 セリナは、アーク・フェニールⅣ エグゾスフィアの操縦桿を強く握り直した。

 リヒターの「奇跡」という名の暴力が、成層圏の静寂を切り裂いていく。セリナにとって、リヒターの「力による支配」という思想は、かつての戦場で出会ったいかなる独裁者よりも醜悪に感じられた。


『セリナ。君は自分が世界を救っていると思っているのか? ……。君が物理という知恵を与えたことで、人々は神を忘れ、ただの鉄の塊に縋り始めた。……。それは救いではなく、堕落だ。……。私は、君という誤りを正さねばならない』


「……。救う。などと。わしは。一度も。言うておらん。……。わしは。ただ。この空を。正しく。飛びたい。だけじゃ。お主の。ような。嘘の。空を。飛ぶ。輩に。……。わしの。翼は。折れん」


 セリナの機体が、青白い物理パルスの残光を引きながら急上昇した。

 高度二万メートル。空気は希薄になり、漆黒の宇宙が顔を覗かせる。

 物理学が支配する、最も過酷で、最も誠実な領域。


 リヒターの指揮管制の下、ハイブリッド機たちがセリナを包囲しようとするが、セリナはそれらを嘲笑うかのような「純粋な流体力学」の機動のみで回避してみせる。


「……。見せて。やるわい。奇跡うそでは。辿り着けぬ。……。物理の。極致を」


 夕闇に染まる空で、銀色の閃光が躍った。

 それは、失われた過去の英雄の魂と、未来を拓く少女の知恵が融合した、新たな時代の産声であった。

 だが、リヒターの冷徹な笑みは消えていない。


『いいだろう、物理の魔女。……。だが、連帯を説いた君たちが、数千、数万という「個」を失った「群れ」の暴力にどこまで耐えられるか……見極めさせてもらおう』


 リヒターの合図と共に、ゴルゴダの格納庫が開き、無数の小さな光が放たれた。

 それは、次なる絶望――無人機軍団『レムレース』の先遣隊であった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


セリナの愛機『アーク・フェニールⅣ エグゾスフィア』の初陣を描きました。


次回、「無人機軍団、あるいは鋼鉄の蝗」

よろしくお願いします!

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